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聖地巡り

 最近、雑貨屋の周りに若い女性がうろついている。


 セオから報告があった。


 店に入るわけでもなく、ただ前を通り過ぎたり、レイやヴィンが出てくるとキャーと逃げる。


 理由がわからない。


 害はなさそうだが、気味が悪い。


「どうも王都で人気の本の舞台になってるようで……」


「見せて」


 レイが手を出すと、セオが問題の本を背に隠した。


「見せて」


 拒めなかった。


「えっと、タイトルは『白と黒の愛の逃避行』」


 レイがパラリとページをめくる。


 『とある街はずれに薬草店を営む若い男がいた。白銀の髪を後ろに束ね、色白で細身。整った顔がどこか愁いを帯びている』


 なるほど。


『ケガをした時に世話になって以来、店主に会いたさに、黒髪黒目の黒衣の騎士が毎日店へ通い詰め、いつしか店に住み着く』


 全身真っ黒はうちにもいるな。


『店主には忘れられない赤髪の恋人がいたが、いつしか黒衣の騎士の愛を受け入れる。そして二人はすべてを捨ててどこかへ旅立った……』


 ヴィンがここにいたら羞恥で死んでしまうかもしれない。


「これ、作者は?」


「イザベル嬢です」


 大人気作家(一部で)イザベルの渾身のデビュー作。


 その舞台がこの雑貨屋というわけだ。


 乙女たちはモデルになった店と二人を見に(会いにではなく)、わざわざ王都から訪ねて来るのだ。


 聖地巡りというらしい。


「うーん、害はなくても子どもたちの教育上よくないな。僕も騒がれるのはごめんだし」


「姿をチラリと見るだけで満足して帰るんだ。追い払うにしても、買い物に来たと言われたらどうしようもない」


「こうなったら利用させてもらおう」


 事実じゃないし、レイには痛くもかゆくもない。切り替え上手な領主だった。


 グレースの提案をほぼ取り入れた呼び込み大作戦に、聖地巡りもプラスされた。


 白い馬に馬車をひかせ、街をぐるっと一周できるようにした。


 雑貨屋の前で止まらせない代わりに、モデルとなった薬草士の作ったハーブティのおまけをつけた。


 土産にもっと欲しいと注文が入る。

 注文と受け取りは新設した観光案内所。


 希望者には有料で案内を兼ねた傭兵の護衛がつけられる。初めての街。女性だけで訪れても安心だ。


 街歩きにはウィステリアの染め物や刺繍を取り扱う店を回れるように案内板を置き、休憩用のベンチも用意。


 ベンチの前には、子ども達が番をする無料のお茶が用意してあった。


 観光客はお茶を受けとると、つい駄賃を与えそうになるが、受けとれないと言われる。代わりにこちらにお願いしますと、教会の募金箱を差し出される。


 お茶代以上のコインを入れてしまうが、とても良い気分になるから不思議。


 宿泊施設は前領主の別宅を改装した。


 女性専用に肌のお手入れサービスつき。使用されたクリームなど気に入ったものは街で購入できるが、この領でしか買えない限定品。女性は限定に弱い。容器にもこだわった。


 そして聖地巡り宿泊者には、毎朝雑貨屋に届けられるスープとパンのモーニングセットが提供される。


 これを目当てに予約はすぐに埋まった。


 ランチは街の飲食店を利用してもらうが、ディナーは現王宮料理人が監修。料理長は元王宮勤め。


 普段は意外と質素な王族の夕食や晩餐会にも出された豪華な一品料理もあり、観光客の他、領民も一度は食べてみたいと記念日などに利用するようになった。


 それだけでは終わらせない。


 夫や恋人と仲良く品定めするのも楽しいが、たまには一人や女同士でゆっくり買い物がしたい。


 そんな要望を叶えるために、男性達には騎士団見学、体験を用意した。


 憧れの騎士団制服が着れるとあって、これまた申し込み殺到。


 男だけでは考えつかないものばかり。


「あなた達、たまにどこかの店に顔出しなさい。時々でいいの。会えそうで会えないところに価値があるのよ」


 会えなくていいのか。


 よくわからないが、レイもヴィンもグレースに否は言えなかった。

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