作家の休日 uno
俺ユカ×「おバカなカネコ。略しておバカネコ!!」
「ヤッフォ───イッッッ!!」
俺は今、日本では無い場所で、叫んでいた。
……え?
今、俺らが何処にいるのかって?
「ローマの休日、作家の休日ぅ!」
そう、ローマ……つまり、イタリア!
俺らは今、イタリアにいまーすっ!
「Ciao, bella signora (こんにちは、綺麗なお嬢さん)」
「Si, qual cosa penes? (あら、なにかしら?)」
「Ti dispiacerebbe se me seduto accanto a? (隣に座っても構いませんか?)」
「Diro, per favore (いいわよ、どうぞ)」
黒崎はさらっとイタリア語を喋って、イタリア人の美女と仲良く話し始めた。
……うーわっ、側から見たらメッチャお似合いな美男美女やんけ!!
黒崎ったらっ、俺の前で堂々と二股なんて!
我、嫉くぞ?嫉妬するぞ?
ホテル帰ったら黒崎が寝てるところに、特大ジャ〜ンピ〜ングするぞ?
「くーろーさーきぃ〜っ! 俺、オレンジジュース!」
「オレンジジュースですか?」
「うん」
「Mi dispiace, egli può ottenere succo d'arancia uno?(すみません、彼にオレンジジュースを1つ頼めますか?)」
「Era consapevole(承知しました)」
店員にイタリア語で注文しながら美女と話す黒崎……なんて様になるんだ……。
それに比べて俺らは……いや、比べるのはやめよ。だって黒崎相手に敵うわけないし!
いや別に気にしてないよ? イタリアの女の子可愛いな、イタリア語喋れる黒崎羨ましーぜっとか、ぜぇんぜん、思ってなんか無いですから〜〜っ?
ん? なんでイタリアに来てんのかって?
そりゃもちろん取材という名の旅行に決まってるじゃないか!
やっと新刊出せたから、取材行ってもいーよ〜って編集長からお許し出たから、お言葉に甘えて1ヶ月イタリアにいるつもりなんだ〜(旅費はどうすんのかって? 世の中にはね、取材費というものが存在するのだよッ、素晴らしい制度だよね! 小日向、感激しちゃうッ!)。
じゅ〜っ、じゅるじゅるじゅる、ちゅぽんっ!
あ〜オレンジジュース美味かったわ〜、ほんっと美味いわ〜、この味マジで神ってるわ〜、果汁100%素敵ぃ〜。
え、嫌味っぽい? いや〜、そんなわけないじゃないっすか! 別にわざと品のない汚ったない飲み方してやったとか、そんなことしてませんよぉぉぉ〜っ? してやったけど。
……だってさ〜、なんかさ〜……暇だしぃぃぃ〜。
とか思ってたら。
うぉっ!
前方に巨乳美少女発見!
よっしゃナンパしてやる!
イタリア語なんて「ちゃぁお」ぐらいしか知らねーけど!
「ちゃ〜おっ! ちゃおちゃおっ! ちゃぁ〜おちゃあ〜おっっ!」
「ん〜? ねーねーユキシロぉっ、なんかカネコにちゃおちゃお言ってくる変なひといるよ〜〜!!!」
巨乳美少女に変な人って言われた、ショックっ!
てかなに、日本語喋れんの?!
「カネコ、それは俗にいうナンパと言うものよ」
巨乳美少女の横にスッと出てきたのは、如何にも私は秀才ですって感じの、巨乳美少女と同い年だろう、“ザ・絶壁” のメガネの女子高校生。
「ナンパ? え、これナンパなのぉっっっ? えっカネコ、イタリアでナンパされんの初めてだよっ!!」
……なんだろ、この巨乳美少女、超天然娘な予感がする……?
「ねぇ変人男はともかくカネコ、あの美青年と美少年のCP萌えるわよ」
あ、今さり気なく俺のことディスったメガネ女子が、黒崎と西坂見て、メガネを一瞬キランッて光らせた。
……まるで、獲物を見つけた肉食獣みたいに。
「えーっっっ?? じゃあ、カネコはどうすればいいのぉぉぉっっっ?」
「ろりぃとでも話しときなさい」
「あっそっかあ! やっぱりユキシロあったまいいねっっっ!! じゃあ、カネコ、ろりぃとマンボウの格好して、お話しするねっっ!」
まんぼう? ろりぃ? ろりぃってなんだろー?
……あれ? なんかこの巨乳美少女、肩にリス乗っけてない?
しかもそのリス、
『(カネコちゃんはボクのものなんだから手ェ出したら容赦しないよ?)』
って目で訴えつつ睨んでくるんだけど!
何このリス、怖いっ!
「や、やっぱなんでもないや! ごめんね! 俺って夢は捨てた現実主義者だしっ!!」
あははっ! ボクっ娘リスちゃんって、怖いんだけどね!
「小日向さん、道端で騒ぐと通行人の迷惑ですよ」
おおっ! 俺の救世主参上っ!
「騒いでないもーんっ! ナンパ失敗しただけだもーんっっ!!」
「連れがすみません。後でよく聞かせて置くので許してやってください」
「黒崎は俺の保護者か?!」
「バカは黙ってください」
「えーっ、小日向泣いちゃうy……グムッ?」
唇を尖らせながら言うと、黒崎に唇をつままれた。
むむむ〜っっっ!?
「むg/.'→♪ん+#$む☆%^:*!」
「マリアのことですか? 彼女ならさっき仕事があるからと帰って行きましたよ」
「@○←$々×#<*€〒〆」
「は? こんな寒い時にジェラートなんか食べたら貴方お腹壊すでしょう」
「……々\|/^@?」
「小さいジェラートでも駄目です」
「〜〜っ、#@○〆+*=!」
「あ゛あ? 誰が、ケチですって?」
「…………なんで黒崎ちゃん、小日向の言ってること分かるねん?」
アフォガート(エスプレッソコーヒーの中にバニラアイスを入れたもの)を片手に、西坂が呆れたように聞いてくる。
そんなの決まってるじゃないか!
「#@+>×:^=°*^々っ!」
「だから何言ってんのかわかんない言うとるやろ」
黒崎の手から逃れて、もう一度言う。
「だ〜か〜ら〜っ、黒崎は俺の嫁だからだって言ったの!」
「……ふん? そうですか」
「そぉそぉ!」
…………あっれれ〜、なんか左手首に違和感が……
バキャァッッッ!!
「痛あああああああッッッッ?!」
ひっ、左手首がっ、左手首が変な方向に曲がりかけたよ、今ッッッ!
「あぁそうだ、西坂さん、近くにカンノーロのお店があるそうですよ」
いや無視かよっ!
何? 小日向、泣いちゃうよ?
真顔でシクシクシクシク…………あ、無視された。
「え、ほんま? カンノーロって、簡単に言ってチーズチョコパイやろっ?」
なぬっ? チョコパイだって?!
「俺も行くーっ!!」
パリパリ、ぱくぱく、サクサクもくもくハフハフ、ばりばりカリカリ、もぐもぐ……
俺と西坂の2人は、専門店のカンノーロを全種類食べて、そして今、店を幾つか渡り歩き、ドルチェを食べている。
美味い……美味すぎるっ!
「…………まだ食べるんですか?」
「え? いや、まだビスコッティもズコットも食べてないよ?」
「……ぇえ……1ヶ月もあるんですから、別に今日、イタリア菓子を全部食べなくても……」
「黒崎ちゃん、おれらアマレッティも食べてへんので? ここで終われへんわ!」
「…………」
「なんだよ黒崎、その不満そうな顔は! イタリアのお菓子って、すっごい美味いんだぞっ!」
「黒崎ちゃんも、食べてみればええんやで! パンダーロとかパネットーネとか、今の季節にピッタリやよ?」
はぁ……と、黒崎は深い溜息をついた。
と、その時。
俺は、ぞくりとする寒気を感じた。
そう……、まるで、誰かに見張られているかのような。
そぉーっと、背後を見る。
…………誰もいない。
でも、なんかやっぱり、寒気が……。
「小日向さん、どうかしましたか?」
「はぁ……俺のこの隠しきれない天才的存在感のせいで、また女を惑わせてしまったのか……」
「は?」
「でも俺は、可愛い子なら誰でもどこでも大歓迎だよ! おいで! 俺の可愛い子猫ちゃん!」
バッと振り向き、両手を広げて叫ぶ!
ひゅるるるる〜……。
……冷たい風が吹いた。
「……小日向さん、もう手がつけられないくらい、ぶっ壊れましたね」
「もともと頭のおかしいイタ〜イ奴やったし、いつか、ぶっ壊れるとは思っとったわ」
「イタリアって精神科ありますかね?」
「あるんやない? おれも調べとくわ」
ヒソヒソと黒崎と西坂が後ろで話しているのがわかる。
ひゅるるるるるる〜……。
吹く風が、酷く冷たい。
それ以上に……周りの目も、冷たい。
…………あー、イタリアの空も、青いんだなぁ。
一方。
カネコ達はというと。
「ねぇろりぃ、なんでカネコとユキシロは、さっきの変な人を追いかけてるのかな〜??」
「萌える……萌えるわ……、美青年と美少年と平凡男、あれは絶対、フラグが立つはずだわっ!」
……小日向達を尾行していたのであった。