第8話
オレ、如月 無月 と、妹の奏 は、またよくわからない空間にいた。
「………お兄様 ? ここはどこですか?」
「………たしかに、ここはどこなんだろうな?」
そう言ってお互い、この不可思議な空間になかば放心状態で過ごしていると、はるかかなたに白く光る川と青くかがやく川のようなものが視界へと映る。
オレと奏はその違いを知りたくて手を伸ばしてみた。
するとーーー。
白い川………いわゆる「本流=正史」とでも言うべきの世界としての流れはこうだ。
そこに映るオレは知らない少女、
(おそらく感覚からしてあれは祢音なのだろう)と仲睦まじく育った仲だった。だが、この世界では母さんが父さんにやられ、少女の真実を知らされるというものだった。
いっぽう、こちらは青く光る「支流=パラレルワールド」というべき世界。そこにいたのは奏を唯一無二の妹として、父さんも母さんも学校の友達も誰ひとり欠けることのない世界がそこにはあった。
さらに、黄色く光る川、その世界は先程の支流からさらに分岐された世界でいわばずっと遠い未来の世界を映し出していた。
その世界でのオレや奏は立派な大人になり父さんと母さんの意思を継いで研究者の道を歩く日常と、もう一つ、大人になって別々の分野で生きるオレたちがそこにはあり、その中には祢音の存在がしっかりと認知されていた。
「………奏、もしかしたらこの空間はめいせき夢というやつなのかもしれない。この空間でのオレたちは現実から切り離され、知ろうと思えば何だってつかんで知ることができるようになれるらしい」
「………めいせき夢? でも言われてみればたしかにそんな気がしますね」
「………祢音の存在が謎のままだったけど、これでオレもお前もなんとなくわかりそうな気がしてくるな」
「………お兄様、新たな疑問が生まれました。私たちにこのような役割が与えられたというなら、そこにはなにがしかの役割があるのではないでしょうか?」
「………オレも、お前と同じことを考えていたよ。さぁ、続きを見に行こうぜ」
場面転換。正史でこの世界でのオレは父さんの傍らに立つ、奏と相対する。
再び場面転換。失われた祢音を取り戻すべくあまたの世界を新たに仲間になった奏と吸血鬼になってしまったオレは世界を巡り、その中で悪魔の祢音や天使の祢音という、祢音を形成している存在と対峙していく。
あとこれは余談だが、オレと奏は別時間軸の並行世界で祢音という少女と、奏にまつわる誕生秘話の外伝もかいま見た。
再び場面転換。ついにオレたちはロキとの最終決戦に挑む。そんな正史の世界とパラレルワールドを見比べていくと、頭がおかしくなりそうになっていく。だがこれがオレたちの隠されていた真実なのだろう。
そしてそれからも物語は続き、オレたちは二次創作他作品との多少のつながりもできたようだった。
そして先程奏は、役割があると言った。
つまり、オレと奏は運命的ななにかから何かを期待されている? っていうことだ。
だからこれはタイムなんとかっていう現象なのだ。
あと、この空間はアカシャの一族が逆らえないという、アカシック•レコードに近いといってもいいだろう。
「………何だったんだろうな、今のは?」
「………よくわかりません。少なくとも私たちにはこんな体験をしたことなんかないですし。でも言えるとしたら、きっとこれも何か理由があるのでしょうね」
たしかにこの空間でオレと奏は別時間軸の並行世界でのオレたちと向き合った。
だが、なぜかそこに祢音の存在だけが欠けている気がしてならない。
オレが夢で出会った、祢音。
彼女はあの時なぜそう言ったのか、今でもよくわからない。
「………お兄様、私の誕生秘話の時間軸でのことなんですけど。隊長のお話だと、彼女を創造する際にたしか、人間と天使と悪魔の魂をロキがお父様に渡したそうですが、素体となった魂をロキがどうやって手に入れたのかが疑問のひとつです。もし、運命力が私とお兄様に役割を与えるのだとするのならば」
「………そうだよな、その点が明らかになってないよなぁ」
もしかしたら、運命力はオレたちに、素体となった人間、天使、悪魔の概念を真っ先に疑ってかかったのだろう。
仮に人造生命体であったとしても、である。
数々の困難を共に乗り越えてきた存在であるならば、仮に住む世界は違ったとしても内側は同じ魂をもつ者どうしなのだから、なんとかできるのではないかと。
だが、それを探して説得するだけで全ては丸く収まるのか?説得に失敗した時のリスクはどうなるのだろうか?
オレと奏はこの困難に立ち向かえるのかどうか。悩みを抱えつつも、オレたちは赤の他人に等しい存在である一人の少女と向き合うことに、頭をかかえるのであった………。
◆◇◆
【???視点】
私の心に、知らない人間がやってきた。1人は少年、1人は少女だった。永らく私の中に外からやってきた人間というのは珍しかった。まかり間違っても初見で瞬殺せぬよう、まずは彼らの人となりを見極める必要がある………。
【無月/奏視点】
▶︎【バランス】が発動しました。
無月と奏のレベルとステータスをとあるプレイヤーのステータスとスキルのデータをダウンロードします。
▶︎【バランス】が発動しました。
無月と奏に向けられる闇耐性を大幅に強化します。
…………オレと奏に対して何らかのシステムメッセージが出た………。
いや、単純にこうしなければ……相手とのレベル差やら何やらに違いが出すぎてしまうというのだろうか。
…………まぁ、ないよりかはあったほうがマシだが。
なにせ、別時間軸の並行世界で戦ってきたオレたちとは違い、今のオレたちにはそれを抗するだけの戦うための力はほぼ無いのだから。
「………お兄様、大丈夫ですか!?」
「………あ、あぁ、何ともない。奏、お前は平気か?」
「………私は平気です。今度はどこに飛ばされてしまったのでしょうか?」
「………周りの空気がだいぶヒンヤリとしているな。もしかしたらここは堕天使………いや、悪魔の魂の素体とされた誰かとロキが巡り合う世界かもしれないな…………だとしたら、さっきのメッセージはこれを見越していたのかもしれないな…………」
???「………キャアァァァ!!」
オレたちのすぐ近くでかん高い女性か誰かの声が聞こえた。辺り一面真っ暗闇の中を声のする方へと駆け回っていく。
するとーーー。
「………チッ、命拾いしたな」
多分、あれはロキなのだろう。が、その場で転移魔法を使い別の場所に移動してしまった。その場に残されたのは先程、ロキにやられ腹部からおびただしい血溜まりができたある悪魔?だった。
「………大丈夫か!?」
オレと奏はすぐさま駆け寄り、悪魔?の近くに膝をかがんで出血の度合いを確かめる。すると、また何らかのシステムメッセージのようなものが現れた。
▶︎基本的に悪魔種族系は【光】属性系を嫌う傾向が高い可能性があります。お二人は【闇】属性系の魔法や魔術を多用して、傷を癒して下さい。
とある。そう言われてもなぁ。例えば、この【ダークルーム】とかの魔法を使って守りながらやり過ごせっていう事か?
「………お兄様がこの悪魔さんを助けるということは、ロキにやられてしまった魂が抜け落ちてしまっても何らかの価値を与えれば、わずかだけれどかすかな光が灯るかもしれない、と考えているからですか?」
「………それもあるし、どのみち、コイツを放っておけば何かしらフラグが成立しなくなるんだろう。だったら、何が起ころうともオレ達が誰かを助けるのは当然だというものだろう」
◆◇◆
【???視点】
この私を助ける、だと?
私は今しがた、ロキに核ごと魂を奪われ、死にさらすような存在なんだぞ?
わからない。何故、私を助けようとする?
私が悲痛を訴えたからか?
私はあまつさえ貴様たちに害を脅かす存在になるかもしれないというのに?
なぜ、なぜ?
そんな顔で哀れに私を見つめられるのだ?
◆◇◆
【無月/奏視点】
オレは口下手ながら一生懸命に声を吐き出す。
「………オレたちはアンタからすれば何の力もない弱き存在なんだろうけどさ、こんなオレ達でも今のアンタを放って行くのはどうしたって出来ねぇんだよ!!」
オレはアカシック•レコードで得たいくつかの知見から別時間軸のオレのことをつらつらと並べ立てていた。
「………オレはどこにでもいる普通の学生だったんだ。それがある日、母さんを父さんが殺し、さらにオレのもう一人の妹になれたかもしれない少女が、ロキとのキスで堕天使にされ、果ては悪魔になっちまった」
「………この時間軸でこそ、私とお兄様はただの人間で兄妹関係で相思相愛になっていますが、別時間軸での私たちはそうでもなかったみたいでした。その人を助けるため、世界を巡り巡っていったそうです」
???「……それ、で、その後はどう、なったのだ?」
おっ、やっと声を絞り出してくれたな。
「………地獄だった、とオレの記憶が叫んでいるよ。オレたちの組織からも現実世界からも多大なる犠牲者を増やして、その過程でたくさんの命が還らなくなった。だからきっと、オレたちが普通の人間でいられるのは、そうした犠牲者の願いがようやく形となって生まれた奇跡、なのかもしれないな」
???「……そうか…」
◆◇◆
【???視点】
この人間たちを突き動かすものは何だ?
もうすぐ、私は死ぬというのにそれを楽しもうとしている自分は何なのか?
…………………。
この人間たちが私をかどわかそうとか魅了しようとして話しているわけではないのは、この短い時間でそれは理解できたが、一体この少年は私という存在をどういう価値で見ているというのだ?
「………アンタはさ、命が助かったらさ、まず何がしたい?」「は?」
いきなり、この少年は何を言い出すのだろうか?
私はもう全てを放棄してしまいたいのに。
だが、どういうわけか、それを手放すことをよしとしない私が内側にいるようだ。だから考えねばならない。私が望む未来とは、どういうものなのかを。
「………アンタが困っているなら、きっと何度時を遡ろうとも、絶対に助けようとする。何せ、そう決めているしな」「決めている?」
「あぁ。どんな結論になろうとも、『自分が決めたことからは絶対に避けない』ってな」
「………ロキに歪められる前のあなたは多分、優しい理性ある悪魔か堕天使だったのでしょう。攻撃的になるよう仕向けられる前のあなたは弱者をその身体を張ってでも守ろうとしたはずです。今の姿じゃなく、もっとたくさんの素敵な笑顔やたくさんの表情が見れたのでしょうね。ご自分でも気づいていますか?今のあなたからは私たちをどうこうするというよりも、私たちと対等な関係になりたいと変化があるはずです。欲しいのなら、その手を伸ばして掴まないといけないんです!」
(いいのだろうか、この私に価値があると、認めてもいいのだろうか?)
少年は私に対してなおも呟く。
「………オレたちがそういった概念を与えてしまっているのもどうかと思うが、ここにはアンタに価値があると言っている人間が2人いるだろ。それでいいじゃないか」
そう言い切ったあと、少年は私に対して闇魔法をかけると、私を守るかのように隔離し始めた。
◆◇◆
【無月/奏視点】
「………やっぱりな、そう簡単には引き下がらないか」
「私は大体予想していましたが結果オーライでした」
オレは【闇魔法】の【ダークルーム】を悪魔?にかけて遮断すると、当然のようにロキが舞い戻ってきた。
「………オレの手の中にある悪魔の魂の輝きがわずかながら明滅したから何かと思って戻ってきてみれば、ただの人間がこの闇の中でそれがしを守るとは、なんとこっけいなことだな。こんな雑魚の相手をするのはオレにとっては時間の無駄だか、どうせこれが終わり次第オレの目的を叶えるためにたぶらかす人間に、この悪魔の魂を渡す手筈なのだが、仕方ない。2分だけ貴様らの相手をしてやろう」
さっきのスキル耐性がなかったらこの畏怖だけで足がすくんでしまっていたかもしれない。
このロキはやはり本来のレール通りにそれを別時間軸の親父に渡すんだなと、直感でわかった。
「………頼むぜ、オレの相棒!『フェニックス』召喚!続けて、来い!『レーヴァテイン』!」
「………お願い、来て!『妖狐』! 『ミスティルテイン』!」
「………ほう、人間が魔剣と精霊を召喚するのか。なかなか楽しい余興のようだが、さて、オレを愉しませられるのか?」
◆◇◆
『焔刃』
オレは魔剣に焔をまとわせる。
『灼熱の波』
続いてレーヴァテインを床に突き刺し津波のように炎がひろがる。
横ではオレに続けて奏もあとに続く。
『妖術 狐火』
私は周囲に蒼の火球を展開する。
『ソニックムーブ』
私は音速で移動を開始し、ロキへと近付いていく。
◆◇◆
(なお、ここでの戦闘シーンは長すぎるとかえってだれますし、ロキと無月&奏ではここでは決着がつかず五分五分の手合いになるので割愛します)
◆◇◆
【???視点】
【闇魔法】の【ダークルーム】の中から私は、私に価値を見出してくれた人間の少年少女が、ロキを巡って互角かそれ以上の力で激しい攻防を広げていた。
ロキは強い。神だから当然だ。だが、あの人間たちはそれ以上に強い力を持っていた。
ふと、私の頭の中で先程の少年の声がはんすうする。
『………アンタはさ、命が助かったらさ、何がしたい?』
『アンタが困っているなら、何度時を遡ろうとも絶対に助ける。そう決めているからな』
この人間たちと対等でいられるのだとしたら、私はこう望むに違いなかった。
-私を、あなたがたの仲間に入れてはくれないか-
-私は、私が正しいと思うものに、手を伸ばす-
と。
それを願った瞬間、魂や心を失いかけた私の中にほんのかすかな光がたゆたい始めた。
私は少しずつ自分の身体が消滅していくのを感じた。