第14話 もうひとつの私立檻姫学園と再びの水月学園
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ナレーション「………『形を失った虚ろなる世界』に存在するとされている、こちらの私立檻姫学園では、芹葉ちゃんたちがあなたに憑依されていた時と比べて幾分か違う所があるようです。まず一つ目。
この学園ではあなたは幽体の存在として女の子の身体に憑依しなければ何もできないか弱い存在などではなく、生身の肉体を持った目も耳も手足もある性別は不明のいち生徒であること。
二つ目は、ルームメイト相手の女の子のどちらかはみななぜか奇病を患っており、ここずっと何日も何週間も目覚めることなく眠り続けていること。これにより、現在眠りについているのは、夏帆ちゃん•澄水ちゃん•翼ちゃん•清白ちゃん•奏子ちゃんといったメンバーたちであり、
その中で現在眠らずに起きているのは、芹葉ちゃん•莉子ちゃん•緋奈ちゃん•鈴菜ちゃんに、あなたを含めた数人の女の子しか起きていなかったのです。
霊能者という立場でありながら、何もできない清白ちゃんや奏子ちゃんを見ていると、それだけで鈴菜ちゃんははがみする想いに囚われてしまいました」
~『形を失った虚ろなる世界』の
私立檻姫学園•教室~
???「………夏ちゃん、みんな………」
私ーー、巽芹葉は、ある日突然大切な幼馴染やみんなが深い眠りに就くのを目の当たりにしてしまいました。その日は普段と何一つ変わりなく日常を過ごしていただけに、今でもショックです。養護教員である鳴神先生にもすっかりお手上げ状態なのだそうです。
???「………芹ちゃん、大丈夫?」
私に声をかけてくれたのは響莉子ちゃんと千羽緋奈ちゃん。そして、×× (あなたの仮名) さんでした。
芹葉「あはは、心配かけちゃってごめんね………?」
莉子「………無理しなくていいわよ、だってあんなことがあったばかりだし………」
緋奈「………私も………ずっと考えてる。なんで………翼だったんだろう、って……」
鈴菜「………それを言ったら私だって………お姉ちゃんが………って感じで。いったい何が起きているのか、全く見当もつきません! 私は………まがりなりにも霊能者であまたの怪異と対峙してきたっていうのに………」
みんなが悔いる気持ちを話し合う中、そう言えば、とあなたはみんなにささやきかけます。あなたの言葉にみんなもそうだった、とか言い合います。
いったい、もうひとつの学園では何が起こったのでしょうか? それを探るべく、天使のサラちゃん、悪魔のルナちゃん、いつもの学園からやってきた芹葉ちゃんたちは気配を完全になくしてもうひとつの学園で眠りにつくことなく活動するこちら側の芹葉ちゃんたちの後に続いていきます。
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さて、こちら側の芹葉ちゃんたちですが、残されたメンバーはいつもと変わりがない授業を受けていました。と、ここでいつもの世界の側の鈴菜ちゃんがふと疑問を浮かべます。
鈴菜(………どうしてこっちの世界の私たちはみんな、外の世界を話題に出さないんだろう?)
いつもの世界であるなら、庭園とか食堂とか廊下が出てくるのは普通のことのはずなのですが、こちら側にいる彼女たちの口からはまだそれらを口にした言葉が全くと言っていいほど出てこないのです。
違和感は感じつつも、この場では何もできない面々はまだ様子見としてじっと見守ることにしました。
と、こちら側の芹葉ちゃんが何かに気付いたようです。
芹葉(………何かの気配を感じる!?)
こちら側の芹葉ちゃんはキョロキョロと辺りを見回しますが、そこには当然なんの気配も感じ取れません。気のせいではないのですが、姿を知られていない以上はセーフでしょう。
どうやらこちら側の芹葉ちゃんは少しだけ霊的なものに敏感に感じ取る力があるようです。ふぅと溜め息を吐くのはいつもの世界の芹葉ちゃん。誰かの視線は気になりつつもこちら側の芹葉ちゃんは視線をノートを書く手元に移し始めます。
授業後、こちら側の芹葉ちゃんはルームメイトである莉子ちゃんや緋奈ちゃんたちに話を振ります。
「………莉子ちゃん、緋奈ちゃん。私……ついさっき誰かの視線を感じた気がしたの」
芹葉ちゃんのその言葉に2人の美少女は顔をひきつらせつつも神妙な面持ちになって返事を返します。
「………そんな視線なんか感じたの、芹ちゃん?」
「………うん。な、なんとなくなんだけど。ただ、形が不安定らしいからはっきりとしたことは言えなくて………」
「………七草さんに相談してみましょう。何かいいアドバイスをくれるかもしれないわ」
どうやら、霊能者である鈴菜ちゃんに相談を決めたらしいですね。さて、こちら側の鈴菜ちゃんの実力はどのくらいなのでしょうか。いつもの世界のメンバーはこちら側の芹葉ちゃんたちに続いて教室をあとにして、204号室がある女子寮へと向かいます、
が、そこに移動するにはどうすると言うのでしょうか? そう疑問を抱いていましたが、答えは簡単でした。大浴場の湯船に見えるところにカラクリがあったのです。
湯気が立ちこめるそこは実はそのように見せた蜃気楼に近いものであり、霊力がわずかにある者が近づいただけでその光景は跡形もなく消滅。そこに隠されていたのは各女子寮に繋がる巨大な転送装置だったのです。
これをどう彼女たちが知ったのかは定かではありませんが、恐らくいつもの世界の学園ならこんな大掛かりな仕掛けなどにする必要はなかったのかもしれません。
その巨大な転送装置は立った者を任意の場所に送る事ができる、一種のワープを兼ねていました。そこにこちら側の芹葉ちゃん達は立ち、204号室へとワープしていきました。
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鈴菜「………なるほど、巽さんにはそう感じましたか」
204号室の女子寮。部屋の主である鈴菜ちゃんのかたわらには今もまだ目覚めることのない姉の清白ちゃんを見ながら話を聞いていました。あのワープはどうやら一方通行のようで、1度使用したら再度使用するのに幾らか時間がかかるのかもしれませんね。
「………鈴菜ちゃん、みんなの事なんだけど………、何かわかった?」
芹葉ちゃんの問いかけに、鈴菜ちゃんが答えます。
鈴菜「………まだわかりませんが、恐らく私の仮定が正しければ………あらゆる事に説明がつきそうな気がします」
莉子「………どういう事?」
鈴菜「………私たちは外がどうなっているのか知らないこと。これはあまりにも不自然です。何が言いたいのかと言えば、全てにおいて課程がないんですよ。この事態に至った経緯というものが」
緋奈「………え!?」
鈴菜「………外というのがどういう事なのかと………考えてみました。私たちが通っているこの学園の外はあまりにも不安定な上に建っていると考えられるんですよ。ちょうどこれから向かおうとしていたところですよ。では………巽さんと千羽さん、私のあとに続いて下さい」
莉子「………私は!?」
鈴菜「………すみません。どんな危険があるかわかりませんので響さんとあなたは残っていて下さい。さぁ、それでは行きましょうか、お二人とも」
そう言って鈴菜ちゃんは部屋に張り巡らせた結界を一部緩和させ、座布団の下に隠されていた小さな四角部分を押すと後方の隠し扉が開きました。その中を進んでいくと、先ほどの大浴場にあった巨大な転送装置のいくらか小さな転送装置がありました。
その中に鈴菜ちゃんを筆頭に、芹葉ちゃん•緋奈ちゃん、そしていつもの世界のメンバーが転送装置を潜り抜け、どこかへワープされていきました。
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もう一つの私立檻姫学園からワープしてきた先はどこかの公園の小屋内でした。造りからしてここは既になんとか形を保っている場所のようです。
緋奈「………何これ!?何なのこれ!?」
鈴菜「………千羽さんも気付きましたか!?どうやらこれが外の世界の違和感のようです。要するに私たちのいる学園は結界が働いて影響が及ばないようになっているようなんです。逆にそれ以外は………このように形が保っていられなくなる程のものみたいで、ここは小屋の形をしていますが、見立てではもう維持できるだけの時間がないようです。形を保っている内に早く小屋の外へ出ましょう」
小屋内から公園に降り立つと、後ろの小屋は跡形もなく消滅していきました。次に消滅したのは公園の遊具などです。天使のサラちゃん、悪魔のルナちゃんはその原因をなんとなく掴んだようです。
それをあてはめていけば、人のあり方だって………掴めてきそうだと。
………元の世界に突然【見えない壁】が現れ、あっちの世界の人々は【見えない壁】に阻まれることなく建物内に入っていけるのに、無月たちのような生身の人間は【見えない壁】に阻まれる行く手を阻まれる………。
……… 一方こちら側の生徒はある日突然、何日も何週間も目覚めないことと、本来あるべき場所の断片部分が跡形もなく消滅する。
それは文字通りの『形を失った虚ろなる世界』そのものだと………。
ならば、2つをわかつ存在は果たして何なのか?
それを、あちら側の鈴菜ちゃんに解いてもらおうと、いつもの世界の学園に通うこちら側の鈴菜ちゃんは【ささやき】を強く念じてみます。
(鈴菜「………鈴菜ちゃん、聞こえる? 至急調べてほしいんだけど……… ………『元の世界に突然【見えない壁】が現れ、あっちの世界の人々は【見えない壁】に阻まれることなく建物内に入っていけるのに、無月っていう子たちのような生身の人間は【見えない壁】に阻まれる行く手を阻まれる………。
……… 一方こちら側の鈴菜ちゃんたちのいる世界の生徒はある日突然、何日も何週間も目覚めないことと、本来あるべき場所の断片部分が跡形もなく消滅する。
それは文字通りの『形を失った虚ろなる世界』そのものだ』ということを、ね………」)
それを受け取ったあちら側の鈴菜ちゃんの身体が小刻みに震え出しました。その様子を見ていた芹葉ちゃんと緋奈ちゃんは心配そうに見ていました。
鈴菜「………ご心配をおかけしました。今、私が知らない世界の私から相互受信を受けていました。それによると、この世界そのものを創った存在が、私たちを除いて別にいるようです。それともう一つ。ここからそう遠くない場所に、『水月学園』という場所の図書館がこのつぎはぎだらけの世界と世界を繋ぐ軸になっているようです。悪いんですが、もう少しだけ私に付き合ってくれませんか。巽さん、千羽さん?」
芹葉「………それは構わないけど、莉子ちゃんに説明するのが先なんじゃあない?」
鈴菜「………そうですねその通りですね。わかりました。1度戻りましょう」
鈴菜ちゃんは適当な場所に向けて"霊力の矢"を放ち、亀裂を学園へと固定させて一旦帰還。学園に残ることになっていた莉子ちゃんやあなたに事情を説明後、大浴場の湯船に残ったお湯に見えるもので体力や魔力や霊力などを全回復させてから、先ほどの場所に戻り調査を続行させました。
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元の場所に戻ってきた鈴菜ちゃんたちは水月学園に向けて不安定だらけなこのつぎはぎ世界を探索開始。道中、イビルモンやデビドラモンといった、デジモンたちに狙われますが、鈴菜ちゃんの持つ力には敵わず各個撃破して先を進みます。やがて水月学園が向こう側に見えるのがわかると、はやる気持ちを抑えながらゆっくりと近付いていきます。
緋奈「………つ、着いたの!?」
芹葉「………そ、そうみたいだね」
鈴菜「………何が起きても不思議じゃありませんから、慎重に侵入しましょう」
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『形を失った虚ろなる世界』 ~もう一つの水月学園•敷地内~
水月学園に足を踏み込んだ一行はまず、変わり映えのない学園を見つつ、くだんの図書館に行くことを目標にしましたが、
それとは別に少しこちらの学園をはいかいすることにしました。水月学園は寮がない以外はだいたい檻姫学園と似通った場所がいくつもあり鈴菜ちゃんは自らの直感を信じながら、その中の1つでもある音楽室に行ってみることにしました。
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【音楽室】
室内からはかすかな霊力のようなものが感じられ、波動をたどってそっとピアノに近付いてみると、半透明の女の子がピアノの鍵盤に手を添えて綺麗な音色の旋律をかなでようとしていました。
???「………♪♪♪」
その女の子は声にならない口からピアノの鍵盤と共に綺麗な音色の旋律をかなでながら何か歌を歌っていました。残念ながら霊能者である鈴菜ちゃんには聞き取ることができません。
緋奈ちゃんも芹葉ちゃんも、彼女の演奏には魅入ることはできてもその意味を知ることはできません。
やがて女の子は曲が序盤から中盤に差し掛かると、聴いたことのあるメロディーをかなで始めました。すると気配を消していたあくあとわための両者はそのメロディーを聴きながら小さくそのメロディーを口ずさみました。そのメロディーは………2人にとっても感極まった曲だったのです。
▶︎女の子がかなでたメロディーは『僕は独りだった』でした。
▶︎マイサウンドギャラリーに『僕は独りだった』が視聴可能になりました。
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(現在のマイサウンドギャラリー)
僕は独りだった
??? (※条件を満たすと開示されます)
??? (※条件を満たすと開示されます)
??? (※条件を満たすと開示されます)
??? (※条件を満たすと開示されます)
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続けて女の子は次の曲もかなで始めました。あくあもわためも知らない曲で、もちろん鈴菜ちゃんたちも知らない曲ですがその中でも鈴菜ちゃんは【心霊術】のスキルを使い続けていると、スキルレベルが0→6と徐々にレベルがUPしていき、女の子が何をこちらに伝えようとしているのかがなんとなくわかりかけた気がしました。
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【女の子視点】
今日はふしぎな事が起こった。ていたいしていたはずの世界に、外かららいほー者がやってきた。その人たちはわたしの知らないせーふくを着たおねーちゃん達で、わたしはこのおんがく室で手慣れたピアノのねいろにあわせて、なにかおんがくを弾いてみた。
すると、むらさき色の髪をしたおねーちゃんと、頭にひつじの角を持ったきいろい髪をしたおねーちゃんが、わたしのかなでるおんがくに歌しょうをくわえてくれた。どうやら、おねーちゃん達にはなじみがあるメロディーらしいの。
それからわたしのことがわかりそうなおねーさんがわたしのはなしていること、つたえようとしていることを、スキルか何かつかってこたえようとしてくれたのが、すごくうれしかった。
このみじかい時間のなかですっかりこころをゆるしたわたしは、それからもおねーちゃんやおねーさんたちに何かをつたえてみた。そうしたら………。
びっくりした。このていたいした世界の外はつぎはぎだらけだったけど、わたしのしらない世界がまだまだ広がっているんだって、きづいんだ。
こんなことは初めてですごく心がポカポカした。だって………きづいたら、わたしはこの世界でひとりぼっちになっていた。
でも、ここからは違う。だから、願った。わたしを、おねーちゃん達のなかまにいれてほしいって。
そうしたら……。
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▶︎???の女の子が巽芹葉たちの仲間に加入を希望しています。
仲間にしますか?
はい
いいえ
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………っていうふうに出たんだ。だから、あとは目の前のおねーちゃん達次第なんだけど………。
【もう一つの私立檻姫学園/ 巽芹葉 視点】
目の前の女の子が私たちに対してこんなメッセージを出してきたんだけど………。私は正直悩んでいた。本音を言えば仲間になってくれるのはありがたいんだけど、とりあえずみんなに相談しないと、とは思ったんだけど………。
緋奈&鈴菜「「………いいと思うわ/ 思います!!」」
って、即答しちゃったものだから、断ることはないよね………。というか、彼女、ここにいるのは私達だけがいるわけじゃないっぽいことを言っていたんだけど………、私の、気のせい? だよね?
姿を消しているということは、向こう側にも何かしら込み入った事情があるみたいなんだけど………。そういえば、さっき鈴菜ちゃんの反応もおかしかったみたいだけど、そっち絡みだったり?
とにかく、彼女を仲間に加えた私達は先に進むよ。
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【もう一つの私立檻姫学園/ 七草鈴菜 視点】
彼女を仲間にしたのはぎょうこうだったのかもしれない。なぜなら、この一連の不思議な現象はだいたい図書館に書かれていることが多いと思うから。
というか………、私1人じゃお姉ちゃんに頼ることしか今までは自分の存在意義を示せなくて………。
そういった意味では、さっきのやりとりはありがたかった。私の知らない時間軸からの世界からやってきた、もう1人の私たち、という存在。彼女たちは姿を見せないことを条件に、私たちにこの世界のあり方をなりを潜めてずっと見守ってくれている。
そう、思えただけで、私は1人じゃないことを確信したのだった。
鈴菜「………私たちの世界に起きたこと。並行世界の時間や空間、場所がつぎはぎだらけなこの世界………それを話すためにも、まずは図書館に向かいましょうか」
私はそうみんなに言ったのでした。