生徒会編・東宮四季
【朝日は東から登る】
薄曇りの空の下、校舎裏に掘られた秘密の抜け道から、王は身を低くして地上へと這い出た。静かな気配を感じて目をやると、そこにモグラちゃんがいた。土の匂いを纏いながら、緊張した表情で息を呑んでいる。
「……いた。王くん!」
「とにかく今は情報共有だ」
王は七瀬ヒカリとの共闘、朝日ヨルの死、その妹ユウを画料先生に預けたこと。
そして画料先生から知らされた衝撃の真相を話した。
「優しくて、誰よりも正義感が強かったのに……朝日さん……」
しばし学友の死という重い現実に打ちひしがれているとモグラちゃんは思い出したように新情報を話し出した。
「私見たんだ、生徒会の連中のこと!……あの厳重さは弾丸に変えられた応龍たちを運んでたんだと思う。トラックに積み込んでたよ夜中に。みんなを指揮してた。何かの命令を受けたみたいに動いてた」
王の眉がわずかに動いた。
弾丸状の兵器──それはかつての仲間だった応龍たちの変わり果てた姿。王は拳を握りしめた。
「……よし、行こう。生徒会メンバーを探し出して仲間たちを取り戻す!」
その言葉に、モグラちゃんは小さく頷いた。
数刻後、二人は図書館の裏庭で、静かに立つ一人の少女を見つけ出す。
制服には青いラインが4本、左腕に「書記」と刺繍された腕章。
生徒会書記、東宮四季。
ビバルディと呼ばれる青龍トップの少女が待ち構えていた。
彼女は淡々と告げた。
「あなたも、未来を貫く”弾”になって」
王は一瞬だけ瞳を細めた。
「未来……?」
【第一楽章:妹】
次の瞬間、四季の周囲の空気が変わった。彼女の髪が桃色に変わり甘えるような声色で宣言した。
「お兄ちゃんも命令には従うんだぞっ」
突如として足元から植物が伸び王君の足を絡め取った。
「お兄ちゃんはあたしだけのものなんだからねっ!」
「これが噂に聞くビバルディの多重人格!」
【第二楽章:ギャル(サンシャイン・ハッピー・ガール】
雷で植物を焼き切って脱出するとくるりと四季は身を翻し今度は金髪のギャルへと姿が変わる。
「マジもう逃げんなよぉ〜☆」
今度はピースした指からレーザービームを放って攻撃してくる。
「未来ってさー、自分でブチ上げてくもんっしょ☆ 王も一緒にこいよ~ッ!」
【第三楽章:ヤンデレ(ダーク・ハートレス・ミスティーク)】
光速の攻撃の対処は難しいと走って逃げると、黒髪のやや根暗な姿へと変貌。
「裏切りは赦さない──!」
恨みがましい顔で無数の枯れ葉を空中に作り出す。
「あなたを“私だけの所有物”にする……それが私の証明」
すると彼女の枯れ葉を操る華麗な攻撃に王は肌を切り裂かれる。
「私の想いを思い知るがいいわっ!」
が、突如として辺りは眩い光に包まれる。
何も見えなくなった四季。
「どこ?どこにいるの?!あなたが見えない!!」
こんなこともあろうかとユウには痛い思いをさせた。
相手の体を噛む応龍喰で燭龍の力を借りさせてもらったのだ。
四季に雷を食らわせ戦力を削ごうとするがさすが4ライン。龍種トップは伊達じゃない。
【第四楽章:雪女】
すかさずサッと移動すると今度は真っ白な髪色に変化して雪女のように吹雪を降らせた。
「我らが築く新秩序に背くのか!
我らのものとなるのだ!王よ!」
一つ一つの人格が、それぞれ異なる戦術と動きを展開してくる。
いくら光と闇を使いこなしてもクルクルと移動する四季に王は次第に圧倒され始めてしまう。
今までの敵とは明らかに違う。雷を放っても簡単に当たる時と全く当たらない時があるのだ。
そう、何かが違うのだ。
この違和感は一体?
視界がなくなると混乱する一方、視界が晴れると素早く移動してくる。
彼女の動きには、妙な制約があった。
北側からの攻撃には過剰に反応し、逆に南側からの動きには鈍い。王は動きを試しながら確信を深めていく。
(南に回り込んだ時、動きが鈍った……西では反応なし。まさか……いや、まさかとは思うが……)
あえて彼女を自分の東側に立たせると彼女は植物のツルを再び伸ばし、王を絡め取ろうとした。
「もう!逃げないで〜お兄ちゃん〜!」
そのツルを素早く掴み取り力強く引き寄せる。
王は彼女を力強く抱き寄せると首の逆鱗に鋭い雷を纏った手刀を一撃。植物のツルが絡み合ったままの四季は、それを避けきれなかった。
どさり、と倒れ伏した彼女は、浅く息をつきながら苦笑した。
「君の季節は……俺の読み通りだ」
「……気づかれるとはね。まさか”東”を読まれるなんて」
「“四季”も”方位”も、一つの記号。けど、君はその記号に縛られてた」
「……私の負け、ね」
「……でもね。次に吹く風は、もっと凍てつく季節。どうか、凍えずにいてね――王くん」
風が吹いて、桜の花びらが舞い散る。
そう言うと、彼女は静かに立ち上がり、背を向けて去っていった。
王は図書館に残されたコンテナの中に眠る弾丸状の兵器──否、仲間を見つけ、モグラちゃんと共に再び秘密の基地へと運んだ。
「これで、仲間を少しだけだが取り戻せた」
「また掘る。ぜったい、守れる場所つくるから……。王くんも、ちゃんと戻ってきてね」
土まみれの手で握られたその拳に、王は小さく頷いた。戦いはまだ続く。だが、確実に、希望は手繰り寄せられていた。
王はモグラちゃんと並んで空を見上げた。
厚い雲の向こうに、わずかに光る一筋の陽――東の空が、わずかに明るんでいた。