魔術学園と父上
「エリシア様、魔術学園ってご存知ですか?」
「魔術学園?」
メイが僕の側に来てからニヶ月ほどが経ち、僕らは日課である魔術の特訓をしていた。
「魔術学園というのはですね、ちょうどエリシア様くらいの歳の子たちから二十歳を過ぎるくらいまで魔術を上達させるために通う学校のことです」
「ふーん…でも魔術の特訓はお祖父様の残した魔術書で十分間に合ってるんだよね」
あれから僕の魔術の腕はどんどん成長していき、今では一部の属性の中級魔法をほぼマスターしている。
「でもエリシア様、王宮魔術師になるにはその魔術学園を卒業しないといけないんですよ」
「そうなの!?」
「それに魔術学園では現役の王宮魔術師の方々が教師として授業しているそうです」
なるほど…僕が夢を叶えるために通らなければいけない通過点が魔術学園なのか。
「でもね、メイ。僕はすごく行きたいんだけどさぁ、父上が許してくれるかなぁ…」
「あっ…そ、それは…」
メイは僕から目を逸らす。
そこまでは考えていなかったようだ。
「エリシア様の魔術の腕前を知れば旦那様もきっと許してくださりますよ!」
父上が許してくださる可能性はかなり低いと思う。
けれどメイがそう言ってくれるだけで嬉しいし、自信が出てくる。
「うん…僕、頑張って説得してみるよ」
今の状態で父上に頼み込んでも許してくださる可能性はゼロに近いだろう。
それを少しでも上げるために…
「そのためにも、まずは基本八属性の中級魔法を完全にマスターしよう。メイ…手伝ってくれる?」
「もちろんです!エリシア様」
そうして僕は今日も魔術特訓に励んだ。
∆ ∆ ∆
あれからもう一月が経ち、僕は中級魔法を完全にマスターした。
そして今日、魔術学園について父上に相談しようと思っている。
父上に相談できるのは僕が唯一父上と会うことが許されている時間。
この夕食の時間だけだ。
食事は大きなテーブルを挟んで僕と父上の二人だけで食べる。
他の家族は僕を気味悪がり食事の時間をずらしているんだけど、何故か父上だけは僕と同じ時間に食べるのだ。
僕はこの二人きりの食事が好きではない。
もちろん二人きりといっても父上の近くには家臣たちが待機しているんだけど…
食事中、父上は何も喋らない。
もちろん褒めたりなんかしないし、貶しもしない。
好きの反対は無関心なんて言うけれどまさにそんな感じだ。
僕に対して何の感情も湧いていない。
愛してなければ好きでもなければ憎しみも恐怖も怒りもない。
父上は僕に対して無関心なのだ。
本当に自分がここに存在しているのか不安になるほどに。
けれど最近は段々とその不安もなくなってきた。
食事中もメイが僕の側にいてくれるからだ。
あぁ、メイには助けられてばかりだ。
そんなメイのためにも今日は僕、生まれてから一番の勇気を出すことにする。
「あの…父上!僕を魔術学園に入れさせてもらえないでしょうか?」