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05.ウソ告。そして追放 5

ーーー瞳を閉じたまっ暗い闇の中で、私は眠りに落ちていた。

木々のざわめきが聞こえる。

これは夢?なのだろう、多分。


私は森の中を馬で駆け抜けていた。

後ろには何名かのお供を従えている。

前方には、必死で逃げるヘラジカの群れ。

私は弓に矢をつがえて引き絞る。

瞬間、狙いを定めて、矢を放った。

風を切る音がして、前方の大きな角を持ったヘラジカが倒れる。

すぐさま2本目の矢を引きしぼり、放つ。

二体目も倒れた。


ーーーこれは夢だ。

だって私は弓矢なんて持ったことはないんだもの。

こんなことができるわけがない。

だけどなぜか、矢を引きしぼる生々しい実感とともに、この爽快感には確かに覚えがあった。

顔が熱い。

そして楽しい。

3本目の矢をつがえようと、背中の矢筒に手を伸ばしたときーーー


《娘よ。お前に加護を与えよう》


不意に頭の中で声が鳴り響いた。女性の声だ。美しい鐘の音のような声だった。


「だ、誰?」


頭の中の声は、私の質問には答えず、語り続けた。


《狩猟は楽しいだろう?私の血を受け継ぐものよーーーお前に、狩の権能を授けよう》


ーーー


「おい、生きているんだろう。起きろ!」


バシッ、バシッと、乱暴に頰を叩かれる。

痛い。痛すぎる。

多分、頰を叩かれるなんて、幼児の時以来だ。


「な、何をするの」


目を開ける。

顔に当たる日差しが眩しい。

さっきから顔が暑かったのは、この日差しだった。


「大公様。生きていました!」


右の耳元で、怒鳴り声が聞こえる。

鼓膜が破れそうで、思わず耳を抑える。

声のした方を向くと、私を覗き込んでいる騎士の顔があった。


「・・・ここは・・・」


「大丈夫ですか?ここは、〈漆黒の森〉です」


「・・・」


私は昨夜までの記憶を必死に辿る。

夢のことはもうすっかり頭から抜け落ちていた。

・・・そうだ。私は文字通り、森に捨てられたのだった。


大公様・・・?

大公?

隣のヴァンベルグ公国の?


「何があったのですか」


「・・・」


傍らの騎士が聞いてくるが、うまく答えられない。

さっき叩かれた頰がジンジンする。

あんなことをされて、まともな言葉なんて出るわけがない。


騎士が私に水を飲ませた。


「・・・はあ」


人心地ついたが、私の心はズタズタだった。

それからは、何を聞かれても答えずに、私はただ地面をじっと見つめていた。


(あのまま目を覚まさずに死んでしまえたらよかったのに)


「あっ、大公様」


目の前の騎士が後ろに下がり、大公と呼ばれている男性が私の前に立った。

目を上げると、シルバーの髪の30代半ばくらいの男が立っていた。

日焼けした褐色の肌に金色の目がじっとこちらを見ている。

精悍な顔つきをしていて、威圧感がすごい。

大公様と呼ばれていたことから、この男がヴァンベルク大公のディートリヒなのだろう。

身体がぶるっと震えた。

私は、生まれてからこれまで、こんなに不躾に見られたことはないーーーまるでハイイロオオカミか何かに見据えられているような感覚だった。


「うちの国のものではないようだが。ローゼン王国からか?」


私は頷いた。


「貴族だろう。何があった?身なりからして罪人ではなさそうだし」


(罪人?罪人ですって?)


「私は罪人ではありません!!」


少しかすれていたが、思ったよりも大きな声が出た。


「・・・元気はありそうだな」


急に怒りがふつふつと湧いてくる。

袋を投げつけられたり、突き飛ばされたり、頬を叩かれたりーーー昨日、馬車に乗り込んでからというもの、まともな扱いを受けていない。

当たり前のことだが、こんなひどい扱いは人生で初めてだった。

ここに来てさらに罪人呼ばわりをされるとは・・・!

私はきっと顔を上げて大公の顔を見据えた。


「大公閣下ですか?罪人という言葉、撤回していただけませんか?私は、ローゼン王国のダブリンガム家の娘、アナベル・ストップフォードと申します」


私は今までの経緯を説明した。

王宮での昼下がり、羽目を外してウソ告をしたところからの婚約破棄。

そして王室が用意したという、バルバラ修道院行きの馬車に乗ったこと。

しかし、起こされたら、着いたのは〈漆黒の森〉の中だったこと。


私は必死で身の潔白を訴えた。

周囲は静かに聞いている。

婚約破棄の事件以降、私の国で、今までこんなに長く私の話を聞いてくれる人はいなかった。

父も、王太子も、誰も私の言い分を聞いてはくれなかった。


「・・・そして、夜中に私は馬車から放り出されたのです」


すっかり話し終えて顔を上げると、周囲には微妙な雰囲気が漂っていることに気がついた。

ディートリヒを始め、お供の者たちは、みんなドン引きしていた。

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