恋愛相談
かくして俺はこの部活に強制入部させられたわけだが。
「さあ、控えるわよ。七兵衛」
依頼を受ける時における俺の立ち位置は裏方らしい。会話担当は立花で、この女がインカムで指示を出している。
俺たちは隣の部屋でモニターごしに状況を見ている。
軽くドアがたたかれ、立花が入室を促す。
「失礼するよ。ふっ」
そんなセリフを吐きながら入ってきたのは、伊達 藤次。名前が示す通りの伊達男ーーというかナルシストーー。とても相談に来るキャラじゃないはずだが。
「やあ、伊達君じゃないか。どうしたんだい?」
「恋愛相談さ。ふっ」
恋愛相談だった……。というか、いちいち髪をなびかせないと会話できないのか、こいつは。
「とりあえず、話を聞きなさい」
立花は、その指示に対し小さくうなずくと、伊達と話をつづけた。
※※※
なるほど。伊達君の意見をまとめるとこういうことか。
クラスに気になる子がいるけど、いつも女子グループで話していて話しかけられない。
なにか話すきっかけさえ作れればと思って、ここに来たと。
でも、相手がだれかは恥ずかしいから言えないと。
「なるほどな」
「どうにかならないか、立花」
いつもの口癖も忘れて、真剣に悩んでるんだなぁ。でも、
「相手の名前を教えてくれないかい?」
「いや、それ、なんか、恥ずかしいっていうか……」
この調子だ。これじゃあ話が進まない。
やはり、力を使うしか……
『織田 勝姫よ。話を進めて』
一瞬、伊達君が言ったのかと思ったが違う。
声はインカムから聞こえた。つまり部長たちだ。
「わかったよ。僕たちでできるだけサポートする。だから、連絡先を教えてくれるかな?」
※※※
この女がなぜ、伊達の好きな相手を特定できたのか。それはわからないが、立花の最後のセリフ。嫌な予感がする。
「織田 勝姫さんの連絡先知ってる? 七兵衛」
知らない。そもそも、女の連絡先なんて知らない。スマホに登録されているのは、親父だけだ。
沈黙を知らないということだと思ったのか、
「知らないのね。まあ、最初から七兵衛が知ってるとは思ってなかったわ」
じゃあ、聞くなよ。
だから、女は嫌いだ。
「誰か知ってそうな人はいないの? 七兵衛」
立花、そう言いかけて俺はやめた。あいつはさっき、伊達に連絡先を聞いていた。
普段から話しているやつの連絡先を知らないなら、普段話さないやつの連絡先の知らないだろう。
となると、クラスの情報通・真田 源二か。でも、あいつ情報料とるしな。
「情報屋みたいな人でもいいわ。紹介して」
ちなみに、俺は一言も発していない。なのに会話は進んでいく。
だから、女は嫌いだ。
「クラスに情報通がいる。そいつなら」
「そう。ならその彼のもとに案内して。七兵衛」
※※※