木工職人、金の卵を産む!の巻
おひさ
45:23:19
「とは言え実はぁ、防具、売れないんだよねぇ…。僕は生産職の中でも木工の細工物がメインだからぁ、強化した『ひのきのスティック』ならと思ってたんだけどぉ。」
おいおい。
さっきお前、
「あるにはあるが……正直薦められねぇな。ありゃあ今まで誰も使い熟せずにずっと倉庫に投げ入れたまんまでな。もっと剣とか槍とか、お前ぐらいの年のガキならそっちの方を欲しがるのが普通なんだがなぁ…。まぁいいや、それでも欲しいってんならこっちとしても不良在庫が片付く訳だからな、かなり安く出来るぜ。坊主、今お前どのくらい持ってやがる?…ん、まぁ駆け出しならそんなもんか。需要が無いってだけで元が良いもんだからな、有り金全部貰うぞ?手入れ用のボロ布と砥石、油をセットに付けて、その値段で売ってやる。なぁに、大丈夫だ。手入れの仕方も俺が直々に教えてやるさ。…そいつ、大事にしてやってくれよな…頑張れよ、坊主。」
みたいな事言ってなかったか?おい!
王道ラノベ展開期待しちゃったじゃねぇか!
結局持ってねぇんだったら最初に言わんかーい!!
俺はもう
「まさか、市井に埋もれ、誰も使い熟すことが出来なかったあの武器が、伝説に謡われる神造武器だったとは…!」
ってとこまで妄想してたんだぞ!!どうしてくれる!
「まぁ~、木工の防具ぅ、あんまし人気ないからねぇ。作ってないんだなぁ、これがぁ。作ろうと思えば作れるけどぉ、あんまし良い性能にはならないと思うよぉ?素材って結局ぅ、ひのきのスティックだしぃ?」
曰く、生産物はかなりプレイヤーの創意工夫が反映されるらしい。その為、色々とプレイヤーは個々に色々試したりなんだりして、プレイヤーメイドのアイテムは同じ名前でも作成者によって性能がかなり変わるとの事。そしてそのノウハウは基本的に秘密にするのがベター。せっかく生産職としての個性があるってのにわざわざさらす馬鹿もいねぇわな。
現時点で町に点在するフリーマーケットでは既に多種多様な物で溢れていて、購買者側からすると一種の掘り出し物を探す、ちょっとした宝探しじみた環境になっているらしい。
なんだそれちょっと楽しそうだな…。俺も懐に余裕があれば行ってみるか。
そういえば俺、普通のNPC店行けねぇんだったな!!ガハハ!!
そっか俺は今後もフリマにお世話になるっきゃないのかー!!
クソがッ!!!
で、問題の木製防具についてなんでが。
木製防具ってのは現時点で手に入る木材…つまりヒノキの棒を寄せ集めた物しか作れないから、革製品に性能負けしてる。試しに作ったりする奴も居るには居るっぽいが、集めて鳴子みたいなうるせぇ帷子くらいしか作れないらしい。需要ないから木工職人の誰も作ってないんだと。しかも材料は耐久値∞なのに加工したら激ショボ耐久値になるんだと。
ま、要するにピンカートンは防具に関するノウハウ持ってないうえ、現時点で使える木工の材料が『ひのきのスティック』しかないもんだからショボいのしか作れないって訳だ。
うーん、この…。
「んじゃあ例えばどんな物作ってんの?木工って言ってたけど。」
「そりゃまぁ木工は木工さぁ。色々あるけどぉ、自信作は木を削って作ったお守りかなぁ。」
ほほぅ?お守りとな?
自信作って事はただのキーホルダーってわけじゃあないんだろ?
「例えばぁ…ほらぁ、こういうのさぁ。『木彫りウサギのアミュレットォ』、かぁいいでしょぉ?戦闘の前に身に付けておくと戦闘中に使用出来てぇ、3秒間敏捷値がちょびぃぃっとだけ上がるよぉ。ちなみに消費アイテムだから気を付けてねぇ?」
はぁいこれぇ、と俺の手に載せられたのは辛うじてウサギかな?と分かる木彫りの人形。5cm程の大きさで、首に紐が巻き付いてぶら下げられるようになっている。
…いやいや、他にぶら下げる方法なかったんですかねぇ?首吊りウサギのストラップとか不吉が過ぎない?こんなん付けてたらやばい奴になるじゃねぇか。
しかも『木彫りウサギのアミュレットォ』ってアイテム名までお前の胡散臭さが染みついてんぞ!なんで最後んとこ間延びしてんだよ。どうなってんのゲームシステム。デフォルトの名前がつく訳じゃねぇのか…?
おいまさかプレイヤーの能力が反映されるってこれ?俺はもっと性能とか別の所で個性出して欲しかった。運営さん頑張るとこ間違えてますよ。
……ん?ていうかコイツ、さっきなんて言った?
消耗品のバフアイテム?
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『木彫りウサギのアミュレットォ』
≪種別≫アクセサリー
装備しておくと戦闘中に使用出来る。3秒間敏捷地がほんの少し上がる。
作成者:ピンカートン
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……ハァッ!?
おいおい、なんだ?
こいつ金のなる木か何かか?
もしくは金の卵を産む鶏?。
「………なぁ、ピンカートンくん。」
「なぁにぃー、アークくん?」
「お金、たくさんあったら嬉しいよなぁ?」
「うん?まぁ…お金があったら、新しい素材とか見つかった時に気軽に試せるだろうしぃ、何かと便利だろうねぇ。」
俺の予想が、想像が正しいのなら……。
「俺と一山当てる気、ない?」