第3章 す・べ・て・は私のためにあるの (2)
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俺達はヒノモトに戻ると早速、ことの顛末を国王に報告に行った。ヒノモトの物資を一時凍結させるためだ。これから、砂糖を中心に物資の流出が始り、ヤマトに流れ込むことでヒノモトの物価に顕著な影響を与えるのは、必至だったからだ。
「それは早急に一時的に重い関税を掛けることで流出を止めることにしよう。ごくろうだった。
なにか、褒美をとらせようと思うのだが、何がいいか?」
「そうですね。では、ルル王女の自由を頂きたく、これから同行していただくことも多かろうと思いますぞ。王族としてのシガラミに縛られては困りますので・・・。」
「あいわかった。王女ルルには、継承権を放棄、仮であったが他国の許婚との婚約も破棄、以降は、サキ様の隷属として仕えることを承知させます。これでよろしいですか?」
まあ、奴隷にする必要は無いがそこまでしないと仕えるだけでは褒美にならないのだろう。
「はい、ありがとうございます。大切に扱います。」
「他に、侯爵の地位と西方の直轄地を分け与える。ヤマトとのクッション役を期待しておる。」
「はい、ありがたく、お受け致します。」
どうやら、国王は、俺が重臣達や貴族達に『淫夢』を掛けさせられていたことに、心を痛めておられたようだ。今回の褒美にかこつけて、貴族の中でも高位に当たる侯爵の地位を与えてくださったようだ。
王女に付き従っていた貴族達はすべて、俺の侯爵家の傘下に入り、領地の運営も彼らに任せた。実際には、俺達が異世界に戻るときには、王女がすべてを引き継ぐ目論見もあるのだろう。
普通は王女に直接領地を分け与えるなんてことは無いといっていいのだろう。きっと、召喚をこなした王女への褒美でもあるのではと推察できた。
この土地は緑豊かな土地でもあり、俺を聖女と慕うヤマトの人々が大挙して押しかけてきているという。不毛の大地となったヤマトの土地を捨て、開拓資金も自分持ちで押しかけてくるのでは、断る必要はないであろう。未開拓な土地は沢山あるのだ。
・・・・・・
そんな平和は長くは続かない。今度はヒノモトの南部に、魔族の支配地域の南を統括するパイモンが海から上陸したという情報が伝えられたのだ。
ヒノモトの南部は台風の影響で度々塩害を被っているため、なかなか開拓が進まない土地ということもあり、兵力はほとんど投入されておらず、そんな一種の空白地帯に敵が上陸してきたのだ。
ヒノモトの南部から首都のある北部にかけては、広大な平原広がっており、現時点の食料の主要生産拠点でもあるので、ここでは、極力、『チームハイドレインライフ』は使わないようにしなくてはならない。出来れば、南部だけで足止めしたいものだ。
即刻、俺達の仲間と中部と南部を拠点とした貴族を中心に兵力が集められた。もちろん、ヤマトにも応援を要請している。
それに、アマイモンにも連絡を入れ、物資の大量買付けを行い、魔族の支配地域の南からの長期間に渡る物資の供給を邪魔するように伝えてある。元々、アマイモンが戦に破れたことで、北の物資が足らないこともあって、大量に買い付けしても邪魔をしているとは、思われていないようだった。
まず、俺と仲間の勇者は、密かに海側から近づき、海から物資を供給している船団を強襲した。船底で推進力として、人族を奴隷にして居たのが恨めに出た、各船に取り付き、数名の人族に『魅了』と『パニック』により、船底に穴を開けることを強要したのだ。
魔法耐性の無い人族であるためか、それとも精神力が失われていたのか、ほとんど自殺行為であるその行為は誰に止められることもなく実行されていく。
もしかすると、彼らは敵に道具として、人族を害することに加担させられるより、死んでいくことを選んだに過ぎなかったのかもしれない。
たとえ、強力な魔族とはいえ、船底に穴を開けられては海の藻屑になるしかない。1隻、また1隻と船が消えていく、陸に居たパイモンが気付いたときには、岸壁に横付けされた3隻の船を除き、全ての船が消えた後だった。
結局、上陸した魔族は、奴隷に推進力を強要したがために多くの物資と多くの仲間を失なったのだ。
自暴自棄になった、パイモンは俺達の敵ではなかった。貴族を中心とした構成、もちろん『魅了』で親密度が上げてあるので、『チームドレインライフ』も十分効果がある状態下で、元々塩害でなにも育たない土地に対して、大地の生命力を吸収しても問題があろうはずもなく、魔族はその数を減らしていく。
結局、最後には、貴族を中心とした重騎士達がパイモンを取り押さえ、俺が『魅了』で従属を誓わせた。これで、4大魔族の内、2つを押さえたことになる。これでしばらくは、平和がやってくるだろうが、その2つの本国の制圧をまだ果たしていないため、まずは、それを最優先で実行する必要があるだろう。