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序章1

【焼却炉のそばの春】


学校の朝は、今日もにぎやかだった。

火をまとって走る子、水のカーテンで日差しをはね返す子。空を泳ぐ者もいれば、教室の片隅で静かに本を読む者もいる。

龍たちが、それぞれの力をひけらかすでもなく、ただそこにいる。まるで何も問題がないかのように、にこやかで平和な時間が流れていた。


龍は基本、差はあるが力が強く雨を降らせることができ空を飛べる。怪我をしても肉体回復能力がある。


昼のチャイムを告げると、白龍の陸上部員たちが風のようにグラウンドへ駆け出していく。

廊下の隅では、黒龍の生徒が水の粒で目を潤しながら、何やらノートに書き込んでいた。

教室の明かりが少しだけ暗くなったのは、燭龍がうとうとしたせいかもしれない。


虹龍は戦闘能力と肉体復元能力が最も高い。

校長に認められた階級という傲慢さを持ち時にはそれを暴力で振る舞ってくる。


 ――ただし、応龍は別だった。


応龍は雷を起こすことはできる。

地上に行くこともできるがそのため穢れた地上の汚れを持ってくるとされて差別されてきた。

天運を操ると言われて来たが、そんなものがなんの役に立つのか彼ら自身もわからなかった。


 「王くん、今日もゴミ捨て、よろしくね」

 笑顔で渡されるゴミ袋。誰に命令されたわけでもない。ただ、いつもこうだった。

 「……うん、わかった」

 王 小竜は、かすかに目を伏せて受け取る。

 拒む気力は、もうどこかに置いてきてしまったようだった。


 教室の喧騒が遠ざかるにつれ、袋の重さが増していくようだった。長い階段下の焼却炉は、誰も進んで行きたがらない場所。

 でも、それが自分の“居場所”になっていることに、誰も違和感を抱かない。


焼却炉の前は、風の通り道になっている。

さわさわと桜の花びらが舞い落ち、焼け焦げた紙の匂いと、春には似つかわしくない金属の熱気がそこにはあった。

けれど、応龍の王 小竜にとっては、それが一番落ち着く場所だった。


「また、ゴミ捨て……?」

そう言ってやってきたのは、小柄な体を全身土まみれにした土龍の少女だった。可愛らしい顔に似つかわないあだ名は“モグラちゃん”。

彼女は地面を掘るのが得意らしいが、それを理由にしょっちゅう校舎裏の配管修理に駆り出されている。


「今日の弁当、焼き芋だけだった」と彼女は言った。「栄養バランス、最悪〜」


王は静かに笑った。「でも、焼き芋、うまいよな」


「わかってんじゃん」


二人は、何気ない話をした。誰が春の大会で優勝したとか、次の小テストの範囲がどこまでだとか。

焼却炉のそばで交わされる、どこにでもある日常の会話。

でも、その“どこにでもある”という普通が、彼らには特別だった。


通りすがりの同級生が、ふいに口を開いた。


「あー、また“はぐれ者”が集まってる。なんかウケるよね」


それだけ言って、笑いながら立ち去った。

モグラちゃんは無言で指先を見つめ、王も黙っていた。

何も言わず、何も返さず。ただ――そういうものだ、と、胸の奥にしまった。


やがて、チャイムが鳴った。

昼休みの終わりを告げる乾いた鐘の音。


「行こっか」とモグラちゃんが先に立ち上がる。

「うん」と王がそれに続く。


それぞれのクラスへ、何もなかったふうに戻っていく。

だけどその日の午後、静かだった空気は――壊された。


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