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職場の合わない人〜どっちも人見知り編〜

作者: 夜
掲載日:2026/05/30

私は人に露骨に嫌われた経験というものが、あまりなかった。


 少なくとも、自分ではそう思っていた。それは私が臆病で、細心の注意を払ってきたからでもある。

 だから、職場の彼女の態度は、私にとって妙に堪えるのである。


 朝、こちらから「おはようございます」と声をかけても、彼女は目を合わせない。返事は返ってくるには返ってくるが、冬の水道のように冷たい。ところが、他の職員と話している時の彼女は実に柔らかいのである。冗談なども言って笑っている。


 すると私は、どうしても考えてしまう。


――やはり私だけなのではないか。


 だが、いくら考えても思い当たる節がない。失礼なことを言った覚えもなければ、仕事で大きな迷惑をかけた記憶もない。仕事の話は普通にしてくれる。必要事項はきちんと伝えてくれる。ただ、二人になると急に空気が冷えるのである。


 休憩時間が重なると、彼女はどこかへ行ってしまう。沈黙だけが残る。


 私は、その沈黙に一年ほど耐えた。


 耐えながら、心の中では勝手に傷ついていたのである。勝手ながら怒りもあった。毎日少しずつグレていく感覚もあった。これではまずい。

 嫌われる理由のわからぬまま嫌われるというのは、人間にとってなかなか堪えるものらしい。


 ある日、私はついに同僚へ相談した。


 すると、その人は拍子抜けするほど親身に話を聞いてくれた。私はその時初めて、自分が随分疲れていたことに気づいた。胸の中に重石でも入っていたような心地が、少し軽くなったのである。


 さらに別の人にも話してみた。


「前にもね、“怖い”って言われてたことあるみたいですよ」


 その人は苦笑しながら言った。


「でも、あの人、すごく人見知りなんですよ」


 私は曖昧に頷いた。


 もちろん、それだけでは説明のつかぬ冷たさも感じていた。苦手に思われているのは、たぶん本当なのだろう。しかしその時、不思議なことを考えたのである。


 私自身もまた、人を怖がっていたのではないか。


 嫌われたくなくて、変に気を遣い、ぎこちなくなり、そのぎこちなさが相手をさらに警戒させたのではないか。そう思うと、ふと腑に落ちるものがあった。


 思えば彼女は、私を嫌っているというより、どこか怯えているようにも見えた。


 人に怯えられる、という可能性を、私は今まで考えたことがなかったのである。


 それから私は、朝の挨拶の仕方を少し変えた。


「○○さん、おはようございます」


 名前を呼び、相手がこちらを見るのを待ってから言うようにした。相変わらず彼女はそっけない。目も、あまり合わない。しかし以前ほど心は乱れなくなった。

 


 誰からも悪く思われず、柔らかく受け入れられていたかった。だが、そんなことは土台無理な話だ。人には合う合わぬがある。こちらが誠実に接しても、うまく噛み合わぬこともある。


 それまでの私は、それをどこか敗北のように感じていた。


 けれど今は少し違う。


 彼女は今日も淡々としている。私も相変わらず少し緊張する。しかし、以前ほど胸が重くなることはない。

大丈夫。私も怯えているし、彼女も怯えているだけだ。


 私は私の仕事をする。

 彼女は彼女の仕事をする。


 それで十分なのだと思う。


 人間関係に温かさを求めるのは悪いことではない。だが、それを他人に求めすぎると、自分の心まで他人任せになる。


 私は強くなりたい。

自分で自分を認め、精一杯、誠実に、自分の仕事をして、お金を稼ぐのだ。

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