18歳までにリア充になれなければ死刑になる世界のお話
こういう無駄遣いも良い
ついに、この年になってしまった。
太郎は17になる。美男と言うには若干無理があるかもしれないが、中々自分の顔は悪くない、だろうと思っている。そうでなくても、明るい性格なので女の子の眼からは少なからず補正がかかっている、はずだと信じたいと思っている。高校生に成ったのは丁度去年の今頃であろう。雲1つない青い空、門を彩る薄いピンクの桜。田舎育ちで上京してきた太郎には、新しく通う事になった高校が一際大きく感じられたのだった。
あの入学式1日目は進○○ミから送られてくる小冊子に勝らずとも劣らない程に青い春であった。これまで通ってきた全員が家族だった様な小・中学校から一歩足を踏み出し、多くの新しい友人を築き上げる。そう思うだけで胸は速り、心臓が外に出たいと脈を打つのだった。
そして、人並み以上の青春を送る必要が太郎にはあった。
それがこの国の法律にある。
少子高齢化対策、いかなる政策に踏み切っても効果は芳しくなかった。
著しい女性の社会進出は女性らに
「あれ?これ男と結婚しなくてよくね?私達仕事楽しいんで」
と思わせるのに十二分な効果を発揮した。
また島国故に内包的に閉ざされた男達は異常に偏った性癖が発達し、全国的に女性らから白い眼で見られることとなった。そうでなくても、画面の中に真実の愛を見いだした先人達は届かない子種を泣く泣く炭素繊維の中に命の無駄遣いするのだった。それは、女性らにも言える事であった。女性は何が楽しくて男性と男性のむさ苦しいアレコレを神秘なものとしてしまったのだろう。男達は白い眼さえ向ければ、ジジ抜きのペアに引っこ抜かれてしまうと嘆いて、女性を見る事すら止めた。
日本国は空前の両生類ブームであった。両方の性別は同じ類いに人間である事の略字言葉と、語感的に結婚出来なさそうな臭いがする事からそう言われている。
かような事で日本がマジで崩壊する5秒前と言う危機の中、1つの結論が出た。
「これらの原因に実践的な恋愛不足が挙げられる」
と。
政府はあの手この手で国民にマタタビを捧げた。
毎週月曜日は女性のスカートは膝小僧より上、男性は二の腕の見えるタンクトップの着用の義務。
毎月15日は下着の着用を厳禁とする。
もちろん、これらは全世界から莫大な批判と熱烈な声援の元お蔵入りとなった。
そうして、第二次政策として少女漫画、少年漫画における同性愛的、又は一般的に異常とされる性癖を促進させるシーンの黒塗り教科書化。
週間○ンプ、ヤング○ンプ、ビジネス○ンプなど有名な少年誌には過半数以上のラブコメを載せる事が義務づけられ、恋愛漫画は全て非課税というみょうちくりんな法律も作られた。
そうこうする中、社内恋愛促進法により社内結婚を促進させ、また一定数のカップルの居る企業は法人税を免除されていたのだが、1つ問題が起きた。
「社内で恋愛すると人間関係の泥沼化が激しい」
事例として振られた男達が「恋愛を捨てし我が身は今ひとたびの正義漢也り」とネクタイを頭に巻いた状態で、企業の秘密を1つ残さず大きな声で触れ回った挙げ句「職場に恋愛を持ち込むでない」と騒ぎを止めにかかった警官の命より大事な家族の写真入りのペンダントを飲み込んだのが挙げられる。命より大事なペンダントを持って行かれた警官は一晩微弱な振動を続け、翌日には家族と新しくプリクラで撮った写真の入ったペンダントを職場に持ってきたとされている。
あちらが勃てば、経済が立たず。これでは本末転倒ではないかと政府は頭を悩ませた。
そして、1つの答えを出す。彼らは順風満帆な生活を歩んだエリートであることを今一度ここに明記しておく。彼らには普通が分からない。
「18歳までには人は一度ならず何度も恋をするであろう。
そうして、恋人となるのも自然の摂理である。18までに恋人の出来ない人間はその後異常な性癖ないしは同性愛に目覚め、それは死ぬまで治らない。
子孫の残せない彼らは生物的に死んでいるのと変わらないのである。なら、18歳までに一度も異性の彼氏もしくは彼女の出来ない人間は一思いに死刑にしてしまおう。
なんら心配はない、私達ですら小学生の頃には恋人の1つや2つ。今では恋ではなく、愛に生きる“愛人”ではあるがな。あははははh」
こんな事になってしまったのだ。
カップルとなったものは役所に「恋愛届け」を提出する。政府が国民の恋愛事情を管理するのだ。
早過ぎる別れの場合は政府からなんらかの懲罰がくだされるし、「仲直り届け 第1項目彼の好きな所を10個挙げなさい……」などと遠回しに(と言うには堂々とし過ぎだが)復縁を迫ることもある。(これもNTRなる、異常な性癖の防止策であった)
酷い時には倦怠期のカップルに「あなたと恋人の相性は……」などと、あるのも否定的な前世を根拠とした相性度が送られてくる。100%以外の数字を見た事がないともっぱらの噂である。
こうすることで、健全な恋愛に国民を導くのである。
その結果として少子高齢化は見る見るうちに改善され、異常とされていた性癖も見る事はほとんどなかった。
中学生までの間にカップルになった人の割合は脅威の99.9%を記録し、変態国家としての汚名はなくなり花畑国家として世界に名を知らしめた。
世はまさに恋愛時代。
世界がそう浮かれている中、1人太郎だけは憂鬱であった。
前述の通り彼は田舎育ちである、だが、しかし恵まれた事に男女比は異例の約1:1であった。
約と言うのは、つまり男子が1人多いのである、そして、その1人が彼である。
彼はペアにあぶれてしまった。
元来明るい性格であった彼は、誰々が○○が好きと聞くと
「おう、任せとけ!俺がお膳立てしてやらぁ」
と自分そっちのけで人の恋愛に一途になり、その挙げ句好きだった女の子に
「あなたは○○ばかり見てるわね」
などと、勘違いをさせられたのであった。
そうこうしてるうちに17である。
高校1年の時は
「いまは高校になれることが先決!。何事も基礎が大事だし、まずは男友達が欲しいしな」
そうやって男だらけの春を謳歌してきた、けど、しかし
「これはまずいよな…」
今日も今日とて女子と話せずに居た。
都会のおなごは金属製とはおじちゃんから言われていたが、まさかここまでとは思わなかった。
話そうとすると腹痛になる、都会では超能力が流行っているかもしれない。
「そう?普通に話すよ」
と話していたイケメンの友達ですら現実世界で話している所を見ない。
「そりゃあ、みんなの前だしね。携帯で話して、デートでイチャイチャみたいなね」
高2の夏、青春の夏、田舎育ちの太郎は文明の利器『携帯』なしで最後の1年をどう過ごすのか。
それは波乱万丈かもしれない、前途多難かもしれない。もしくは味気ないものかもしれない(後者はあなた方なら十分理解して頂けると思う)
そうした物語の最初から最後までを語るのはあさましい事であろう。
ただ、最後に1つ言っておく、死ぬ気で生きる人間に世界は少し優しい
面白い程話進んでないでしょう?
続きはあなた自身の人生で描いてくれていいんですよ