第10話
「ごめんね、ご期待に添えなくて。しかも、選択権なく日本陣営になるけど、いいかな。」
細川先輩は申し訳なさそうに岡さんに言う。
「そ…、そんな…、そんなことないですよーーー!やったー、日本の駆逐艦だー!しかも、あの陽炎型のネームシップだなんて!先輩!ありがとうございます!」
岡さんが元気な女の子ということは入学初日に知っていたが、まさか、あれを超えるランクの大声が出るとは思っていなかった。
「はやく、はやくみなさん乗船しましょう!」
「楓、急ぐ気持ちはわかるけど、乗船はどうしたらいいの?」
「ヘッドセットを着けてから、横の電源ボタンを押せばいいよ、さあ!」
「わ、わかったわ。」
さすがの泉も圧倒されている。
早く乗船しなくては岡さんに何を言われるか分からないことから、俺も泉に続いてヘッドセットを着けることにした。
「ふう、やるしかないな。」
そうつぶやきながら電源ボタンを押すと、一瞬目の前が明るく真っ白になり、眩しさに目を閉じる。
次に目を開けると、アニメで見たことのある宇宙船の艦長席に座っていた。
「すげぇー…。」
「ほんとね。」
ふと横を見ると泉が立っていた。
副官のポジションということか。
「やった、やったぞー!」
艦長席からみて右手の座席には後藤が座っていた。
おそらく通信手の座席なのだろう。
小さい子どものようにはしゃいでいる。
「ひっく…、ぐすん…。」
艦長席の正面の座席からすすり泣く声が聞こえる。
後姿からして女性である。
これだけであそこが何の席かは一目瞭然である。
「……おおっ。」
左手の座席に座る吉川はただ一言だけそう言った。
砲手からはすでにベテランの貫録さえ感じられた。