海へ行こう
アリアンが仔を宿した。
「お父さん、いい仔馬が産まれるといいですね」
「誰がお父さんだ、アホ」
「純情男はのりが悪いですね」
レイがアリアンの首を優しくなでる。
「次の春に出産かな。楽しみだね」
「おとうさま、産まれるときは僕をよんでね」
「もちろん。ルーのお馬だからね」
当分アリアンには乗れない。戦場に行くことはないし、休ませてあげよう。
「おとうさまのお顔赤いよ」
「熱か?」
アナが心配そうに父を見上げ、ヴィンがレイの額に手を当てる。
「このところゴタゴタしてて、さすがに疲れたかな」
ここが一番落ち着くから。
レイは雑貨屋で休むことにした。
静かだ。久々に二人だけしかいない。
看病など経験がないヴィンは、レイの寝室の前をうろうろしていた。
「薬は飲ませた。水はさっき飲んでた。タオルの取り換えするか」
そーっと扉を開ける。スースーと軽い寝息だけが聞こえる。
黙ってりゃ、ほんとにいい男なんだが。
じっとタオルをもったまま、端正な顔を見下ろす。
「……照れます」
「〇×△!! 起きてたのか!!」
「扉の前でうろうろしてるから、どうしたのか気になって」
バシンと雑にレイの額にタオルを載せる。
口ひらくとこれだよ。
ぶつぶつ言っても仕方ないが。
「汗かいた。着替え手伝って」
じっとり汗ばみ、まだ赤い顔がなんとも悩ましい。
なんだかんだ言って食事まで手伝うヴィンは、護衛三人組にまた大笑いされた。
「休暇が必要です。過労死しますよ」
エリオットが念のためブリジットに知らせると、「早急に」と赤字付きで返信がきた。
「お出かけなら、カニがみたい」
「赤くてハサミがあるの」
そうだ、海へいこう!
エリオットとソフィアは留守番。
マリアがいなくなり忙しくなったエレノアの仕事を、エリオットがよく手伝っていた。
エレノアは伯爵家の令嬢。いい組み合わせかもしれない。
馬車で十日。国境を超え南へ。
双子を連れたレイは海へやってきた。
「どうです? 母上の作った親子おそろいコーデは」
レイとルーは白いシャツに水色のズボン。アナは白い襟に水色のワンピース。帽子は三人揃いの白。
少し髪の伸びたレイは、ふたつ結びのアナと揃いの青いリボンで、ひとつに結わえていた。
軽くて涼しく、肌触りの良い麻で作られた船乗り風の大きな襟のついた服は、街行く人の注目を集めた。
「生地を平民でも着る素材にしたのに。おかしいな」
目立つ貴族服は誘拐など犯罪に巻き込まれやすい。せっかく着替えたのにめちゃくちゃ目立つ。デザインもだが、着る三人の素材が良すぎた。
「おとうさま、カニです!」
ルーが拾った流木でつんつんする。
「怖い! きゃー」
アナは意外に足の速いカニから逃げまわる。
領地はわりと涼しいが、海辺は春先なのに暑かった。
寄せては返す波が面白く、双子は何度も波を追いかけ、小魚を見つけ手で捕まえようとする。
「危ないな。ひもでもつけて流されないようにするか」
「失礼な。うちの子は犬じゃないです」
レイに突然足払いされ、ヴィンは海水に尻もちをつく。
「お母様は貝殻を沢山お庭に並べていたな」
そういえば離宮の一角にそんな場所があった気がする。
子ども達は日除けの下で貝殻を拾い、レイはつい夢中になり、日除けから出てしまった。
色白であまり日焼けしないレイは、首の後ろをさらしていて真っ赤だ。
「ヒリヒリして痛い」
貴族用の貸コテージでレイが呻く。
「こちらお使いにくださいませ」
双子付のメイドの一人アンから、冷やしたタオルと化粧水を受け取る。
「ヴィン、お願い」
うなじを出したレイに、ヴィンが容赦なく化粧水をぶっかけた。
今回事務官アランも同行していて荷物の番をしながらアンと話している。ここにも春が来そうだ。
夜は皆で新鮮な海の幸を楽しんだ。
はしゃぎすぎて疲れたのか、波の音を子守歌に双子は早々に眠ってしまった。
朝レイが目覚めると双子がいない。メイドのところかと行ってみたがいない。
どこにも姿が見えない!
大騒ぎになった。




