魔術学園と父上②
僕がそう言うと、父上の眉がピクリと動いた。
「お前を魔術学園に?そんなことをして何か我が家にメリットがあるのか?」
やはり、父上ならそういうと思っていた。
父上は基本的にヴァリアルト家に対するメリット・デメリットでしか物事を決めない。
ヴァリアルト家現当主アベル・ヴァリアルトとはそういう男なのだ。
「もしも僕を魔術学園に入れさせてくださったら、必ず国一番の魔術師になりヴァリアルト家のため尽くします」
「国一番の魔術師になるだと?そんな保証もできないようなことを理由にして俺の手を煩わせる気か?」
先程までの無表情とは打って変わり、父上は苛立ちの表情をみせる。
「僕には他人より魔術の才があると自負しております。八属性全てを扱え、今では中級魔法は全てマスターしました」
「八属性全て?」
何か言いたげな父上より先に口を開いたのは父上の側で待機していた家臣のエンヴィだった。
「八属性全てなんて扱える訳がないでしょう?かつて魔王エリスを倒したと言われる三英雄ですら無属性と三つの属性しか扱えなかったんです。いくら優秀な魔術師といえど無属性と二つまでしか扱えません」
エンヴィは軽蔑の眼差しを向けながらそう言った。
エンヴィは家臣たちの中でも特に僕に対する扱いが酷い奴らの一人だ。
「アベル様の気を引きたかったのかもしれませんが、ヴァリアルト家の長男であろうお方がそのような低俗な嘘を…」
「だまれ、エンヴィ」
エンヴィの話を遮ったのは意外にも父上だった。
「半年後に魔術学園の入学試験がある。その一週間前までに八属性全ての上級魔法をマスターしろ。そうすれば好きにさせてやる」
「本当によろしいのですか!?アベル様!」
エンヴィは何か言いたげだったが父上に睨まれて押し黙ってしまった。
「ありがとうございます!父上!」
諦めていた訳では無いがまさか本当に許しが出るとは思っていなかった。
チラッと後ろに待機するメイの方をみると、今にも泣き出しそうに目を潤わせている。
あと半年で上級魔法をマスターしなければいけないんだ。
こんなところでグズグズしてはいられない。
僕は急いで夕食をかき込むと父上に一言礼を言い、書物庫に向かった。
∆ ∆ ∆
王城ののとある部屋で国王と数名の貴族が会談していた。
そこにいるのはエリシアの父、アベルを含め皆名だたる貴族たちであった。
「どうだ?アベル。計画の方は順調に進んでいるか?」
「はい。ちょうど先日、エリシアに魔術学園に行かせてくれと頼まれたところです」
国王の問にアベルはそう答える。
「エリシアがもう、八属性の中級魔法はマスターしたと言うのは本当か?」
「ええ」
「エリシアはまだ八歳であろう?想定以上の上達スピードだな」
「いや、奴が計画の要なんだ。それくらい異端でなければならんだろう?」
「これは少し計画を前倒しできるかもしれんなぁ?」
「アベルは引き続き計画遂行のため、エリシアの監察を続けなさい」
「かしこまりました。国王陛下」