目覚め
お・と・う・さ・ん・・・
「お父さん」、「お父さん」…
私を呼ぶ声、なんだか懐かしい声…
結衣?そうだ、結衣か…
ゆっくりと目を開けてみる。
蛍光灯の明かりが眩しくて一瞬真っ白になり、だんだんと色が付いてくる。
「お父さん!」
泣き笑いの女性。
結衣?
たしかに似ているが歳をとりすぎている。(60歳くらいだろうか…)
頭がまだボーとしている。痛みもある。
そうだ!
私は・・・
車にはねられ、その後…どうなったのか?
そうだ、意識を失った。
ここは病院だろう。どれくらいたっているのか?1日か1週間か?
そして目の前にいる中年女性は?
考えがまとまらない。
頭が痛い!
(お父さん?そう呼ばれた…)
意識が遠のいていく・・・
なんだか嫌な予感がする・・・
勘だけは子供のころからいいほうなんだ・・・特に悪いことは。
ちょっと眠ろう。
会社のことも起きてから考えよう。そう起きてからでもいい。
目が覚めたらはっきりするだろう。
体のことも、事故の後どうなったのか、中年女性も…
そう、おきたら・・・すべて・・・
春一はまた眠りについた。
ベッドサイドではDrと中年女性2人が話をしている。
「手術はうまくいきましたが。障害は残るでしょう」
「特に右半身の麻痺と失語症。程度はまだ判りませんが。リハビリも高齢であれば無理もできませんし…」
「今後の生活も一緒に良い方法を考えていきましょう。」
「ありがとうございました。5年前に母を亡くしていますから…父には生きていてくれるだけで。」
2人の女性は深々とお辞儀をし、春一を見て安堵の表情を浮かべた。