第四章 王子との接近
ヴィクターは冷静で知性的な王子だった。
「アンジェリカ嬢、また私の前でヒステリーを起こすつもりか?」
ある日、図書館でエリオがルネッタと話しているのを見たヴィクターが、そう冷たく言い放つ。
「いえ、私はただ……」
「君の言動は常にルネッタ・ヴァレンスを陥れようとしている。王立学院の秩序を乱すつもりか?」
エリオは胸の奥で、怒りと悲しみが交錯するのを感じた。
……王家が……貴方達が望んだ役を……私が演じているだけなのに……。
だが、その言葉は口には出せない。
代わりにエリオはこう言った。
「……王子殿下が私を嫌うのなら……それも仕方がない事です。でも、ルネッタさんの事は……傷つけたりなどしてはおりませんわ」
ヴィクターは眉間に皺を寄せ、僅かに目を見開く。
「……何?」
「私は気づいたのです。誰かがルネッタさんを狙っている……私はルネッタさんを守ろうとしているのです」
学院内にはルネッタを狙う、別の陰謀が存在していた。
王家に忠誠を誓う『影の派閥』が、平民出身のルネッタを排除しようとしているのだ。
エリオは女装の身でありながら、その陰謀を察知していた。