第3章 す・べ・て・は私のためにあるの (1)
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隣国であるヤマトに4大魔族の1人であるアマイモンが現れたという情報が駆け巡った。レイ達勇者と隣国の兵士達が戦っているが、徐々に押されているという。
このまま、隣国の蹂躙を許してしまえば、次の標的はあきらかにヒノモトであろうことから、レイ達と共同で戦線を覆すために、今、ヤマトでの戦闘に加わるため、ヤマト国王の許可を得るために王宮に向かうところだ。
ルル王女の転送能力で、王宮に直接赴いた。
「それでは、どのような、犠牲を出してもいいから、王宮を死守せよと仰るのですね。」
こちらの王は、豚のように太った国王で、ヒノモトの国王のように、常に感情を制御できるタイプではないらしく。舐めるようなイヤらしい視線で欲望や感情を露骨に現すタイプのようだ。
謁見の間であるにも関わらず、わざわざ、こちらに近寄ってきて、ガン見までし始める始末だ。まあ、男ならモロ乳首がはみ出しそうなマイクロビキニを真近で見たいという欲求はわからないではないが・・・。それを平然とできる人物に出会ったのは初めてだ。
「わかりました。では、戦線に赴きますぞ。」
俺はその視線を避けるように、さっさと逃げ出すことにした。
しかし、相手も曲者。そうは問屋がおろしてくれないらしい。
「貴国の重臣達が受けているという秘術をわしも、受けてみたいものだ!今晩はここに泊まっていけ!」
どこから広まったのか、その国家機密に属するといっていいほどの情報が漏れているようだ。ここまできて、『淫夢』なんかやってられるか。
「いえ、あの秘術には、命の危険が伴いますので、ヤマトの生命線といってもいい御方のお命を晒すわけには、いきませんぞ。ご勘弁頂きたく・・・ご容赦願いますぞ。」
俺がそういうと、周りの重臣達が集まってきて国王を説得してくれた。
・・・・・・・
王宮前で待っていた俺の仲間であるサカリ、ジュウト、ヤルと共に、一足先に戻ってきていたデスラーを先頭に戦線に向かっている。戦線に綻びがあるのか、時折、オークやゴブリンを見かけ、その度に殲滅していった。戦闘は主にデスラーとその部下が請け負ってくれた。時折、俺が『チームドレインライフ』を掛けて、回復支援するだけだ。
国王には、どのような犠牲をだしてもいいとお墨付きを貰っているので、ヤマトの国土の一部を不毛の大地に変えてでも、デスラー達を回復している。消費MPは1というとても効率的で広範囲にかけられるスキルなのだ。いつも使っている『チームヒーリング』は消費MPが多く、俺の仲間達4人だけを対象とするスキルなので、この場合適当では無いだろう。
まあ、できるだけ畑では、使わないように心がけた。さすがにヤマトの国民を飢え死にさせては、ヒノモトにどんな影響があるかわからないからだ。
こうして、戦線で綻びがあり、オークやゴブリンが現れた場所を隈なく回り、殲滅していった。
「ここは!」
「ここが最前線です。あちらで、レイ達勇者とアマイモンが戦っております。」
「こんな、畑のど真ん中で戦っておるのか?」
「ええ、なぜか、アマイモンはこういった芋畑で戦うのを好むようです。アマイモンは4大魔族では、北の大地を支配している魔族で、何分情報が不足しておりまして、なぜ、このようなところで戦うのを好むのか、皆目わかりません。」
「この芋は、ヤマトの国民の主食か?」
「いえ、この芋は内包する糖分が多く、ここから砂糖を精製しております。嗜好品といったところでしょうか。」
ならば、この芋畑が消滅しても大丈夫そうだな。ヒノモトでは、砂糖は別の植物から取っていると聞いた覚えがある。
・・・・・・・
俺達が、レイ達ヤマト国の勇者と最前線で戦っている右軍の将軍と左軍の将軍が率いる兵士達が数をできるだけ減らさないように、前線組と休憩組に分けて、順繰りに兵士を輩出しているのだが、休憩組の魔術師による回復も、魔力切れ寸前という有様であった。
「レイ、よく頑張った。一気に盛り返すぞ!」
「ほう、サキュバスが人族についたか、たかだかサキュバスがこの戦線をひっくり返すというのか。笑わすでないわ。この4大魔族のアマイモンの力を知らぬわけではあるまい!」
いやー、この世界のサキュバスと同じにされても・・・。俺は前線にいる兵士達に向かって『魅了』をかけつつ、どうやって、この戦線を乗り切るかを考えていた。ちなみに、兵士の前には魔法障壁が掛けてあるが、後方にはないので、簡単に俺の『魅了』により、親密度が上がっていく。
「まずは、小手調べじゃ、こやつらに勝てるかな?アスモ行け!」
前線に出てきたのは、牛・人・羊の頭を持った巨大な獣人のような魔族だった。小型の竜を使役しているらしい。その間にも最大の効果を上げるために『魅了』を掛けつづけることは止めない。
アスモがブレスのモーションを使ってきたので、魔法障壁に魔力を注入する。アスモが使ったブレスは、周りの芋畑を焼くだけに留まった。
「アスモなにをしている、大切な芋畑を焼いてどうする!」
なにやら、アマイモンがアスモに向かって怒鳴っている。なにやってんだこいつら。
・・・そうか、アマイモンは、甘い芋から、生命力を吸収している?だから、ここを戦いの場に選んだ?だから、アスモが芋畑を焼いたから怒ったのか?ならば、戦線をひっくり返すのは容易だ。その生命線を取り上げればいいのだから・・・。
よし、ヤマトの兵士達の親密度はMAXに達した。俺はこの大地に向かって『チームドレインライフ』の上を行く『チームハイドレインライフ』を放った。
半径10KMの大地の生命力を一気に吸い取り、この場にいる兵士達に均等割りで回復させた。これで、この大地は数十年不毛の大地と成り果てるだろう。もちろん、その上に植わっていた芋畑は一瞬にして枯れてしまった。
「ぎゃあ、なにをしやがる、サキュバスめ。大切な芋達が・・・。仕方が無い、場所を移動する。」
アマイモンは、20KM離れた芋畑に移動していた。しかし、やることはいっしょだ。移動するたびに、芋畑が消滅していくだけだ。
アマイモンは移動するだけでも、MPを消費するためか、直ぐには攻撃してこず、芋を掘り出すことに専念しているため、こちらが追いつくのは容易だ。攻撃のほとんどは、アスモ達アマイモンの部下が担っていた。
時間的余裕ができてきたので、アスモの牛頭に『ハイパワーパニック』を放つ、アスモの人頭と牛頭が同士打ちをしている。羊頭は人頭のさらに後方にいるため、手を出せないようだ。
他の魔族は兵士達に任せてある。最終的には『チームハイドレインライフ』を放つことで、兵士はほとんど減らないが、魔族のほうは、どんどん数を減らしていった。
そして、『チームハイドレインライフ』を放つとアマイモンが前線の場所を変えるという繰り返しだ。
ヤマト国の周囲にあった、広大な芋畑はすべて消滅し、今戦っている場所を残すのみとなった。アマイモンも度重なる移動で身体を維持できなくなったのか、人間サイズまで小さくなっていた。
今、アマイモンと俺とは、最後の決戦で、『魅了』の掛け合いをしている。どちらがどちらの従属となるか、それによっては、再度の戦況の盛り返しも可能であろうという目論見なのだろう。
だが、それは『魅了』を得意とするサキュバス相手には、悪手と言っていい手だ。ましてや、MPが枯渇しだしている状態では、魔法障壁をも作り出せないであろう。あっさりと、アマイモンはこちらの手に落ちた。それにより、魔族の法則により、強者に従属されることで、アマイモンの部下達もすべて、俺に従属した。もちろん、すべての魔族が従順に命令に応じるとはかぎらないので、『魅了』で完全な従属を手に入れておくことも忘れない。
「よし、お前達は本国に戻り、魔族の情報を送ってくるのだ。頼んだぞ!」
俺は最後に残った芋畑をも『チームハイドレインライフ』の犠牲にして、従属した彼らに最低限の回復を施し、放してやった。
・・・・・・・
4大魔族の1人アマイモンに勝った俺達は、ヤマト国民の盛大な歓迎の渦中にあった。全国民の賛成により、この国の聖女に祭り上げられた為、サキュバスだと表向きにさげずむ人達も一掃されたようだ。
もうこの国の重臣からも『淫夢』の依頼などできまい。そんなことがバレたならば、この国の国王のように、すべての権利を剥奪されるであろう。
そう、ある重臣が、あのときの顛末をすべて、国民に対して、バラしてしまったところ、一瞬にして軍を中心としたクーデターが発生したことで、バラした重臣以外の重臣共々、抹殺されてしまったのだ。まあ、男達からの欲望交じりの視線はあいかわらずだったが・・・。