第23話 奏Side / 如月奏とレプリカの住人たち ②
リョウ「………ん、どうかしたのかな?」
ソウ「………どうかしたの、おねえちゃん?」
レプリカの国で出会った私のレプリカの、ソウという男の子にオリジナルのすずみさんから生まれ落ちたリョウさん。あのレプリカの通う学校には未だ知らぬたくさんのレプリカの生徒たちが暮らしていました。
私は………特異なイレギュラーの存在です。だからこそ、レプリカがあまり考えられないことを私は打開案を提示する必要がありました。
「………森すずみさんを救えなかった時間軸の世界じゃなく、すずみさんが生き残ってリョウさんの存在が認識できない時間軸でもなく、すずみさんとリョウさんのお互いの存在と認識が周りの人たちにも見えてもらえるような………そんな時間軸の並行世界を、私と今から探しに行きませんか?」
◆◇◆
【リョウ 視点】
この子は………何を言い出すのだろうか。わたしはまさかの提案に思わず顔をしかめてしまう。わたしの隣にいる彼も困惑しているのはあきらかだ。
リョウ「………わたしはそんな運命にはならないと、話したはずだけど?」
奏「………じゃあ聞き方を変えます。あなたがいた時間軸で、あなたが演劇でかぐや姫を演じられたのはどうしてか考えたことはありますか?」
リョウ「………いや、ない。そんなこと考えたことも………ないよ」
奏「………それは、あなたがオリジナルのすずみさんの記憶と表現力を持っていたからですよ」
………………。そうか………そうだったのか。
じゃあわたしはすずみの身体を一時的に借り受けていたというのか。
奏「………もちろん、個の力には限度があります。だから、この件を解決するにはもう一人の………力を借りる必要があります」
言われなくともわかる。わたしも知っており、すずみにも近かった男の子………望月 隼くんだろう。ただ、奏ちゃんは自分がどう思ってそれをなそうとしているのか、本当にわかっているのだろうか?
奏「………私たちが向かうのはまず始めにすずみさんやリョウさんが恋していたある男の子の………この場合は両方を喪った時間軸のほうですが。彼に事情を話し協力に漕ぎつけた後にすぐ、倒れる前にすずみさんが書いたという手紙を媒介に用いてその時間軸へ行き、全てのはじまりである5歳のあの日の世界にも行くことで、未来/過去との整合性を繋げるためにも………今回は時間移動をするために、あるアイテムを使います………これです」
そう言って取り出したのは、ジグソーパズルの形をしたピース (※憑依小説 (2) や (3) からの流用)だった。
奏「………ソウくん、このピースに触れてみて?」
ソウ「………うん、わかったよ。おねえちゃん」
ソウくんのきゃしゃな手がピースに触れたのを確認しながら奏ちゃんはわたしにも手を差し出すように触れさせる。その光景を見ていた多くのレプリカの生徒が慌てて駆け寄ってくる。
レプリカの生徒たち一同「………寮長と、知らない誰か………みんなしてどこに行くの?」
「………寮長も連れて行っちゃうの?」
その疑問は当然だ。わたしはしばらくこちらの世界から離れるのだから。だけど奏ちゃんは必ず帰ってくるからと言って、彼女の件が終わったら次はあなたたちの番だよ、とだけ伝えるとそれを聞いた生徒たちはうなずいてわたしたちを送り出してくれた。
まずはわたしとすずみを喪った時間軸にいる彼………隼くんの世界だった。
◆◇◆
【望月 隼 視点 / すずみとリョウの両方を喪った時間軸】
………………。森………、リョウ………どうしてだよ………!!
あの日から僕は心の中が空っぽだ。芝居やら何かに打ち込んでいる時は忘れられるが、思い出すと涙がとめどなくあふれてくる。そんな時だ。僕の前に現れたのは、リョウと知らない誰かだった。
そいつらは僕に言った。『………望月先輩がなくしてしまったあの日のオリジナルの森先輩にメッセージを届けに行きませんか?』 と。
その言葉を聞いて、僕はそいつらと一緒に時間軸の流れに逆らってあの日の森の5歳の時の世界と、森がレプリカを生み出して、リョウとわかたれてしまったあの時の時間軸へと時間移動をした。
5歳の時に、自身のレプリカを生み出したリョウと相対させ、過去を森の記憶に刷り込ませたあと、13年後の森に、リョウという自身のレプリカを思い起こさせる。
案の定、当人は混乱していたが、その時間軸の記憶があるからには根から否定するわけにはいかなかったようだ。
少々いびつだけど………、森に過去とif の未来の記憶を持ち越せたわけだ。
それで僕は切り出した。
隼「………過去と未来が繋がった今だからこそ、改めて問うが、森、お前には見てもらいたいものがある」
すずみ (※ 過去の時間軸)「………見てもらいたいもの? それって何?」
隼「………俺、お前のレプリカ、後輩のレプリカ2人と………後輩の弘中が作った、文芸部と演劇部による、共同演劇。その集大成を、な」
◆◇◆
【すずみ 視点】
わたしは、隼くんの見せたいものに心が踊った。と同時に、いつ文芸部と知り合うきっかけができたのか知りたいところではあるけど、彼も多くは話さないところが後ろめたいところなのだろう。
文芸部の弘中さんが書いた今回の話………正直言って私は目をみはった。幼い頃にわたしが生み出し、わたし自身それを長年忘れてしまった、自身のレプリカのことを思い出すきっかけになったのも皮肉な話だった。
この劇を見て、お母さんは心をいれかえて隼くん宛に手紙を書いたものを渡していたのも、わたしのレプリカであるリョウちゃんがわたしになりかわって生徒会の責務を果たそうとしたことも、今知った。
リョウちゃんは、わたしのレプリカはどんな想いでこの体育館で責務を果たそうとしていたのか。
オリジナルであるわたしの心臓が停止したことで、リョウちゃんは存在を消滅させられてしまった。スルセイの生徒たちがわたしの死を哀しみ、哀れんでくれたかのは、想像にかたくない。
そしてーーー、わたしはこうして時間軸の記憶の流れでリョウちゃんと交流がもてた。
だからこそ、今度はわたしが言わないといけない。
すずみ「………リョウちゃん、今まで、本当にいろいろ迷惑や心配をかけてごめんなさい。わたしの代わりに、わたしの人生を肩代わりしてくれてありがとう。それから………隼くんも伝えられなかった想いを打ち明けられずにごめんね。隼くんと過ごした日々はわたしの宝物だよ。あとね、それから………」
どうしよう。言いたいこと、伝えたいことはたくさんある。とめどなく口からこぼれてしまいそうになる。
隼「………よく頑張ったな、森。僕はこれからも前を向いて頑張る。だから、生まれ変わったらまた一緒の時間を作っていこう。それまで、お別れだ」
◆◇◆
【奏 視点】
望月先輩を元の時間軸に送り返し、私はソウくんとリョウさんを連れて元のレプリカの国の世界に帰還しました。レプリカの生徒たちひとりひとりと向き合って、オリジナルのその後を心配する子たちの心と付き合った翌日。私のことを聞いてひとりのレプリカの子がたずねてきました。
彼女はオリジナルの、佐藤 梢さんから生み出されたレプリカなのだそうです。
私はそんな彼女と向き合っている内に段々と意識が遠のいていき………最後は私のレプリカであるソウくんとリョウさんに見守られる形で、私はレプリカの国の世界から元の時間軸へと戻っていくのでした。
私の目が開いた瞬間、久しぶりにお兄様の姿が見たくなり………私はお兄様の部屋に行きました。
そうしたら………。
私に起きた現象が、今度はお兄様にも起こっていたようです。




