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一つの馬車に、二人の女⑤
我ながら、薄情で非情、卑怯だと思う。
彼女の笑顔と勇気に助けられたくせに、今まさに死線を行く彼女を見捨てて逃げようとしているのだ。
それでも、眼前で行われる命のやり取りに加わろうという勇気も自信も無い。
ここで逃げねば、私のせいでまた彼女が――
「おい!もう一匹が逃げるぞ!」
心臓の一拍が大きく響く。走らねば。そう思って踏み出した一歩目が、轍に取られて大きく崩れる。
慌てて両手を前に突き出すが、運動不足気味の細腕では身体を支えることさえ出来ない。私は無様な有様で地面に頭突きをしてしまう。
「コウッ!」
背後から切羽詰ったメイの声が聞こえてくるが、すぐに金属がぶつかり合う音に紛れて消えてしまった。
まずい。まずいまずいまずい。
そう思った瞬間、巨人のような力で髪が引っ張られる。
「痛っ!」
「離して」と叫ぼうとした口が大きな手で塞がれ、続いて訪れた腹部への衝撃に私の意識は遠のいていく。
薄れゆく意識の向こうで「離せ!離せ!」と女性の声が響き続ける。
嘲笑、鈍痛、麻のちぎれるような音、土の匂い。
悲嘆と悲観と、それから――