第20話
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※時は少し遡ります………。
【如月 奏 視点】
「………お兄様、今日は私の用事に付き合ってもらえませんか?」
ここは私たちが兄妹として認知された並行世界の時間軸の世界線です。今私はそう言いながら私はお兄様に声をかけ、その手を引っ張り外へ連れ出しました。
話は少し前に遡ります。まずはそのことについて簡単にお話ししておきます。
しばらくの間この並行世界の時間軸を自分たちの意志で離れていた私とお兄様が何をしていたのかというと、こことは違う世界の人たちの身体になって学園生活をしていました。男性がいない女性だらけの生徒の世界線です。
そこでしばらくは過ごしていたのですが、長いようで短かったその時間は終わり今はこうして元の世界に戻ってきた次第です。
そしてすっかりなまった身体を動かすため、私たちはたまたま家の近くにある公園にやってきた、とまぁ、そういうことなのですが。
そんないつもの光景の中にひときわ目立つ美少女がいたので私は意を決して話しかけてみました。
「………あの、もしかして違う異世界から迷い込んだ人ですか?」
「………はい、そうですけど。あなたは?」
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【ティリア 視点】
わたしに話しかけてきたのはかわいい顔をした少女でした。口ぶりからするとこの世界の住人かもしれません。わたしは今置かれた状況がわからないまま迷い込んだので、教えてもらえるなら教えてもらったほうがいいと思い、彼女たちの家にお邪魔することになりました。
彼女たちと自己紹介したわたしは自分がいた世界のことを話すと、少女………奏さんは真剣にわたしの話を聞いてくれました。
「………そんなわけで、なぜか知らないけどわたしはこの世界にいたんです」
「………そうなんですか。でも世界を渡り歩くすべは私たちにもわからないんです。あまりお役に立てなくてごめんなさい………」
「………いえ、聞いてもらえただけありがたいです。しかしこの世界は不思議ですね。こんなにたくさん自然も緑も豊かで素晴らしい場所がありますのに、いっさい魔法のたぐいが使えないというもろもろがあるのはわたしにとっては少し、息苦しいですね………」
「………ティリア王女といったか? この世界で魔法を使えないのは多分だが使った瞬間、周囲に危険が及ぶからなんだと思う。クマを召喚するその手のものも、どんな形をした武器を持つものであるならなおさらなんだ。そっちの世界で許されることでも、こっちは下手すりゃ逮捕だ。銃刀法違反になりうるからな。だからこっちでは警察………そっちの世界で言えば兵士や護衛がそれにあたるのかな?
特殊訓練を受けた自衛隊でない限りは難しいわな。まぁ、話を聞いたからにはオレたちがあんたの面倒を見てやるよ。それでいいよな、奏?」
そう言って彼………無月くんは妹さんに振ります。
奏さんは「はい」と言ってわたしに協力してくれました。
わたしは無事にあの世界へ戻ることができるのでしょうか?
お父様やお母様たちがいるあの世界へと………。
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【ユナ 視点】
わたしは王都の冒険者ギルドをあとにする。クマの転移門のスキルを使ってわたしは、クリモニアにある自分のクマハウスに戻ってきた。
結局王都ではティリアの姿を見つけることができず、こうして帰ってきたわけなんだけど。
さて………今回はどうしますか。
………そもそも、そんな話がありえるのだろうか。
(生死不明っていうのがなんともいえないよね………)
そんなことをわたしが考えていると。
「………帰ってきたの、ユナお姉ちゃん?」
ドアを開けて入ってきたのはクリモニアで暮らす11歳の女の子で、わたしが各地で討伐した魔物を解体するパートナーになってくれているフィナだ。
もうだいぶ前のことにはなるけれど、わたしがこの世界に来て最初に助けることになったひとりで、わたしがこれからも長く深く関わることになったしっかりしすぎるくらいの少女だった。
彼女には父親はいなかった (既に故人)ため、病気の母親や小さい妹のために魔物のいる外に薬草をつみにいったりしたところを、わたしが何度も手助けしたことで関係が強くなった平民の少女だ。
わたしは彼女の母親の病気をクマさんチートの回復魔法で治療してあげたり、当時はまだ冒険者ギルド職員だったゲンツさんの頼みで魔物の解体処理をお願いしたりしてその信頼度を強くしていった。
またわたしの行動範囲が広がるにつれて関係を持たなかったこのエルファニカ王国のクリモニアの領主や、王都、シーリンの街で暮らす貴族の誕生日パーティーなどにわたしはフィナを散々連れ回したりして、たびたび危険なことを巻き込んでしまうが、その度にそこで出会った数々の何にもかえがたい体験を味わい、今では実に頼もしく成長した少ししっかりしすぎなくらいの平民の少女だった。
特にミサのいるシーリンの街にいたガマガエル貴族………サルバード家に関してもひどい待遇をミサは受けてしまったんだけど、そこに残忍な冒険者であるブラッドにはミサをかばうために貴族であるフォシュローゼ家の次女のノアと一緒に身体を張って守ったことで殴られた過去もあったんだよね。
まぁ、それはおいといて。今はフィナの話を聞かないとね。
「………あぁ、そうだけど。珍しいね、フィナがひとりでわたしに会いにやってくるなんて?」
するとフィナはうつむきがちに呟く。
「………そうかな? ユナお姉ちゃん、お城に行っていたんでしょ? フローラ様は元気だった?」
「………うん、元気だったよ」
わたしはフィナに事情を話すべきか悩んでいた。
「………? ユナお姉ちゃん………?」
返事を返さないのでフィナがわたしに聞き返す。
わかった。クマの契約魔法を使うことにする。
「………フィナ、悪いけどわたしと向かい合うように座って」
わたしがそう言うとおとなしく対面に座ってくれる。わたしはクマの契約魔法を使う。
「………ユナお姉ちゃん、この光強いんだけど、大丈夫なの?」
「………大丈夫。輝きが強いのはわたしの秘密がそれだけ重いってことだから、わたしに合わせて同じ言葉を発してくれる?」
フィナはわけがわからないけど悟った表情を出す。
「わたしの秘密を口外しないこと、但しわたしの秘密を知る者は除外する」
さて、どこから話そうかな。
「………この契約魔法が働いている間は、フィナが気になって聞けなかったこと聞いていいからね」
そう言うとフィナは質問をしてきた。わたしは嘘偽りなく正直に話す。といってもカガリさんに話したことと内容は変わらないけど。
わたしの秘密を知ったフィナはこれまでで一番複雑な顔をしながら話しかけた。
「………そうだったんだね、ユナお姉ちゃんはわたしやみんなに怖がられるのを恐れてなかなか話をすることができなかったんだね………だからアニメ1期の最終回であんなことを打ち明けたんだね………
ミスリルナイフをわたしやシュリにも渡した件だって、ブラックタイガーなどでどうしても解体できない魔物で困らないように、ちゃんと考えて渡してくれたんだね………」
「………ごめんね、フィナ。このことを話したらわたしはみんなの信頼をなくすのと同義だったから。わたしのこのクマセットは神様と呼ばれる存在からもらったチート装備なの。
わたしはこのクマの服を脱いだら身につけた戦闘技術も、戦う力も魔法も、もちろん、このパペットも外したらくまゆる、くまきゅうたちだって召喚できないし、あらゆる魔法、スキルが使えなくなるの。
わたしがみんなを守って戦うにはこのチート装備をしないと戦えないの。だからほとんどはこの装備の恩恵によるものだけどこの世界は現実で、間違った使い方をすれば自分も即死につながるから。
この秘密はフィナが信じられる相手だけに話してね。わたしはあまり多くの人に知られたくないから、これからも、この先も」
「うぅん、そんなことないよ………だってユナお姉ちゃんと会わなかったらわたしやお母さん、シュリやみんなは生きていられなかったよ。そこは感謝してる。だから、わたし決めた。わたし、あのスライムの街の件みたいにユナお姉ちゃんの役に立ちたい!」
「………わかった。それでフィナ、実は………」
その後わたしはお城からティリアの姿が消えたことを話した。その上でわたしはフィナの貸出許可をもらいにティルミナさんに事情を説明。そしてノアの家に向かい、クリフと面会した。
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【クリフ 視点】
ユナがフィナ嬢を連れて俺のところに来たのは驚きはしたがいつものことかと思っていた。
まぁなにかしらトラブルを持ってきたことは顔を見ればすぐにわかった。
話を聞いた俺と、娘のノアは大変驚いていた。ユナを疑っているわけではないが、ティリア王女がこつぜんと消失する話があるかなど、そんな話は聞いたことがなかった。
ユナはわたしの秘密を話すから契約魔法をしてほしいと俺とノアに言ってきた。
たしかにユナの存在はどれも信じ難いことだ。だが、そんなユナが自分の禁忌を話すということは、それだけ事態が最悪を想定してのものだろう。
今思えば聞かないほうがよかったのかもしれない。だけど、それは俺以外が誰しも気にしていた問題だ。だから聞ける時にしっかりと聞いておくのはしごく当然のことだった。
ユナは秘匿してきたあらゆる秘密をその契約魔法を使った契約で包み隠さず話した。
ノアと言った妖精の国でそこに住む女王がユナのことを懐かしい魔力を持った人であること、
ユナ自身がこことは別の世界からやってきた異世界人であること、
親はこの世界にはいないこと、こことは違う本来の世界に家族がいること、
クマチートというクマの格好をした装備を神様と呼ばれる者から受け取って今までの戦闘の局面を退いてきたこと。
クマの転移門は設置式で開くにはこのパペットがないと開けられないこと。
ユナの秘密をあらかた聞き終えた俺はこれまでとは違ったしんきくさい顔を浮かべていたはずだ。
「………ごめんね、クリフ、ノア。特に詳しいことはクリフやノアには今まで話せなくて」
「………いや、いい。それはそうだろうとわかっていたからな。それだけ隠しておきたいおまえさんの気持ちがよくわかったさ。
あぁ、確かにこれは自分のことを言いふらしていいことじゃないな。ちなみにこのことを知っているのは他にはいるのか?」
「………これを話したのはノアやミサは知っていると思うけど和の国のカガリさんって人と、一部の秘密を話したのが和の国のスオウ国王とサクラって女の子とシノブっていう女の子、
それにエルフの里のルイミンっていう、サーニャさんの妹とサーニャさんとルイミンのお父さんとお爺ちゃんのアルトゥルさんっていう人とムムルートさんっていう人くらいだね」
「………お父様、ごめんなさい。わたしのことを信じてくれたユナさんとの約束で一部黙っていました。先ほどもユナさんが話していましたが、その転移門であちこちお出掛けしたことがあります。でも、その国の人からもあの門はいいことにも悪いことにもできると聞きました。実はその国の人たちと繋がりが持てたのはユナさんのおかげなんです。そうですよね、フィナ?」
ノアは隣にいたフィナ嬢に向かって尋ねた。フィナ嬢は「はい」と言った。
「………話はわかった。それでユナ、お前はティリア王女を探しに行くというのか?」
「………うん、ティリアはこの国でわたしのことを友だちだと言った数少ない人だからね。ましてやフォルオート国王陛下直々の頼みだし。
本当はノアも連れていこうと思ったけど、すごく危険だから今回はここにいるフィナだけ連れて行くよ。このことはシア、特にエレローラさんには内密でお願い。それに、ユーファリアの街にいるソレイユ一家にも話すことじゃないからね。
一応サーニャさんには冒険者の手配をお願いしたから何かあったら緊密に連絡を取り合ってね。
悪いけど、クリフ、また迷惑かけるよ」
「………大丈夫さ、今までもこれからも俺が全て面倒見てやるさ」
「………ユナさん、フィナ、気をつけていってきて下さい。わたしたちはここで待っています」
ユナたちが屋敷を出て行った後俺とノアはため息をはくのだった。
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【如月奏 視点】
ユナ、フィナがクリフたちと別れた後、現実世界では引き続きティリアは無月たちの家で色々な話を聞いていた。
「………ティリア様はその人のことを友人だといえるほど親しくなったんですよね? なにかきっかけとかあったんですか?」
「………ユナは最初、わたしじゃなくて妹の関係を構築するところから始まったようなんです。あっ、妹はフローラといって………わたしに似てかわいい子なんですよ。それでユナはよく妹のためにお菓子を持ってきたり絵本を持ってきたりしていて、そのうちにお父様やお母様が会って話をしたりしたそうです。でもわたしは、学園祭の時まで会うことは叶わなかったんですよ」
「………そのお菓子というのが?」
「………お父様の40歳の誕生日で出されたのがプリンという甘い食べ物で、それを皮切りにユナは学園祭では綿菓子を教えてくれたり、茶碗蒸しやピザを持ってきたり………王宮料理長のゼレフに料理のレシピを渡したり………お父様の依頼を受けたりして有名になりました。でも、わたしの兄のエルナートはクマであるユナのことを快くは思っておらず、ザング宰相の話などを話していけば渋々納得した様子でしたね………」
ティリア様からの話を聞いた私たちはユナさんに会ってみたくなりました。でも、慢心しないところがすごいです!
「………まぁ、ティリアが感じているのと同じくらいにユナさんに救ってもらったみんなは新たな生き方を見出しているんじゃないか? ユナさんのおかげで新しい風を入れさせたみたいだし。悪い事ばかりじゃないと思うぜ」
「………多くを語りませんが、ユナの強さの秘密にはなにか通じるものがあるのでしょうか?」
それを聞いてお兄様はティリア様にネットゲームとその手の達人から戦闘技術を仕込まれたことを現物を見せながら説明し始めます。
初めてのVRMMO RPG などを、次世代モニターを使ったゲームのリアルな世界に没入していくティリア様をサポートするべく、しばらく私たちも彼女とパーティーを組んでやり方を学んでいくことにしました。
実は、私たちはこの手のものに触れるのはかなり久しぶりな感じがします。
ただ、私たちがあれこれ教えてしまうとティリア様のためにならなくなってしまうのでチュートリアルを受けてもらう形にしてもらいました。
10分程度のはずが2時間くらい経つのはあるあると聞きますし。
………これで、VRゲーム等の世界観を少しは知ってもらうことができたのでしょうか? (内容は割愛)
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