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2012年40歳  作者: 龍太郎
6/10

地獄

・・・見覚えのある女性。動かない体。老人のような手。


訳の分からないことばかりが私の身に起こっている。

そんな混乱すら、これから起こる地獄の序章に過ぎなった…



(次の日)

私は自分の身に起こっていることが理解できるようになってきた。


・私の事を皆老人扱いするという事。

・私に話し掛けることはあっても、返事を期待する人はいないという事。

・トイレには行けず、オムツを定期的に変えてもらっている事。

・左の手足はけっこう動くこと。



そして


見覚えのある女性は・・・


私の娘(長女)であること。


考える時間は売るほどあった。

私は事故にあったはずだ。そのあと何があって今こうしているのだろうか?


誰かに聞けばよいのだが、声が出ない。言葉にならない。誰も聞こうとすらしてくれない。

自分なりに整理すれば。ありえないことだが、私はおじいちゃんといわれる老人になっているのだろう。

娘がおばちゃんになっているのを見ても疑う余地はない。


だとすると…


私はあの事故以来ずっとここにいるのだろう(植物状態か何かで)

それが奇跡的に数十年後に目覚める!

そうして今この状態だ!こんなところだろう。

だから意識は30代のままなんだろう。


しかしおじいちゃんとは何年眠っていたのか…

ふと医者の言葉を思い出す…

「手術は成功・・・」


そうか!わかったぞ!

私は植物状態だったが医学が進歩して治せるようにでもなったのか!



納得はいかないが、これでつじつまは合う。

まだわからないことはたくさんあるが…


妻は(たぶんおばあちゃんの)どうしているのか。

私が眠っていたであろう数十年の間家族の生活はどうだったのか。

個々がどこなのか。


これから…どうなるのか。



夕方、おばさんになった長女が見舞いに来てくれ、ベッド横で私に話しかけるようにして独り言を言い始めた。(私は言葉さえ理解できなくなったと思われているらしい)


「もうびっくりしたわよー。仕事から帰ったらお父さんが見当たらないでしょー。

 どこいっちゃったのって探したら、トイレで倒れてるんだからー。

 死んでいるのかと思ったわよー。

 幸い倒れてすぐだったらしくて、こうして助かったけど…

 まあ、お母さんも先に逝っちゃったし、お父さん的にはあのまま死にたかったかもね。

 せっかく助かったけど、話もできないし、何もわからなくなっちゃったし…」

涙ぐんでいる。



なに?

お母さんは死んだ?

まあそれは分かった!


それよりも、トイレで倒れて?どういうことだ?

私はあの事故以来眠っていたんじゃないのか?事故の後も人生があったのか?


おい!おいっ!


教えてくれ!


長女に左手でつかみかかる!


教えてくれ!俺はいったい?!


「きゃあ。」

びっくりした長女が思わず大きな声を出してしまった。


「どうしました?」入って来た看護士がさらに驚く。



看護士に無理やり手を離され

私はベッドに紐で手を結ばれることになった。


違うんだ!だれか聞いてくれ!

違うんだ!


涙がこぼれる。


「娘さんであることも分からなくなっちゃったのかしらね~」

「本能じゃあないの?」

「かかわる人たちに暴力行為があるから気を付けるように言っておいてね」



私はおこしかけた体をベッドに倒し動かない右手と縛られた左手を想像しまた泣いた。

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