出会い
長女は暗い顔をしていた。
父に対しての今までの態度を悔いている事もあったが・・・
それよりも頭を悩ませる自体が迫ってきていたからだ。
「どうすればいいのかしら・・・」
「家に帰ってきても・・・私が看れるって。自信がないし・・・」
「ここに居させてもらうわけには行かないのかしら?」
2週間後には今いる老人ホームを出て行かなくてはいけない!
「もう少し待って欲しい!」
施設長にも理事長(院長)にもお願いした・・・応えはNO。
どうやら病院に入院していた時の対応や説明不足に不満を言った事が
おおいに関係しているらしい。
「私が余計な事を言ったから?」
なんともやりきれない気持ちになる。
追い出されると。
家に帰るか、他の老人ホーム(老人保健施設)に行くか、
特別養護老人ホームに行くか、
有料老人ホームに入れられるお金は無い・・・
特別養護老人ホームは申し込んでいるが、待機者が多いこと、自宅でも不可能でない事が理由で順番は回ってきそうもない。
誰に相談すればいいのか・・・
市役所にも行った。ケアマネにも相談した。
「皆、家で見てはどうか?」と簡単に言う。
けれど、家でどうすればいいのか?何をすればいいのか?誰も教えてくれない。
夫に先立たれ、3人の子供は自立している為
お父さんが倒れてからは1人暮らし。
妹は地方に嫁に行っているからとても助けてもらえるわけもない。
「私1人で看れるの?」そんな疑問が頭から離れない。
お父さんの部屋に入るのに笑顔を作っていると後ろから声を掛けられた。
「こんにちは~♪」
いつも良くしてくれる、父の症状も教えてくれた若い介護士さん。
わらをも掴む思いで相談してみた。
すると!!
いつもニコニコの彼女の顔が曇った。
「あのー・・・ですね・・・」
「あー!どうしよう!・・・あのー。」
「ナイショにできます?」
「は・はい!出来ます!します!」何かはわからないが約束してしまった。
「私。もうすぐ辞めるんです。ここ!」
「え?なんで?」
「理由は一身上の都合なんですけど・・・」
「本当は引き抜きです。」
「え~~~~~~~!」おもわず大きな声を出し、彼女にシーとされた。
「誰も知りませんから。絶対に言わないで下さい。」
「はい、言いませんよ!けど、なんでそんな大事な事を私に?・・・」
「そこなんです。」
「私が行く所なんですけど・・・宅老所なんです。」
「??宅老所?って何ですか?」
「今は時間がないのであまり詳しくは説明できないですけど。
訪問、通い、泊り、入所を総合的に看る施設って感じですかね。しかも小規模!」
「え?うちの父も入れるんですか?」
「うーーん・・・それは・・・簡単にはいかないと思います。」
「けど、一度そこの代表に会ってみませんか?私を引き抜いた人です。」
「変わり者ですけどいい人ですから。話をするだけでも無駄じゃないと思いますよ。」
「ええ。是非お願いします。なるべく早くに」
「解りました。今連絡を取ってみるので、どうぞお父さんの所でお待ち下さい。」
「あ。くれぐれも!」
「ナイショ!!ですね。解りました。」
彼女と別れ父の部屋へ・・・
今は作り笑いではなく自然に微笑んでいると思う。
まだ何も決まっていない!けれど、何か良い方向に進みそう!そんな気がする。
(あの子に任せれば・・・)
そんな気にさせてくれる。なんとも魅力のある人だ。
お父さんのお気に入り!!
(あからさまに大好きな態度をとる父を見てちょっとやきもちを焼いていたのかもしれない!)
ドアを勢い良く開け!!
「お父さんは。見る目があるわね~~」いきなり言ってやった!
@・。、・;」@?
驚いた顔の父を見て大笑いする私をほっとした顔で見ている父は・・・
幼い頃に私の寝顔を覗き込んでいた優しい父の顔だった。
私は目をこすりもう一度見直す。
優しい笑顔のおじいちゃん!
(見間違いか!)
しばらくあの優しい介護士さんのことを一方的に私が話し。
父が頷く。
あっという間に1時間ほどがたち
(コン。コン。)ドアをノックする音。
「娘さんをお借りしちゃいますよ~~」
ウインクしながらあの娘が入ってきた。
「なんてね!ウソ!佐藤さんに会いに来たんですよ~。
すぐに帰るけどね!」
と私にメモを渡してくれた。
「じゃあ。失礼しました~。」
メモには
かわいい丸文字で
(明日の19:00 お宅にお邪魔しても大丈夫ですか?都合が悪い時には私に伝えてください。お急ぎのようでしたのでなるべく早くと思い夜になってしまいすいません。あと当日私も一緒に行きます。)
私は帰りに彼女を見つけ。深々とお辞儀をして家に帰った。
さあ!大急ぎで掃除をしないと!!
この数ヶ月掃除機くらいしかかけていない!汚い家だからダメ!なんてことはないだろうけど
見栄もある!
気がつくと鼻歌交じりで掃除している!
(捨てる神あれば拾う神だわ!)
そして。
19:00 運命の出会いが来る。