第9話
ヘッドセットが学校に届くのは1週間後になるとのことから、あの日以来、馴れないながらも平穏な高校生活を俺は営んでいた。
しかし、それも今日までである。
そう、今日ヘッドセットが届くのである。
「今日はヘッドセットが届くので、皆さん、放課後は部室に集まってくださいね。」
今川先生は朝礼でそう言い残して教室を出て行った。
部室というのは、クラブハウスの1部屋に、PCルームからPCを6台移動させた部屋である。
「1クラスの人数は30人もいないのだから、30台もあるPCを6台持って行っても問題ないですよね。」
と校長先生を脅迫…もとい説得して今川先生が調達したものである。
キーンコーンカーンコーン
放課後を伝えるチャイムが鳴る。
ああ、遂に来てしまった。
「家隆、部室に行こう?」
「そうだね。」
そう言って俺は泉と共に部室へと向かうことにした、が。
「ちょっとー、みんなで行こうよー。」
「ごめんなさい、楓。置いて行ってしまって。」
後ろから岡さんを先頭にクラスメイト達がやって来る。
「みんな、ごめんよ。今まで泉以外の人と教室移動とかしたことなくて。」
そう言うと、みんなは優しい目で俺を見つめた。
「宇喜多、これからは俺たちが一緒だぞ。」
「…後藤の言う通りだ。」
後藤君と吉川君はいいやつだ、うん。
そうして、みんなで部室に向かった。
部室に付くと既に今川先生と細川先輩が中に居た。
そして、細川先輩はヘッドセットの接続をしていた。
「細川君、ありがとうね。先生接続とかわからないから。」
「いえ、先生の頼みですから。」
細川先輩の目には光がなかった。
「先生、来ましたよ。」
「あら、艦長さんを先頭に来るなんて、みんなもうそんなに仲良くなったのね。先生はうれしいです。」
「あはは…。」
先ほどのやり取りを知られる訳にはいかないと強く思った。
「先生、接続終わりました。」
「あら、ありがとう。じゃあ早速、譲渡の手続をしましょうか。」
「そうですね。では後輩君たちはPCでアカウントを作ってくれたまえ。」
それからしばらくは作業が続いた。
「先輩、これってここでしかプレイできないんですか?」
「いいや、ヘッドセットとPCがあれば自宅でもできるよ。」
「では、ここのを持ちかえればできるんですね。」
「そうだよ。」
そんなやり取りを泉と細川先輩がしている。
俺はというと、アカウント作成の最終段階、利用規約への同意をクリックしたところであった。
「先輩、アカウントの作成終わりました。」
「お、そうか。じゃあ、艦長さんのアカウントができたことだし、譲渡をしようか。」
「先輩の艦艇って何なんですか!ビスマルクですか!エンタープライズですか!まさかのレウナンとか!」
岡さんが興奮気味に捲くし立てる。
「いや、さすがにそんな艦艇は所持してないよ。僕の船はこいつだよ。」
そういって細川先輩が指差す画面を見る。
―駆逐艦・カゲロウ―
画面にはそう書かれていた。