透明化スキル持ちの婚約者が婚約破棄したら消えてしまうのはわかりきった結末ですよ?王宮では大捜索されているみたいですが二度とあなたたちのお役に立てません
これみよがしに上から見下ろす視線がいらっとする。なにもできないくせにと怒りが湧く。
彼はこちらに婚約白紙どころか、破棄を告げてきた。それに了解を告げると契約も破棄された。その途端男がパッと消える。
ああ、だから彼は愚かの代名詞なのだ。周りは何事かと騒ぐが、無視して部屋を出る。後ろから誰かが名前を言うがそんなものはその他大勢の一人だ。
夜会のパーティーでエスコートを放置されてしまい、辟易していたので出る時もマナーなんて従わない。発言された時点でもう婚約者でもないから、尻拭いも存在のフォローもしない。家に帰り親に話すと親も憤慨し、夜中にマナー違反の王室からの使者も来たが無視して追い返す。
夜中に何度も来たが無視して、朝になると居座る者たち。ついには王妃が来たが、婚約破棄された事実を突きつけると頭を下げて謝るが謝ったところでなにも変化しない。
「お願いします!」
「そうは言われてもこちらも、今まで頼まれてやっていたことをこうまで蔑ろにされて続けるほど、お人好しではないのですよ」
父と母が娘を守るように悠然と佇む。メイフィーラはただおっとりと座るだけでいい。ゆっくり紅茶を口にして王妃の頭を鑑賞する。地味な服装でアピールしている。
「お願いです!でないと、でないと」
王妃が必死なのは理由がある。王子のスキルが透明化なのだ。しかも、コントロールできない系の。対するこちらは具現化という絵を具現化できるスキル。王子が具現化し透明にならずに済んだのはこのスキルのおかげ。
それなのに幼少期に婚約して具現化したことでその時の記憶がなくなっているらしく、婚約を破棄してこうして今、彼は透明になっており誰にも見つけられることはなくなった。
今まで誰かに何かされて過ごした男に自ら支度したり服を着たりする真似はできない。やるようにしたらどうかと父と言い合っていたが、それを言葉として王室にいうことはしなかった。
そんなことは親が思いついてやらせるべきだからだ。自分たちは王室の親でもなんでもない。便利なスキルを持つだけの家なのだから。
無理矢理婚約者になって欲しいと言われてそもそも、納得してないのだから。契約も白紙にされこけにされた我が家が従う理由はすでに失っているのだ。
今も王子を探しているのだとか。途中までは分かっていたがトイレに行こうとしたのか現在どこにいるのかわからず行方不明になっているらしい。トイレも確認したのかいなかったらしい。
留まればいいのに。透明化の最悪なところは王子のスキルは粗があり透明化中にものが掴めなくなるという部分がある。訓練させればいいのに。
なぜ普通の人間と同じように人に傅かせたのか未だ謎だ。スキルに問題がないのならそれでいいが。相手はいつどこで透明になり自活せざるを得なくなるかわからないのに。
「ですから、ね?」
それをさせなかったことで王子の生存は危うい。
「そうはいいましても、いままでどうして殿下の娘への態度を改めさせなかったのですか?目に余るほどの横暴さだ。スキルで日々暮らしているのに、おかしいですよね?」
怒ってはないが淡々と問い詰める父。
「そ、それは」
王妃が言葉を詰まらせる。非は向こうに百パーセントあり。スキルという命の繋がりと首の皮一枚で生きていられるくせに、あの態度はあり得ない。メイフィーラが解除したら王子は餓死まっしぐらなのに。
「王族だからなにをしてもいいと思い込んだということなのでしょう。お父様、無駄な質問です。どうせ、後先など考えてなかっただけのこと」
ぴしゃりと言い訳を封じる。全くその通りなのか、母たる女は口を噤む。便利な喋る口元なだけはある。謝罪ばかりでそれ以外なにも考えてこなかったものの顔つきだ。
そんな王妃に提案がある。契約書を作っておいたので読ませると青ざめる顔色。そこには王子の隷属とも言える立場の逆転を許す文があった。
「今まで何故あそこまでされてスキルを維持しなければとイラついておりました。これならばわたしもイラつかずにスキルを使ってあげられます」
「これじゃあ、これじゃあ、どちらが王族か」
ブルブル震える王妃にふぅとため息を吐き出して首を振る。
「なら、王子は餓死して見つかることになりますけれど……そちらがお望みでしょうか?」
「そんな、そんな目に遭わせたくは」
「わたしもです王妃様。娘を蔑ろにされる立場に置くことなどしたくはありません」
父の言葉に王妃の唇が震える。それは怒り?羞恥心?再発見?悔しさ?どうでもいい。会場で大々的にバカが宣言をした辱めを受けたことに比べたら甘んじて受け入れるのがケジメってものではないのだろうか。自分たちからごめんなさいと謝りに来るべきなのではないのか。
「要件がお済みならばお帰りください」
サインしないのならば話をする気はない。空気で威圧して王妃も本気だと伝わったみたいで、緊張に震えた。これしきのことで?
王妃教育を長年受けてきたが、動じるなと習った。相手が何を言っても顔にも態度にも出すなと。王妃に関わらず王族に教えられているはずだ。
それなのになんなのだ、この王室親子は。王も王だ。あんな息子、ここにいる頭がお花畑並みに弱々な思考を持つ王妃。
なぜ王室に入れたままにしているのか謎だ。普通に事故物件というか事案というか、爆弾、危険物が頭に浮かぶ。どうしてこうも二代続けて頭の弱いものが。そもそもの話、王族の意思が薄いんだ。
王からして始まりなのかもしれない。見る目がない。とっても見る目がないと言える。メイフィーラが頑張って王族になるための教育をしている間に、この二人はなにをしていたのだろうかと問い掛けたい。
ゆさゆさと体を揺さぶり、勉強の中身が身に染み付いてないのはどういうことだ?と言いたくなる。なじりたくて仕方ない。それなのに言うことかいて再び婚姻してほしい、またはスキルを使ってほしいなんて言い出す厚かましさ。
自分はあなたの息子に人前で大々的に婚約破棄されて辱められたのですが?そのことについて公式にまず謝ってもらってそれから、やっと話し合いだろう。
それが終わらないとスキル使用云々なんて普通は口から出てこない、と思う。普通じゃないから厚かましい母親が口出ししたのだ。
ここに国王がいないというのが最初から前提として、あり得ない。婚姻は王命。王命を破った息子について頭を下げるのが道理。王妃の軽い頭などお呼びではない。代理にもなりはしないのだ。
父は怒ってはないが、王家を見限っている。怒られているうちが華とは言った言葉があるのだが、まさにそれに当てはまる。スキルを便利使いしているが、本来は存在がない、というつもりで暮らすべきことをさせなかった王族の二人の責任。
「サインしないのならばお帰りください。サイン以外の行動はいりません」
謝罪されても受け付けないといった意味も含まれている。王妃はふるりと震える。大事な大事な王子が今頃食べることも水も飲めずにいるのを想像して、悲嘆に暮れる。ここで悲嘆に暮れられても、なにもしない。
とっとと自室に戻って泣いて身内かメイドらに慰めさせればいい。敵だからうちの屋敷で泣こうが喚こうが味方はいない。
王妃はしゃくりあげながら、しくしく泣くが執事たちがどやどやとしながらもスマートに玄関前まで送り馬車へ、他の言葉も言わせずに押し込んだ。しゃなりと。乱暴なんてしてない。
あと、抗議の手紙を一緒にいた執事とメイドに押し付けて、威圧感たっぷりに追い返した。王妃には失礼がないように、あとから何も言われない対応をしたが無礼なもの達だということは変わらないので、他の者たちへは遠慮なく怒りを向けた。
怒っているということが伝わればいい。王族の王に特に伝われという意味で。怒っていると伝わればノータイムの訪問などといった無礼千万を起こそうとはさせないと願っている。
王妃を送り返してすぐに手紙だけは慌てたように返信がきた。ここまで怒らせておいてさぞ、鼻たかだかだろうなと家族で戯けた。もちろん、完全なる皮肉というもの。
王からの手紙には謝罪が記されており、具体的に王子が悪いということが念入りに書かれていた。そうでもしないと具現化スキルにそっぽを向かれたら、王子は餓死するしかない。
というのが誰でもわかっているから。わかってなかったのは、結局本人のみ。致命的過ぎる。
なぜ、説明しておかなかった?本人が聞いていないなんて猿でも嫌悪する理由を言うとは思えないが、あんなのを育てた大人の言葉ならばあり得るかもしれない。
王からの手紙には続きがある。費用と雇うお金を払うからスキルを使用してもらえないかと検討の有無を聞かれている。
ほお、王妃よりはバカな聞き方ではないが、検討させてもらえると思っているところがなんとなく手遅れなのに気付いてないのが、透けて見える。
なんで気づかないのか。いくら息子の命の危機だとしても、切り捨てた相手が助けてくれるなんておとぎ話に縋り付くのは惨めだと思う。
そうなる前に対策がされていたのならなにかしてやりたいと思っていただろうが、スキルに思いっきり寄り掛かってなにもしなかった。甘やかして甘やかしてここまで付け上がらせたのが悪い。己の息子のことなのだから自分たちがなんとかするべきだった。
何度思ったことか。言わなかった理由なんて簡単だ。彼はメイフィーラの家族でも何でもない他人だから。あと、常に見下していたところがあり、言動にもしっかり現れていた。
自分が女の婚約者のスキルに生かされていることに我慢ならなかったのか、やたら当たりが強くてウンザリしていた。
事故でもあって透明になるスキルが暴走してくれないかな、と思ったくらいには嫌悪が溜まりに溜まっていた。
だから、婚約破棄の時は天の采配だと即解除してしまうくらい浮かれていた。だから、言われた瞬間に彼は透明になって見事行方不明になったわけだ。
彼の自業自得であり、こちらに一切非がない形で終わらせられて万々歳。よくぞ言ってくれたと拍手してしまう。
親も親族も王子の態度を知っていたので、ゴリ押しの王命に憤慨していたからこそ、二度と再婚約を結べなくなったことに総出で喜んでいる。親族から、身内から嫌われていたのだ婚約者は。
王家も王子の態度を改めようとしていたが、生きるためにスキルを鍛えさせなかったくらい甘いので、結局暖簾に腕押し程度の効果しかない。期待なぞ最初からしてない。絶望しかないので、王家など見限っている。
後ろ盾の家に見限られている王家。打診しても色良い返事は二度とないと思う。婚約の用紙には再婚約不可を最初から記されており、ゴリ押しはもう無理だ。
メイフィーラに打診したいだろうが、言った言葉は二度と飲み込めない。王もわかっていてスキル使用の有無だけ、問いかけてきたのだ。それでも卑怯すぎるけど。婚約破棄した息子の件を謝り通してから、話はスタートラインだろう。命の危機だからと押し出す理由には弱い。まず、命の危機に瀕した理由と繋がっているのだから。
ふざけた真似をしたのだから、王から頭を下げるべき。今回の件は王子、自身の息子がしでかした不祥事。
王命を違反したのになぜ命を助けなきゃならないんだ?バカにしたやつをなぜ、助けなきゃならない?
ゴミの性質に配慮したら、ああなった。後悔も反省もしてない。王の手紙を拝見してから気分が悪くて、仕方ないのだ。
スキルを使うわけがない。首を振り鼻で笑う。
「ふっ。王家も毎回丁寧に私たちをバカにしてくれる」
「抗議文を再び送ろう」
「顔見せもして、念入りに釘を刺さねばならん」
祖父母も父母も、親族会議があり皆がこの屋敷に留まっている。
「王家は我らを下に見ている」
「然り然り。完全に我らを愚弄している。恥もなくスキルの使用を依頼してくるなど、まずはその頭を下げてもらわないと」
うちの家門はすでに、王家の後ろ盾から撤退することを決めている。というか、すでに下準備は終えているので書類にハンを押している最中。あと数日後に完全に撤退する。
「我はもう終わらせている」
「わたくしもよ」
親族の一人一人が王家の後ろ盾や関係各所から、手を引いたことを報告している。王家が気づくのはいつだろう。王子が透明になり餓死するまで何日だろう。
実に楽しみだ。
王子が見つかる頃にはボロボロ、見た目も繕えない程の異臭がするだろう。トイレも行けないのなら臭いはずだし、髪だってボサボサ。服も汚れており、話すこともままならないほど衰弱しているはず。
想像するだけで今までされてきたことに対して、過去何もしなかった自分を褒めたい。王族に手を出して無傷ではいられなかっただろうし。
いくらあちらが悪かろうと息子に激甘王家の王族夫婦はきっと、婚姻を盾にしていただろう。
婚約しているのだから婚姻は流れで当たり前だろうと言われるかもしれないが、婚姻する予定なんてこちらにはなかった。ゴミにしか思えない男と夫婦になる未来は捨てていたのだ。
何が楽しくて己の婚姻をあんな男に捧げねばならないんだ。もし、婚姻しなくてはいけないのならば死を偽装してどこかへ逃げていた。
それが無理なら具現化スキルを不調と嘘をついて、王子を透明化させればいい。それくらい過酷な報復を考えていた。
王妃たちは息子をそれだけ恨んでいると考えも及ばなかったらしいが。正直、婚姻しようとしまいと透明にしてしまえば躾けられるから、浮気を見つけたときは消せばいいと思い放置していた。
案の定、やつはやらかした。計画よりもうまくいった。先にヘマしたからこそこちらが完全に有利なまま自由にできる。何かにつけて文句を言う子供のお守りなんてもう嫌だ。
こちらの成績がいいと、成績のよくない自分がメイフィーラのせいだと詰るわけのかわからないことを毎回言われ。
気になるのなら努力する方向に頑張ればいいのに、こちらに向けて成績を落とせと遠回しに癇癪を起こしているのだ。バカに合わせて幸せになれるとは思えない。
「お父様、王家に手紙を追加でお願いします。過去に第一王子が私の方が成績が良いことを叱ったと」
告げると父は嘲笑うように口元を上に釣り上げた。
「それを読んだら顔を赤くして息子の失態を調べ出すかもしれないな」
父は喜んで、今まで娘が婚約者にされてきたことを記した報告書を添付させて手紙を王家に届けさせた。さてはて、どんな言葉が返ってくるのか楽しみだ。
ここまでの日数は王子が消えてすでに三日経過している。王妃が婚約破棄騒動から翌日に来たほど、緊急時だったことがよくわかることだろう。自業自得過ぎるけれどねえ。
透明なんて役に立つスキルを鍛えないなんて、王家は何を考えているのかわからない。確かに厄介な性質のスキルだが、命を狙われた時なんて無敵なのに。
それをむざむざ排気口に捨てるが如くなにもさせず、ただの王家の子供として育ちきらせるってなんだろうかと親族たちを首を傾げている始末。王家全てに呆れているとも言う。とにかく離れたいという気持ちが大きい。
楽しくなってきた。親族らも嬉々として手紙を認める。一族が抗議の手紙を送るとなると王家の派閥は揺らぐ。そもそも、王家側の派閥の令嬢を夜会で辱めて婚約破棄する最大の裏切り行為に、中立派でさえ王家はおしまいだと感じ取っているはず。
「はは、王の慌てようが目に浮かぶ」
「ふふ、そうねぇ?私の子を舐めるなんて二百年早いのよね」
母の怨さの声音が部屋に響く。今回の婚約破棄事件だけではなく、今までの王子の幼児みたいな八つ当たりは全てを敵に回していただけだ。ここに来て、王家を敵に回す……いや、うちを敵に回させる理由を彼らは作ってしまった。
元婚約者になる王子デスタ。彼の捜索は今も続けられているがそろそろ身動きできなくなっているのではないか?との王家の医者が見解を述べている。そんなのは医者じゃなくても予測できるけど。
また従兄弟の男が王家に隙を与えないように、今のうちに婚約を整えておくのはどうだろうか?と提案してくる。それは確かにやっておく必要がある。下手をしたら横から邪魔をされかねない。
そうなる前に今の王家が混乱している現在こそ、書類を整えておこうと会議で決まった。メイフィーラも彼の提案に頷く。
「ありがとうドゥレオ。次の婚約なんて考えもしなかった」
「はは、構わないさ」
「本当に助かったからね……王子は今どうなってるか予測したらワクワクしてしまって、寝不足になったの」
「あいつ、お前に当たりが本当に強かったもんなぁ。俺は何度怒りを飲み込んだことか」
彼も怒り心頭だが、己ほどではない。自分なんて何度壁に打ちつけたかったことか。スキルを置いて心身ともに公式的に退いてもらう予定をしていたくらい、恨んでいたから。
「次の候補、俺なんだ」
「そうでしょうね。血もほどほどに離れているし」
「隣国の血も入ってるからな。近過ぎるっていうこともなく、安全だ」
「三代前の当主が異国の妻を娶ったのは今思っても、よくやってくれたと思う」
「だから、おれにして欲しい。あの、お前のこと小さいときから好きだったんだ」
告白にポッと頬が赤くなる。そんなの、ずるい。
「私も……あの根腐れ王子と婚姻を決められた時は心底王家を呪ったくらい、あなたのこと好きだった」
顔がもっと発熱して、体も心音も加速する。今とても緊張している。汗をかいているから息も浅くなった。
彼の目がこちらを射抜く。それだけで多幸感が胸に広がる。どうしようもなく好きだ。
元婚約者に好意なんて一ミリも抱いたことなんてない。対面する時に暴言なんて普通に言われるし、女として魅力がないなんて言われることもしばしば。
相手のよいところもなく、好きになる要素もない。さらに言うとメイフィーラに生かされているペットの分際で、命綱を自らの刃で切り裂く頭の悪さにはウンザリ。
「婚約、してくれるか?」
これもまあ王家の怠慢だろう。甘やかしているのが丸わかりの我儘さ。躾ればいいものを、放置してしまいああも野犬のようにワンワン吠えて、他のメスに尻尾を振り自滅するまでに。破滅は約束されていた。
「ええ。一緒に伝えに行こう」
手を繋ぎ親族たちの前で婚約したい願いを伝えると、拍手を送られて皆に祝福される。両親も嬉しそうに頷いているから、婚約させてくれるみたい。嬉しさにホロホロと泣いた。ハンカチを彼が目に当ててくれる。
「皆、ありがと」
「幸せにします」
「私も彼を幸せにします」
幸せいっぱいな顔つきで祝われる二人。
一方、その裏で王宮では毎日全員が血眼になって後継者の王子を探していた。透明化という厄介なスキルのくせに鍛えることもせずに、婚約者の具現化スキルにおんぶにだっこというあぐらをかいた結果、行方不明の末路。
じっとしとけばいいのに、トイレに行ったのかその後の行方がわからない。そもそも、王宮のどこにいるのか誰にも見えないのに、見つけられるわけもない。
王妃も王も連日、指示しているものの見つかるわけがないのだ。具現化されないのだから。物が掴めない、こちらからも触れられないとなれば存在という定義から外れている。
「メイフィーラ嬢へ王命を!」
「王命を破った息子を処罰する前に王命を発行しては、全ての貴族からの支持を失う」
王妃が泣くし、喚くしで王は耳を塞ぎ睨みつける。勝手に婚約破棄された翌朝に、あちらの令嬢の家に先ぶれなしで突撃したこともまだ終わってないというのに。おかげでメイフィーラの家の親族からの抗議文が連日届く。
あなたの妻は貴族の礼儀を王宮に置いてきたのか?という嫌味など優しい方だ。だというのにこの妻は隣で泣くだけで、なにもしない。元々実務能力は低い。
もたもたしているつもりはなかったが、息子が見つかる前にメイフィーラとドゥレオという同じ分家の男との婚約が結ばれた、と王へ事後報告がなされた。思わず拳を握り込み椅子に叩きつける。
王子が婚約破棄したのだからすでに婚約関係は解かれていた。賠償の話はこれから。なのに、王は頭の中が混乱して家にスキルを使って欲しいと頼み込んでしまう。失態はのちの弱みに響く。
王は泣く妻の横で頭を抱えるしかない。それからまた二日経過して、王は婚約をしたメイフィーラに再度頼み込み例の契約書にサインした上でスキルを使ってもらえた。
発見された王子の状態は、それはそれは酷いものだった。身体衰弱で水も飲めず危ない状態で見つかった。これは報告書の内容だが、報告書は家のものがその場に居て見たものそのままを書いていて、王たちが隠したがった部分まで明細に書かれている。
「読んだ?ドゥレオ」
「読んだ。自伝にして売れば人気者になれるんじゃないか?」
「そう言われたら確かに人気者にはなれるかもね……笑い者って意味で」
二人で笑い合うメイフィーラたち。王子は今現在、王家の持ち土地である田舎の街で療養しているとのこと。それほどまでに衰弱していたし、まともに話せなくなっていたとか。
元々メイフィーラがいなければまともに生きていけないのに何を思ったのか、婚約を無くしてきたのでどっちみち普通に生きることは無理だっただけ。
ご飯を貪り、人間でなくなったと報告書には書かれていた。誰がアレを洗ったのかと考えると、少しだけあそこの使用人たちが可哀想ではある。
責任を持って両陛下たちが洗えばいいのにね?
彼にそう言うと、それくらいするべきだなと腕を組む。今回の騒動は王家を揺るがした。水面下で王子は王太子という芽がなくなり、他の候補たちが動き出しているというではないか。
そう思えば王位に近づける足掛かりとしてメイフィーラが狙われる可能性は、何もなければなかった。婚約しているからこそ、婚約の打診がなく穏やかに過ごせている。
「結婚式の準備も始めないと」
あの王子が相手の時には思うこともなかったから、待ち遠しい。
王子から手紙が婚姻してから届いた。こういうことはするなと契約書にあったのだが、謝罪の一つでもあればと思い読んでみたが側近として雇用したいという文字に、速攻で王へ父が抗議の手紙を送った。
今度は怒りをたっぷり込めたと青筋を浮かべた父たち、さらに夫になったドゥレオも今度という今度は許さないと親族を集めて、王家に総出で乗り込む計画を立てている。
女性陣たちは優雅に紅茶を飲み、貴族のやり方で家門を繁栄させ王家の襟首を押さえつけるのだ。
「メイフィーラ、覚えておくのよ。調子に乗らせてはいけないと」
「王家も痛い思いをしたのではないのでしょうか」
ほほほ、うふふとソプラノが庭に咲く。
「王家が失敗作をうちに寄越すのがそもそもおかしいの。押し出すのなら、天才と名高い第三王子をくれなきゃね?」
「お母様、ドゥレオが嫉妬するわ」
「まぁまぁ、許して?笑い話ですもの」
すかさず母に笑って付け加える。母も冗談よと朗らかに笑みを見せて、娘のお腹に宿る孫を撫でた。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。命の手綱を外すには充分な時間が経ってしまった結末でした




