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マスターワールド  作者: ギズモ


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マスターソード

広く豪華な王城の広間。


高い天井、豪華な装飾、整然と並ぶ騎士たち。


その中央で、威厳ある声が響いた。


「レイ! お前また勝手に別の世界へ行ったそうだな!」


「アースの人間まで巻き込みよって!」


玉座に座る男が、鋭い視線でレイを見下ろす。


いかにも王といった風格を持つ男――

ガリア・スティンクス。


この国の王であり、レイの父だった。


レイは静かに頭を下げる。


「申し訳ございません、お父様」


すると、その隣から柔らかな声が響いた。


「あなた、そこまでにしてあげて」


口を開いたのは、美しく気品に満ちた女性。

まるで女神のような佇まいをしている。


ヒレイ・スティンクス。


レイの母であり、この国の王妃だった。


王――ガリアは小さく息を吐く。


「……まあいい」


そして言った。


「今日は勇者エルビンが来ているのだ」


その言葉に、広間の空気がわずかに変わる。


勇者エルビン。


その実力は神々すら超えると言われ、今やすべての世界を代表する存在と言っても過言ではないほどの力を持っていた。


数々の偉大な功績を成し遂げ、人々を幾度となく救ってきた彼は、いつしか人々から「勇者」と呼ばれるようになった。


その名は世界中に知れ渡り、多くの者たちから憧れと尊敬を集める存在となっていた。


「エルビン様が……」


レイは驚いたように目を見開いた。


「お前に会いに、わざわざお越しくださったのだ」


ガリアは高らかに笑いながら言う。


その勇者エルビンが、レイを花嫁として迎え入れたいと望んでいるのだった。


しかし当のレイは、結婚するつもりなどまったくない。


それでも周囲の者たちは皆、勇者エルビンとの結婚を心から喜び、祝福している。


「お父様、私は……」


レイが何か言いかけた、その瞬間。


「さあさあ、ドレスに着替えてエルビンに会ってまいれ」


言葉を遮るように、ガリアがそう言った。


レイは一瞬俯き、何も言えないまま小さく頷くしかなかった。


やがてレイは兵士に付き添われ、エルビンのもとへ向かうのだった。


――王城の庭園。


色とりどりの花が咲き誇る庭園の中、エルビンは優雅に紅茶を飲みながらレイを待っていた。


「エルビン様、わざわざお越しいただきありがとうございます」


レイは丁寧に頭を下げ、挨拶した。


「レイ姫、会いたかったよ! 相変わらず美しい!」


エルビンは感激した様子で声を上げる。


「お褒めいただき、ありがとうございます」


レイは礼儀正しく答えた。


「君を妻にできるなんて、僕は幸せ者だな」


エルビンは高らかに笑う。


しかし、レイの表情は決して嬉しそうではなかった。


「デーモンズの動きは、どうでしょうか?」


レイは話題を変えるように尋ねる。


「相変わらず戦のことが気になるんだね。君みたいな美しい女の子は、戦いのことなんて気にしなくていいんだよ……」


エルビンは優しく微笑んだ。


「私は世界を守りたいのです。お願いします。戦の状況を教えてください」


レイは強い眼差しで、真っ直ぐエルビンを見つめながら言った。


「……分かったよ、レイ姫。君がそこまで言うなら話そうじゃないか」


エルビンは小さくため息をつき、静かに口を開いた。


「神とデーモンズの戦争は、今や神々が劣勢だ。こちら側も様々な対策を講じてきたが、どれも奴らには通用しなかった……。だから、最終策を講じるつもりなんだ」


その言葉を聞き、レイは目を見開いた。


「最終策……それは、マスターソードを使用するということですね」


エルビンはゆっくりと頷いた。


「そうだ。僕がその所有者に選ばれた。あの剣を扱えるのは、僕だけなんだ」


エルビンは静かにそう答えた。


「確かに……エルビン様が持つのが妥当でしょうね」


レイは納得したように頷きながら言った。


するとエルビンは、少しだけ表情を和らげて続けた。


「実は、今日この場に来たのは王国に用があったからだけじゃない。君に会いに来たのもあるが……マスターソードを受け取りに来たという理由もあるんだ」


その言葉に、レイは静かに頷いた。

マスターソードは王国の宝物庫に封印されていた。


「そうだったのですね……」


その瞬間、レイの胸の奥に小さな不安がよぎった。


——世界は、これから大きく荒れる。


レイはそれを、ひっそりと悟っていたのだった。


――牢獄。


床に寝転がり、天井をぼんやりと見つめながら、剣夜は考えていた。


(もう一日くらいは経ったか……)


(殺されはしないだろうが、確実に何かされるだろうな……)


(脱出は無理そうだし、出たところで元の世界に帰れる気もしないしな……)


そんなことを考えていると、牢屋の暗闇の奥から声がした。


「君、アースの人間かな?」


剣夜は飛び起き、声のする方へ目を凝らす。


そこにいたのは、黒い毛並みをした柴犬ほどの大きさの犬だった。


「犬が喋ってる!? っていうか、お前どうやって俺の牢屋に入ったんだ!? さっきまでいなかっただろ!」


剣夜は驚きの声を上げる。


「暇だったから王城を散歩してたのさ。そしたら廊下の兵士たちが、“アースの人間を捕らえた”って話しててね。それでちょっと見に来ただけだよ」


黒い犬はニコニコしながら答えた。


暗い牢獄の中で、剣夜はただ唖然とその犬を見つめていた。


「君って、なんで捕まってるの?」


黒い犬が首を傾げて尋ねる。


剣夜は驚きながらも、これまでの出来事を話し始めた。


この世界に来てしまったこと。

飛行船の中で出られなくなったこと。

そして女に腹を蹴られて捕まったこと――。


話を聞き終えた瞬間、犬は突然、腹を抱えて笑い出した。


「ひゃひゃひゃひゃひゃ! 剣夜ってバカだね! 飛行船から出られなくなって、挙げ句の果てに腹を蹴られて捕まるなんて……ぷぷぷ!」


床を転げ回るほど笑っている。


「笑いすぎだろ! 俺の話をしたんだから、今度はお前の話も聞かせろよ!」


剣夜がムッとして言うと、犬はようやく笑うのをやめた。


「そうだね。じゃあ自己紹介しようか」


犬は胸を張るように言った。


「僕の名前はエンマケン! 十二神獣のうちの一体さ!」


「エンマケン? 十二神獣?」


剣夜は眉をひそめる。


「そう! 厄災と呼ばれた十二体の神獣。その一体がこの僕だよ!」


エンマケンは相変わらずニコニコしている。


「厄災って……」


剣夜は呆れたように呟いた。


(こんな可愛い犬が厄災? 本当にこの世界は、俺の知らないことばかりだな……)


そう考えていると、エンマケンが再び口を開いた。


「マスターソード」


エンマケンは静かに言う。


「人々は、十二体の神獣が封印されている剣をそう呼んでいるんだ。最強の剣であり、同時に最悪の剣とも言われている」


剣夜はすぐに疑問を口にした。


「封印されてるって……お前、普通に外に出てるじゃないか!」


エンマケンは得意げに笑う。


「僕は他の神獣とは違うんだ。マスターソードの“導き役”だからね。だから、こうして自由に行動できる」


そう言って肩をすくめた。


「まあ、その代わり力はほとんど使えないんだけどね!」


その瞬間、エンマケンの体が少しずつ薄くなり始めた。


「お、おい……?」


剣夜が戸惑う。


「君と話せて楽しかったよ、剣夜。またどこかで会えたらいいね」


エンマケンはいつもの笑顔のまま言った。


「じゃあね!」


その言葉を最後に、エンマケンの姿はゆっくりと消えていった。


薄暗い牢獄には、再び静寂だけが残ったのだった。

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