第9話
【如月 無月 視点】
悪魔?が何かしらの願いを秘めて、ゆっくりとオレたちの前から姿を消滅していく。
結局、あの悪魔?が元は誰だったのかいまだにわからずじまいだが、なんとなくわかることもある。
なぜならそれはあの堕天使、悪魔フラグをひとつクリアしたことだからだ。
「………奏、平気か?」
オレは息を絶え絶えにしながら奏に駆け寄っていく。
「………ありがとうございます。お兄様。はい私はなんとか。お兄様のほうこそ、大丈夫ですか?」
「………あぁ、なんともない。スキル耐性のおかげだ」
さて、身体を休めてHPもMPも完全回復したら、また世界を駆け巡らなくてはいけない。
ここでのロキは相当タフだった。
だが、オレは思う。
こうやって積み上げていけば、前世のオレたちでは抗えなかった、悪魔との対峙も渡り合えるだろうと。
「………お兄様、袮音さんに辿り着くまでまだそうとう遠回りしなければならないようですね?」
「………かもしれないな。だけど人間、天使の根源探しは間違いなくオレと奏にしかできないだろう。多分、次は天使を助けろ、とか出てきそうだな。この一連が最終的には袮音に行き着くための最重要ステップになりうるだろうな」
「………そうだといいのですが」
やがて完全回復したのち、オレたちは時空転移魔法を使ってこの世界から脱出したのだった。
◆◇◆
予想通り、今度は白くまばゆい光の空間だった。
ここでのロキとの戦闘は発生せず、先程と同じように魂を抜かれた哀れな天使?が死に様に向かう途中だった。
「………ロキにやられたのか?」
「………あなた方は、人間なのですか?」
「………はい、私たちはあなたを助けに来ました。信じてもらえないかもしれませんけど………」
「………いえ、あなた方が嘘を言っているわけではないと、目をみればわかります………。しかし、死にゆく天使の私を助けようとするとは。どうやら………、悪魔?が言っていたのは本当のことのようですね………」
「………知っているのですか?」
「………念話と言うのでしょうか?私たちはどうもそれがお互いにできるようです」
「………そうなのか。なら、アンタはロキとのやり取りを少しは覚えているんじゃないのか?」
「………はい、わかりました」
天使?が話したところによると………、大体の話はオレたちもわかる内容だった。
天界に暮らしていたこの人が、仲間の元からはずれたところに、時間差をおいてロキに襲われたという。
奏が【光魔法】の【オーラヒール】を【見た感じ魔道王】の半分のクールタイムで傷を癒しながら、オレは話を聞いていた。
さっきと同じように、オレはこの天使?にも同じことを聞いて一定数の意見を聞くと天使?は消滅していった。
◆◇◆
【オーディン視点】
わしの名はオーディン。秘密組織『オルタナティブ』に属する神の1体。わしの部下、レミアの報告を聞くと突如現れた人間が、心を失ってしまった悪魔?と、天使?の双方を助けようとした者がいたそうだ。
わしはその人間が誰なのかわかる気がする。
あれは………。
「………如月兄妹か………?」
「………いえ、正確には別時間軸の彼らでしょう」
レミアがわしの横に立って話しかけてくる。
ふむ。まずは彼らと会って話をしてみたいと思ったわしは、無月に連絡をしたのだった。
◆◇◆
【無月視点】
オレ、如月無月のもとに、ある着信が入った。連絡をしてきたのは「オーディン」。
別の時間軸でのオレたちから見れば顔馴染みだとは思うが、この時間軸で会うというのは初対面に近い。
まぁ、ちょうど誰かに状況説明をしなきゃいけなかったし、せっかくだから対面してみよう。
奏には簡単に説明を済ませており、再び時空転移魔法でその場所に向かった。
転移先は豪華な船だった。
宇宙船といえばいいのだろうか。
ひげを長く生やした老人がどうやらオーディンらしかった。
「………お初にお目にかかります。オレは如月無月と言います。こっちは妹の奏です、どうかお手柔らかによろしくお願いします」
「………ふむ。ちと聞くが、本当にわしらを知らぬのか?」
そう言われてもなぁ。
本来の時間軸の顔馴染みならそういう反応になるのは仕方がない。しかし、オレたちはこんな人物と出会った記憶がないのだ。
「………申し訳ありませんが、オーディン様が仰っている私たちというのは異なる存在です。故に私は人造生命体ではありませんし、物心ついた時から私の兄はここにいるお兄様です」
「………そうか。奏は普通の人間だと申すか。そして、無月も、わしとは初対面なのじゃな?」
オレは頷く。まぁ、顔馴染みだったらこんな堅っ苦しいあいさつなんかしないしなぁ。
「………理解した。それで改めて聞きたいのじゃが、お主たちもわしらに何か伝えたいことがあるのじゃろ。まずはそれを話してみるがいい」
「………はい、実は……」
◆◇◆
オレはこれまでの事をポツポツと話し始めた。
夢の中で自分と奏が知らない祢音という少女と出会い、『終わらないアリスの物語』を完成させるように言われたことから始まったこと。
不思議なシステムメッセージにより、戦う力を持たなかったオレたちに戦うための力が与えられたこと。
めいせき夢という、アカシック•レコードにも似た本流と支流の違いの流れを知り得たこと。
悪魔?と天使?を説き伏せたこと。
ロキと五分五分の勝負で引き分けたこと。
今までの流れ全てを、ごくごく簡単に淡々と告げるだけの、いたってありきたりな案件である。
隣では、奏も相槌を打ちながら話を聞いていた。その様子にオーディンもひげに時折手をやりながら、オレが話す話にしんしに向き合ってくれていた。
話を終えたオレに、オーディンは言った。
「………なるほどの。そんなことがあったとはの」
横にいるレミアさんも軽くうなずいてくれていた。
「………オレたちも、どうにかして祢音っていう子のところまでたどり着きたいって思っています。もちろん、オレたちが出会った悪魔?と、天使?は1構成にしかすぎないでしょう。それに………仮に堕天使の、いや、悪魔の祢音と対峙することになったとしても、オレは反撃をしようなどとは思いません。別時間軸のオレだったらオレを責めるでしょう。けど、オレだったら、まずはきちんと攻撃を受け止めてやるべきだと思うんです」
「………そうか。ずいぶんと変わっておるの、おぬしは」
「………ですね。でもそれもあなたらしいのでしょう。奏さんももちろん、無月さんについていくのですね?」
「………はい、もちろんです」
「………わかった。ではそこまでの道のりはわしらが開いてやろう。くれぐれも気をつけて、な?」
「「……はい…!!」 」
◆◇◆
(本編第39•40話の世界の時間軸に時間軸移動します。)
◆◇◆
【別時間軸の 如月無月/ 如月奏 視点】
この世界に降りる前。
例によってオレと奏は例の超常現象によるここで起こったリアルな映像をかいま見ていた。
今更ながら………すごくリアリティがすぎるな………。
で、今オレたちがいる近くにも確かに悪魔?化した少女はいるのだが、あれが袮音と同じであるのかどうかは正直なんとも言えない。
「……お兄様、大丈夫ですか?」
奏がオレを見て心配そうに声をかけてくれる。
「………あ、あぁ、大丈夫だ。心配してくれてありがとな?」
「いえ……」
オレは奏に支えてもらいながらその場所へと向かう。
「………お兄ちゃん、助けて」
オレたちの目の前にいるその少女?は確かにオレの名前を口にした。
だが、さっきのリアルな映像がそれが普通ではないことを知って武者震いしていた。
「………お兄様、これは罠かもしれません。あの人に不必要に距離を縮めてはいけません」
「………わかっているよ。ある程度はそれに乗らないといけないんだろうさ」
奏とのやり取りをしつつ、少女?とあとわずかの所とさしかかったところ。
ダァン! という真っ黒な銃で、オレの横をひゅんと弾丸が発射されていく。
しかし、あのシステムメッセージのおかげで、オレは【先読み】のスキルでなんなく回避には既に成功しており、深傷になるようなダメージをもらうことはなかった。
「クックックッ………あーはははははっ!!」
すると長い髪が顔の前に垂れていて顔が見えなかった少女?が、髪を振り上げると勢いよく首を振り上げて急に壊れたように笑い始める。
「………バッカじゃないの!? そんな簡単に騙されるなんて、おかしくて、おかしくて!!」
「………あー、高笑いしているところ悪いけど、かすってもないからな? つーか、あんなあからさまな手に引っかかってうろたえるほど、オレはなまっちゃいねぇよ!」
「………は?」
少女?がほうけたような表情を浮かべる。
奏もそれに便乗する。
「………あなたの闇は確かに強いかもしれませんけど、私たちにそういった攻撃はあまり効果がありませんよ?」
それを見て少女?は挑発と受け取ったのか、その雰囲気を自分の方に持っていこうとする。
「………いいわ、2人まとめて相手してあげるよ! いくよぉっ! 『闇の咆哮』!」
少女?がそれを放つがオレと奏は慌てることなく【光魔法】の【ホーリー】で打ち破っていく。
そのまま走り続け、オレと奏は【炎魔法】の【ドラゴフレア】を【まねっこ動物】の【見た感じ魔道王】のスキルでクールタイムを半分にして【魔力操作】をうまく使って連射したりして斬りかかっていく。
その攻撃はシールドで防がれることはなく、真上に飛ぶ少女?に対して、同時に上を見上げた。
「………ふふ、バーカ」
と叫ぶが、奏は冷静にその攻撃をいなしていく。
その後も少女?は闇魔法をバンバン使っていくが、オレと奏の闇耐性はかなり高く、吸収回復されていくのに気付いている様子はなかった。
『……ブラッディ ショット!』
朱い弾丸が発射されるがそれも【スキルキャンセラー】の効果で打ち消すオレたち。
少女?の周りに強力なバリアが張られようが、【防御無視】の武器ダメージで軽くダメージを与えていく。
「降り注げ、『ジャッジメント』!」
空を覆う黒い雲を突き破って大きな闇の砲撃が地上に落ちるが、防御の【無敵】オーラでダメージを完全に防ぎやり過ごした。
「万物を飲み込め、『暗黒 扉』!」
詠唱を終えると円形の魔法陣があった部分に真っ黒な球体が現れる。
するとそこがブラックホールになったように周りの草や石をもの凄い力で吸い込んでいく。
それは攻撃の【無敵】オーラでそうさいさせた。
「………もう、こんな茶番は終わりにしよう?」
オレは少女?の前に立ち、大きく両手を広げると勝負を無理矢理終わらせた。
「………正気を失っているのか?オレたちのことがわからないのか? 大丈夫だ、すぐに元に戻してやる。『フェニックス』! 『聖なる炎』!」
オレの呼びかけに応えたフェニックスが、光る翼から癒しのともしびを辺り一面に降り注ぎ始めた。
すると、少女?のくらくよどみきった身体や心はけがれのないすみきった身体や心へと変えていった。
その様子を見た奏がオレに近寄ってくる。
「………やったのですね、お兄様!!」
「………あぁ、待たせてすまなかった、奏」
◆◇◆
???「………その魂のかがやきは、どこかで出会ったことがある気がする。お前たちは、あの時の……」
少女?がゆっくりと目を開いて呟く。オレたちは満面の笑みを浮かべて言う。
「………そうだ。やりたい事は見つかったか?」
「………いや、そう簡単には見つからない。だが、お前たちと行動を共にすればこの私にもなんらかの価値が見いだせられるだろう。私を、お前たちの仲間に入れてはくれないか?」
「………あぁ、そう言ってくれるって信じていたよ。行こう、この時間軸のこの闇の力を持った少女?はもう平気だから、オレたちは先に急ぐぞ、奏」 「はい、わかりました。お兄様」
▶︎悪魔?の少女(仮)が加入しました。
そしてオレたちは再び時空間移動をしたのだった。