第五話 話し合いと結果
里長だった筈なんだが、気づいたら里の中で面倒見はいいが余り表立って行動しなかった子に皆を説得しましょうと引っ張られていた。
昔聞いた初代様の奥方のような姿になったのが原因なんだろうか、まだ歩くのに慣れていないからそんな引っ張られると転んでしまいそうになる。
里の会議所では入りきれないだろうと云う事で、広場に集合させましょうと皆を呼びに行ってしまった。
暫くすると皆が集まり、いつもの立ち位置に就くとざわめきが起こった、誰だとか何者だとか里長はどうしたとか騒いでいた。
「皆の者静まってほしい、儂が里長のグレコ・モースじゃ。先ほど彼方におわす神々によって、変異の呪いから解き放たれてこのような姿になったのじゃ」
呪いってなんだや、グレコ・モースって誰やら、里長の名前それだっけ等と誰一人として、まともに聞いていないどころか、儂の名前を知らないものまでいたようだ。
暫く信じられないと此方へ突っかかってきた者たちの、過去の相談事などを耳打ちしてやると皆信じてくれたようで、落ち着きを取り戻すことができた。
「里長!呪いと言ってましたが、我々は皆そうなのですか」
「そうらしい、そして治しても防ぐにはいろいろとした準備が必要との事で、それらすべてを手伝い導いてもいいかとあちらの神々がおっしゃっていた。私は受け入れてもいいとは思うのだが、やはり皆が賛成してからでないと色々と問題が起こりそうでな、なので今皆を集めたというわけじゃ」
そう言ったところで、男性陣は里長よりかっこよくなるかもしれないし、良いんじゃないかなどと言いはじめ騒ぎが起こるる。女性陣は、今一どう成るのかが理解できなくて悩んでいるようだ。
レグア・ニーアは何処に行ったんだ、女性の場合どうなるのかを見せるにはア奴が一番だというのに、皆を集めてくると言ってから、皆はそろったというのにまだ戻ってきていない。
暫くすると、集団の後ろの方から徐々に一か所が開き道が出来騒がしくなってくる。そちらを見やるとレグア・ニーアがやっと来たようだ。
なるほど、腰に巻いていた布を縫い合わせて脱げないようにしていた。
先ほど歩いていた時も解けそうになり中々に苦労していたように見えたが、我慢できなくなったのだろう。
「里長お待たせ、結局どうなってるの男性だけやけに盛り上がってるけど」
お前が来ないからどうなるのかわからなくて女性陣は悩んでいたんだよ。と、言ってやりたかったが拳を握りしめて震えさせるだけで堪えておいた。
「レグアよ遅かったではないか、女性陣の説得は頼んだぞ」
あれがレグアかよや、レグアさんがあれなら私もなってみるのもいいかしら等とざわめきが又おこる。
ちょっと説得頑張りますというと、おもむろに皆の前で手を挙げた。
「女性のみなさんはこちらに集まってくださいー」
そういうと、男性陣とは別の方に向かって移動していき、しばらくそこで話し合いを行うと各自家へと戻っていきレグアだけ戻ってきた。
「ほかの皆はどうしたのだ、家に帰ってしまったようだが」
そう問いただすと、ああ皆さん受け入れるつもりの様で、そのほら新調のビルとスカートがですね短くなりすぎて下着がとしどろもどろに成りながら答えてくれた。なるほど確かにそれは困りそうだといえる。
結局のところ男性陣も女性陣も皆受け入れる事にした、ただし何をやるかは、一部のものを除いてほぼ全く分かってないようではあったが…今更だが世界言語とやらは里全体にいきわたっていたようで、皆普通に使いこなしていたし、世界言語に切り替わったこと自体に気付いたものは居なかったようだ。
「では、受け入れる方向であることを伝えて来るぞ」
そういうと皆から歓声が上がった、自分たちが美しくなる事や恋人や妻の変貌に思いをはせて。
儂とレグアは、神々冬夜様と詩歌様の元へと戻っていった。
「神々よ我々の話し合いの結果「とーやぁ、しぃかぁ皆賛成だって言ってるからぱっぱとやっちゃって良いらしいよー」…お前は敬いというものを知らんのか」
叩こうとしたら冬夜に止められた、元々只の人がちょっとしたきっかけで成ったものだから下手に敬われるより、気楽に接してほしいと頼まれてしまった。
「では皆の前で直接説明させてもらおうか、でもその前に詩歌さんや、やってしまった方がいいかもしれんね」
「そーだね、皆の前に行って一か所に集まってもらってドーンとやってしまいますか、加減もわかってきたし、まとめてでも失敗はない!」
では此方へと、里長が先ほど立っていたところへと案内され皆に紹介された。
「どーも、森の守り人の皆さんトーヤデス」
「こんにちはー皆のアイドルしーかちゃんです」
全員があっけにとられ静まり返った後、一部では大爆笑が起こった。
「では早速、みんなもうちょっと集まってねー一気に行くよーもし倒れそうになったら周りの人が支えてフォローしてあげてください」
そういうと、集まった者たちの周囲を包み込むように光のドームが現れる。外から見るとまぶしくて中はどうなっているのかがわからない。
「では、ぐっとしてーキラッ!」
ドームが徐々に縮んでいき中の里の民が出てくるとみな、呪いにかかる前の幼児になっていた。
その状況に皆驚き慌てるも、ドームが中心部まで来たときにまばゆい光に包まれたかと思えば、一部を除いたほぼ全員が里長やレグアの様になっていた。
一部というのは、幼児体系のまま変わらなかったものや、全裸でマッシブな体系になった者ちょっとふっくらし過ぎて危ないレベルの者などがいたからだ。
その状況に詩歌はうんうんと頷くと、満足したようにどうすごいでしょーブイブイとブイサインをしていた。
「まあ一部の者は、悲しみを背負う結果となってしまったようだが、皆生きてるし今後何とかすればいいだろうから、問題はないようで何よりじゃ」
メタボった方は、周りの意見を聞く限り元々運動不足もあり、食事制限が必要な方だったようで、問題はないとされた。
幼児体系の方は女性だったのだが、これはこれでアリねと嬉しそうにしていたので気にしない方向になった。
全裸マッシブさんに関しては、レグアが慌てて家からシーツを持ってきて腰に巻いてもらい、ひとまずは誤魔化したが、身長が3メートルほどになっていたし、腕の太さも幼児体系の方の胴並みにあった。
正直に言えば、ファンタジーノベルなどで見る巨人族並みのサイズとなっている。
力も見た目通りかそれ以上あるらしく、試しにと詩歌さんが空間から取り出した、詩歌さんより大きい斧を渡してみれば、片手で楽々と振るっていた。
本人自体は、気性は穏やかで問題はなさそうだったのと、普段から皆の家を建てる際の木材調達を一任されていた樵だったことが影響していたようで、これでもっと皆のために木が伐れると言っていた。
恋人や、夫婦だったものたちは、その場でお互いを見て気に入ったのかイチャイチャし始めていた。
「皆のもの落ち着いて聞いてくれ、これから大事な話がある」
里長がそういうと、皆そちらの方へと集中した。
「冬夜様お願いいたします」
「グレコさん様はやめてくれって言ったんだけどな」
そう言って、後頭部を掻きながら皆の方へと向き直すと話し始める。
受け入れてくれたことへのお礼と、これからやる一時しのぎの結界を張る作業、本結界を張るための準備と稼働、続きはそれらが済んでからという事でいったんここで区切った。
皆大きくなって服装にいろいろと問題が出ているようなので、それらを解決するために戻ってもらい、その間に仮結界を張って本結界をどう構築するかを考える事とした。
詩歌さんは、レグアと一緒に女性陣の服を何とかしてくると言って行ってしまったので、ここに今残っているのは一人、寂しいのでさっさと仮結界はって本結界をどうするかをアカレ子さんと相談することにした。
『独りぼっちが詰まらないからって、今まで放置しておいて酷いですね』
ずっと状況を把握して居たらしい、よく考えてみればこの世のすべてを司るアカシックレコードなんだからそれも当たり前であった。
『そのことを忘れられてしまうとものすごく悲しいのですが』
順調に感情は育っているようである。良きかな良きかな等と思いつつも、本結界をどのように構築するかを相談してみた。