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マスターワールド  作者: ギズモ


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12の世界

気絶していた剣夜は、ゆっくりと目を覚ました。


重たい瞼を持ち上げる。


「……ここは、どこだ?」


ぼんやりとした意識のまま、周囲を見渡す。


視界に映ったのは、冷たい石壁だった。


薄暗い空間。

湿った空気。

どこか鉄の匂いが混ざっている。


そして――目の前には、太い鉄格子。


「……は?」


剣夜は一瞬、言葉を失った。


――牢獄だった。


辺りを見回すと、同じ牢に閉じ込められている人間が何人かいる。

疲れ切った顔で座り込んでいる者、俯いたまま動かない者。


通路の外には、鎧を身にまとった兵士たちが無言で立っていた。


(あの女……やりやがったな)


途切れていた記憶が、少しずつ繋がっていく。


(いきなり蹴り飛ばしてきやがって……)


腹の奥がまだ鈍く痛む。


(なんなんだよ……アイツは)


苛立ちを押し殺せず、剣夜は鉄格子へ歩み寄った。


ガシャン、と掴む。


「おい!」


声を張り上げた。


「ここはどこなんだよ!」


兵士へ向かって叫ぶ。


しかし兵士は、冷たい目で剣夜を見下ろすだけだった。


「貴様に話すことはない」


短く言い放つ。


「黙っていろ」


それだけだった。


「……っ!」


剣夜は歯を食いしばる。


その時だった。


コツ……コツ……


静かな牢獄の奥から、足音が響いてくる。


石の階段を降りてくる音。


ゆっくりと、しかし迷いのない足取り。


やがて、その人物が姿を現した。


――あの少女だった。


「レイ姫!」


兵士たちは一斉に背筋を伸ばし、敬礼する。


現れたのは、レイ・スティンクス。


鎧を身にまとい、凛とした表情でこちらへ歩いてくる。


レイは軽く手を上げた。


「少し下がっていてくれる?」


「はっ!」


兵士たちは素早く一歩下がった。


牢獄の通路に、二人だけの空気が生まれる。


鉄格子越しに、剣夜とレイの視線がぶつかった。


剣夜は鋭く睨みつける。


レイはその視線を受けても、特に気にした様子はない。


「そんなに睨まないでくれるかしら?」


肩をすくめながら言った。


「蹴ったのは悪かったと思ってるわ」


そう言いながらも、声にはまったく反省の色がない。


「お前らは一体何者なんだよ!」


剣夜が声を荒げる。


「俺をどうする気だ!」


レイは小さく息を吐いた。


「まあ……」


少し間を置く。


「どのみち、あなたの記憶は消させてもらうことになるから」


さらりと言った。


「話してあげるわ」


そう言って、鉄格子の前に立つ。


「私はレイ・スティンクス」


真っ直ぐ剣夜を見つめる。


「あなたは?」


その問いに、剣夜の目が大きく開いた。


「記憶を消すって……お前……」


言葉を失う。


しかしレイは気にする様子もなく、もう一度尋ねた。


「あなたの名前は?」


だが剣夜は、吐き捨てるように言った。


「お前らみたいな怪しい奴に言うわけねぇだろうが!」


レイは少しだけ呆れたような顔をした。


「……分かったわ。もういい」


そして小さく呟く。


「これだからアースの人間は……」


「おい!」


剣夜はすぐに反応した。


「アースってなんだよ!」


レイは少し考え込む。


やがて諦めたように息を吐いた。


「仕方ないわね」


静かに言う。


「説明してあげる」


そして、淡々と語り始めた。


「この世界には――十二の世界が存在しているのよ」


「十二……?」


剣夜は眉をひそめる。


レイは続ける。


「あなた達が住んでいる世界は、“アース”と呼ばれている」


そして周囲を軽く指さす。


「そして、この世界は“セトラ”。私たちが生きている世界」


剣夜は言葉を失った。


「じゃあ……」


喉が乾く。


「お前らは、別の世界の人間ってことか?」


レイは静かに頷いた。


「そうよ」


そして続ける。


「他にも、いろんな世界がある」


少しだけ微笑む。


「例えば――神が住む世界とかね」


「神が住む世界だと……?」


剣夜の頭は完全に混乱していた。


だが、完全な嘘とも思えなかった。


自分が見た光景は、常識では説明できないものばかりだったからだ。


レイはそんな剣夜を見ながら言う。


「まあ、あなた達アースの人間が知らなくても当然よ」


「当然って……じゃあなんでお前らは知ってるんだ!」


剣夜は睨みつける。


レイは淡々と答えた。


「私たちは“神の使徒”の世界の人間だから」


「神の使徒……?」


剣夜は眉をひそめる。


レイは続ける。


「あなた達の世界で言うなら――」


少し考えてから言った。


「天使、かしら」


「天使だと……?」


剣夜は思わず声を上げた。


レイは肩をすくめる。


「でも、あなた達が思ってる天使なんて、結局は想像の産物よ」


そして言った。


「別の世界の人間が迷い込んだり、私たちがアースに行った時に姿を見られたりして」


「それが神話になったり、天使って存在が作られたりしただけ」


「……マジかよ」


剣夜は呆然と呟いた。


常識が、音を立てて崩れていく。


レイは少しだけ呆れた顔をする。


「まあ、あなたには理解できないことが山ほどあるのよ」


そしてさらりと言った。


「神だって、いわゆる人間だしね」


「ただ、規格外の能力や力を持っているだけの人間」


「そうなのか……」


剣夜は小さく呟く。


そして、ふと疑問が浮かんだ。


「なあ」


剣夜はレイを見る。


「じゃあ、お前はなんで俺の世界に来たんだよ?」


真剣な目で聞く。


「俺たちの世界に何か起きるのか? やばいことでも起きるのか?」


しばらく沈黙が流れる。


しかし――


「違うわよ……」


レイは静かに言った。


そしてふいに目を逸らす。


その横顔は、どこか寂しそうだった。


「ただ……」


少し間を置く。


「あそこから眺める景色が好きなの」


ぽつりと呟く。


だが次の瞬間、いつもの調子に戻った。


「まあ!」


わざと明るく言う。


「あなたに話したところで、どうせ記憶は消えるんだから意味ないわ!」


くるりと背を向ける。


「じゃあね」


そのまま歩き出す。


「おい! 待てよ!」


剣夜は鉄格子を掴んだ。


「なあ!」


しかしレイは振り返らない。


コツ……コツ……


足音だけが、遠ざかっていく。


暗い牢獄の中。


剣夜の声だけが、虚しく響いていた。


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