第7話
オレの名前は如月無月。家族構成は4人。親父の名前は日向。お袋は桔梗。そして妹は、奏という。そしてゆくゆくは生まれてくると思われている末の妹、それが祢音というらしい。
オレたちには他の人には言えない秘密の組織がある。魔法が使えるんだ。魔法なんて言葉は響きはいいけど、そんなにいいものでもない。間違った使い方をすれば、誰かを危険にする。しかし、正しい使い方をすれば誰かを護ることも助けてやることもできる。そんな魔法だ。オレの中にある記憶っていうのは、本当のところはオレが知らないはずのいくつものことを、オレのゴーストがささやいて覚えている感覚みたいなものを共有している。
そのゴーストが言うには、昔オレは人間を失ったことがあるらしい。更に、先ほど挙げた祢音というヤツと対峙したことがあるらしい。それも人間ではなく、悪魔のほうだったとか。もちろん、オレは悪魔の祢音がいるということも、天使の祢音がいるなんてことも知らない。だけど、オレのいくつもの輪廻をめぐってきたゴースト達がその出来事を記憶として継承し続ける限りはオレも覚えているのだろう。
そんなある日‥‥。オレと奏は思いもよらぬ出来事が起こった。それは‥。
◆◇◆
【如月 無月 視点】
オレーーー如月無月ーーーは、妹の奏 にいつも通りに起こされた。だが、オレは今朝と学園での生活で過ごす妹には中々気付くことができずに、放課後を迎えることになる。奏はオレの手を引いて怪しい屋敷に連れて行く。その中にいたのが、道中露店を開いていた婆さんだった。
婆さんは、不思議な術で奏を惑わし、意識を操ったのだという。
そんな婆さんはこのオレに「お前がどう思うとも、ワシはワシの意志で、この娘とお前を『入れ替え』させてやる」とのたまってきたのだ。
うさんくさそう、などと思いながらもオレは奏を連れて帰るのだった………。
◆◇◆
【???視点】
「………んぁ?」
オレはいつの間にか眠ってしまったらしい。だけど、なんだこの違和感は?
オレのはずなのに、妙に視線が下がっているようなそんな気配を感じる。
ぼやけたまなこを開けていくと、オレはその身体が誰のものなのかわかっていく。
(………この身体、もしかして今のオレは奏になっているのか?)
妹の奏と兄の身体の中身が入れ替わる。それは普通はありえないのだがオレには確信していることがある。それは………、あの屋敷で間違いなく、あの老婆がオレと奏の中身を入れ替える薬かなにかをやったことだ。
(そうか、それならこんな状況になっちまったのも納得するしかないよな?)
いくら奏の身体に今のオレがなっているのだとしても、多分今頃オレの中に入った奏も、うすうす気付いているんじゃないだろうか。
それに………もしかしたら、奏の思考を少し借りればオレでは至れなかったあの少女、祢音を知る手掛かりができるかもしれねぇ。
「………かな、いや、無月お兄様、起きて下さい」
奏と言いかけて、オレは咄嗟に記憶から口調を真似た付け焼き刃で目の前にいるオレを起こす。
すると無月はうろんな目をして自分の身体を見てつぶやく。
「………ふぇ?え、えーっと、あなた誰ですか?」
「………誰って、私ですよ。如月奏。お兄様の妹です」
「………???いや、それは私の名前………あの、もしかして、私は今お兄様の身体になっているのですか?」
「………えぇ、そうみたいですね。それからお兄様、その話し方は周りを混乱しかねませんので、記憶を読んでその生活に慣れたほうがいいかと思いますよ」
◆◇◆
【如月奏 (無月) 視点】
目の前にいる私の身体に入り込んだお兄様との対話で今置かれている状況を確認しあった私たちは、とにかく両親や周囲にバレずに隠し通さなければならないと話し合っていた。
私たちは互いの身体が違うのだから、記憶を読んでこの状況をやりすごそうとした。
そんな中で、私はお兄様の記憶からやはりあの少女のことを強く意識してしまう。
自分たちが知らないはずの少女。ゴーストというのはあくまでひゆ表現だろう。
おそらく、私とお兄様は並行世界の違う時間軸でお互いのことを知り合っていったのだと仮定できる。その過程で私たちを取り巻く世界の見方もおのずと変わってくる。
どちらが本当の世界で、どちらが虚構なのか。そのか細い線はあまりにも不確定極まりなく、それを確かめるすべはない。
けど、もし。祢音という少女とこの家で暮らしていたのならどうなるのか。
そんなわだかまりがなんというか、私とお兄様をその並行世界の別時間軸に連れていかれた。
ナレーション「………お互いの身体の入れ替わりが一時的に解除され、しばしの間別時間軸の彼方へと飛ばされて、知らない情報を知りにいく2人なのであった」
◆◇◆