06.ウソ告。そして追放 6
「ウソ告とか・・・終わっているな。ローゼンでは、そんなことが流行っているのか」
「性格悪すぎだろ。ちょっと綺麗だからって・・・俺の一番嫌いなタイプかも」
「俺も無理」
「助けなくてもいいのでは。南方戦線にやられたとかいう男の方が気の毒だ」
ヴァンベルクの騎士たちがヒソヒソ言っている。
(聞こえていますから!)
私は拳を握りしめる。
私だってウソ告の説明なんてしたくなかったわよ!
でも仕方ないじゃない。冤罪だと分かってもらうためには、そこを避けるわけにはいかない。
呆れた顔をして私を眺めていたディートリヒに、近くの侍従がそっと耳打ちした。
侍従から報告を受けていたディートリヒが、私に向き直って言う。
「あなたの荷物を改めさせてもらった。ここには、以前、ローゼンであなたを見かけた者もいる。あなたは確かにダブリンガム伯爵家の令嬢らしい」
「ええ。ですから私は罪人などではありません。諮られただけです」
「そうだな。罪人は撤回しよう。・・・しかし、まあ、あなたのしたことは、あまり賢明とは言えなかったな。それに、あまりにも不用意だ」
何だろう。撤回してくれたのに、この言い方は何だかすごくモヤモヤする。
言われていることは正しいけれど!
私は、我慢してヴァンベルクの大公に頭を下げた。
「あの、お願いです。私をバルバラ修道院まで送り届けていただけませんか」
フンッと、ディートリヒは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。
「どうしてバルバラ修道院に行きたいのだ」
「え?・・・行きたいというより、父の命令で行かなければならないんです」
「そうだな。あなたは、父君の命令で行こうとした。ところが、昨夜〈漆黒の森〉に置いていかれたんだろう?」
ディートリヒが金色に光る目で私をじっと見る。
「?・・・ええと、あの、そうですが・・・?」
この人は、一体何を言いたいの?
目の前のディートリヒの厳しいままの表情から、私はその意図を推し量った。
「大公様は、私が〈漆黒の森〉に置き去りにされたのは、父の・・・父の意思だとおっしゃっているのですか?」
私はぐっと拳を握りしめた。
「父は、たしかに私に失望していたとは思いますが・・・どんなに私にお怒りだったとしても、父が私を害するとは思えません」
「・・・そこまでは言っていない。だが、おかしいと思わないのか。馬車に乗ったのは、あなただけだそうだな。1人も伯爵家の者をつけていないし、馬車も王室のものだ。妙ではないか」
もちろん違和感は感じていた。
私が軟禁状態になってからは、父とは一度も会っていない。
そのことを私はあまり深く考えてはいなかった。
私の方だって、父に合わす顔がなかったし、父は父で、とんでもない不始末をしでかした娘への怒りと失望で、私に会いたくないんだと思っていた。
・・・でも、振り返ってみれば、たしかに、何かがおかしい。
バルバラ修道院行きは、本当に父の命令だったのだろうか。
父は、私に会いたくないんじゃなくて、会えなかったのだとしたら・・・
「・・・父は・・・」
無事なのだろうか?
急に手先が冷たくなってきた。
「いいか、あなたはこだわっているようだが、告白が嘘だろうと本当だろうと、そんなことはどうでもいいのだ。そこじゃない。なぜ気がつかないかな」
ディートリヒはじっと私を見つめる。
そして、少しためらった後に言葉をつないだ。
「あなたを消したがっている勢力があると考える方が自然だろうな。あなたが行きたがっているバルバラ修道院が安全である保証はない・・・と俺は思う。これは事実ではなく、あくまで俺の勝手な個人的な意見だが」
ディートリヒの言葉に、私は、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
信じられない・・・私を消したがっている勢力?
そんなことあるはずがない。
でもーーーでも、言わてみれば、あり得るのかもしれない。
社交の場での私の肌感覚は、いつだって私を裏切ってきた。
ライラは親友なんかじゃなかった。
私を弾劾する場で、扇で顔を隠している彼女の姿が思い浮かぶ。
あの扇の向こうで、ライラは口元に笑みを浮かべていたのかもしれないのだ。いや、きっと、そう。
カードを手に、一緒にテーブルを囲んでいた友人たちも、誰も私を助けてはくれなかった。
いつも優しかったエドワード王太子は、肝心な時に私を信じてくれなかった。
何もかもが信じられない。
私がこの森にいること自体、通常だったらあり得ないのだ。
私は思わずその場にくずおれた。
「・・・で、ではどうしろと・・・私はどこに行けばいいのですか」
「仕方ないな。俺の領地に来るしかないだろう。一応、それでもローゼンの元王太子妃候補だ」
「ヴァ、ヴァンベルクに住めと言うのですか・・・」
私の言い方が気に障ったのか、ヴァンベルクの大公はムッとした顔をした。
「そんなに〈漆黒の森〉が気に入ったのなら、ここに留まってもいいぞ。明日の朝まで生きていられるか分からんがな。別に無理に来いとは言っていない」
「それとも、まだローゼンに戻りたいか?」
「・・・」
今となっては、ローゼンに戻って無事に済むとも思えない。
私はうなだれたまま、口を開いた。
「お願いします・・・私を閣下の領地にお連れください」