第12話 変容していく世界 あくあとの出会い そして……
ナレーション「前回までのおおまかなこと。一連の流れに決着をつけた無月たちは現実世界に帰還した。母である桔梗と3人で相談。翌日、水月学園で、新田 康宏、安井 祐介、麻上 涼子 の3人の級友と挨拶する。授業中、教師の発言がちぐはぐ。放課後、駅前のゲームセンターに遊びに行くのだが、そのゲームセンターに級友たちは障害なく入れるのに、なぜか無月たちだけは【見えない壁】に阻まれ、先へ進むことができなくなった。場所を移して、水月学園の図書館から秘密の抜け道を使い、形を失った虚なる存在の世界へと、無月は悪魔の少女? に、奏は天使の少女? に入れ替えて入り込む。級友たちを追ってハリボテのゲームセンターへと向かうも、その姿を見つけ出すことは叶わなかった。悪魔の少女?は、天使の少女? に、疑問点とある一定の謎への回答をする。
その内容が………こちら。
①この世界のどちらも、本当の世界ではないこと
②この世界の生ある全ての者がそれっぽい記憶を誰かに与えられた創られた存在であること
③ ②を受け入れる為に、器が必要だったこと
④祢音 は創造神だとされているが、本当のところはそれすらも創り出した存在がいるかもしれないこと
⑤ まだ語られていないことだが、創造した側に何らかの強い想いがあり、それを叶えるために、【超常現象】たる何かが、その存在を引き寄せたこと
⑥まだ語られていないことだが、この世界における無月と奏の兄妹、悪魔、天使の存在意義は、③と④と⑤が想定できなかったことを直接未来を変えるしか救済手段がないこと
⑦人の数だけ分岐点は異なり、無月と奏が兄妹である時間軸も、悪魔と天使が手を取り合うという時間軸も、全くない所から奇跡のように生み出されたわけではなく、どこかの時間軸で1度死に、転生の資格を得たかもしれないという可能性のもとに、再構築されたかもしれないこと
⑧全ての世界が巨大な祢音を形作る1構成になっていること
といった感じである」
ナレーション「果たして、無月たちはこの状況を打破することはできるのだろうか!?」
◆◇◆
【悪魔の少女 (無月) 視点】
うん、だいたいの所をナレーションさんに言わせてしまったが、これで天使も自分がいかに不確定要素の中にいるのかわかってくれたことだろうと思う。
さて………と。
まだまだ謎への検証が必要みたいだね。
というか、まだ新田くんたちの件があるし。
『形を失った虚ろなる世界』として私たちはまだ来たばかりなので多くのことを知らないので、更なる検証は必須なのである。
というわけで、天使には別の役割を、私は私で単独行動して調査にあたっている。
私の読みが正しければ………、
この世界は同じ時を繰り返し、同じ出来事がループする、というものがありうるかもしれない。
一応、あっちの私にも【遠話】の魔法陣を使って、事情を説明しといて、できる範囲で協力してもらうよ!
というわけで、早速調査だー!
◆◇◆
【遠話】の定例私会議をやり終えると私がやってきたのはゲームセンター。前回はあまり詳しく調査する前に終わってしまったため、改めて再調査となったんだよね。
………当面は新田くんたちの件を軸にして、ここ以外にありきたりな場所を様々に巡るつもりだ。
と、その時。久しぶり? にあのメッセージが浮かぶ。
▶︎『形を失った虚ろなる世界』にはMPの概念がありません。その為、全ての消費MPが廃止され、無限に打てるようになります。
▶︎あなたは悪魔の風格を獲得した人間というていで、この世界に突然存在を消滅することなく活動をすることができます。
▶︎【見えない壁】の権限が少し緩和されます。
相手を倒した時の不幸の【バランス】を調整します。
………うん……。
まぁ、なんとなくわかっていたよ………。
ここはそういうものだからね。
気を取り直して、進みますか。
やはり、というか、なんというか。
ゲームセンターを模しただけあって、形はうっすらと残されているみたい。
(きょう体から何か出てくるかもしれない。気をつけなきゃね)
きょう体というのは、ゲームセンターにある大型のモニターで遊ぶ際に使う台のことである。
かくいう私も、って、えっ? これ、誰の記憶?
あの人の私生活? なの? いや、知らないけど。
………とまぁ、そんな事はどうでもいいや。
私はきょう体の画面内から微弱な魔力を感じとっており、そこからガーゴイルが1体出てきた。
『………重力殺戮』
私の掌から重力の玉が発生し、相手にぶつけると1撃で霧散させた。ふぅ。なんとか倒せたよ。さて次に進むよ。
「………出入口部分には何があるのかな?とりあえず行ってみようっと」
私は時おり、『闇の咆哮』や『暗黒扉』を始めとした闇属性の固有攻撃を一面にぶっぱなしながら、手には真っ黒な銃弾をぶちまけつつ、明滅するその空間をかっ歩していく。
やがて、新田くんたちが通ろうとした自動扉を模したところにたどり着いた。というわけで早速【鑑定】。
▶︎???の【鑑定】に成功しました。
ネーム:自動扉を模したもの (ネームなし)
特徴:『形を失った虚ろなる世界』に存在しているとされる、スタンダードなもの。倒しても無限に修復する機能を持つ。
デジモンネーム:アイズモン、世代:成熟期
タイプ:魔竜型、属性:ウィルス
必殺技:邪念眼、具幻
特徴:無数にある赤い目が特徴の身体を持ち『影』に自分の姿を隠せる極めて新しいタイプのデジモン。『形を失った虚ろなる世界』を創造するにあたって現実世界からぼう大な質量のデータを吸収して、デジタルデータ化する能力を持つ。
更には、その能力を活かして男女老若男女問わずあらゆる人のデータを作り出せるだけでなく、それを自由に形成してしまったり、電車やバス、船や飛行機などの交通機関、ひいては地下鉄の駅、◯◯の街並みに似たものをまるごとひとつを再現できてしまう恐ろしい能力を使えてしまう。
成熟期でありながら、他の完全体6体以上も手こずらせるほどの恐ろしいパワーを持つ。
具幻はその名の通り、『影』から様々なものを生成でき、攻撃にも防御にもなりうる攻撃をおこなう。
近年ではこうした◯◯にそっくりな空間は実はアイズモンが深く関わっているのではないかと評されている。
………なるほど? つまり、ここもそうした1件がありそうだと。もう1人の私や天使にも【遠話】の魔法陣で伝えておこうっと。
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【天使の少女 (奏) 視点】
つい先程、お兄様じゃなかった。悪魔の私から【遠話】の魔法陣でわかったことを報告してもらいましたが………なかなかやっかいな事態のようだと言わざるを得ません。というか、何その敵?やっかいすぎるんじゃない? というのが私たちの見解。
確かにそれなら新田くんたちの存在もそうやって本物からデータを吸収してデジタルデータとして再構築したものだと考えればあらゆることに納得がいきます。
天使である私たちしか行き来できないのはおそらく、不確定だらけのつぎはぎ世界に、私やお兄様のような一般人では立ち向かえないからでしょう。
現在、私は悪魔とは別行動をしており、私は波動が強くなっていくこの世界の中心に来ていました。
どうやら、時計塔のようです。
さて、調査をという所で私にも敵が出現しました。
じごくの番犬と、ランガーと、ヘルゼーエンです。
『レリーフ』という魔法銃を取り出してそこに私の魔力をこめて打ち出すと、出現した敵は消滅しました。敵を倒した私は、先に進みます。時計の針は止まっていて、動く様子はありません。
というわけで、時計塔の内部へ侵入です。
◆◇◆
いや、もう、なんていうか、あれだね。ここにも不気味な魔力がみなぎっているというね。
私の他には今のところ怪しい人影はなく、広がるのには無機質な塔の裏側だけというね。
構造そのものは複雑なつくりにはなっておらず、至って簡単に時計の長針と短針の裏側につく。
私はそこに立ち、スイッチのレバーをガッと引いてみる。すると時計塔以外の周りが地響きを起こし、数秒でおさまる。一瞬、何が起こったのかわけがわからず、私は硬直してしまいます。
(………何か起きたんだよね……?)
この世界がどうなっているのか、真っ先に気になった私は外に出ました。すると、なんのへんてつもないただの澄み切った空のごくわずかな隙間から、赤い目をした敵がちらつくようになりました。
おそらく、それがアイズモンなのでしょう。つまり、時計の針を動かしている間は敵意も示さなかったのに停止したら敵意がむき出しになるというのはどういう事なのでしょうか?
【光魔法】のホーリーを唱え、ルシファーで裂け目ごと狙い撃ちにします。するとアイズモンは必殺技の具幻で現実世界から高層ビルをいくつも出現させ弱点を守るかのように使ってきたのです。
このままでは私の攻撃も通らなくなってしまう。と思った次の瞬間。別の裂け目から私が及ばないたくさんの魔法攻撃が、それを妨害しました。
私を助けてくれたのでしょうか?それはわかりませんが、なんにせよ、この状況での助太刀に感謝をした私は再び魔法を唱えなおしてアイズモンを撃破。
ありがとうございます、と言い切るより前にその援軍は光の球体に包まれて消えていきました。
アイズモンを1体撃破すると、わずかながらこの空間にも変化が始まりました。敵はすぐに攻撃することはなかったのですが、何かを企てているのは否めません。
ということで、私は悪魔の彼女と合流することにしました。
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【悪魔の少女 (無月) 視点】
天使の彼女が私と合流したいと言ってきたのは数分前。私はあの後、近くに現れたアイズモンを撃破。次に何をしてくるかわからない以上、とどまるのは危険だと判断し、最初の地点である学園の図書館に戻った。そこには天使の彼女が座って待っていた。
「………お疲れ様」
私たちはお互いにうなずき合い疲労した身体を少々休めた。このことはすでに表の人格である2人にも共有済みだ。
「………向こうの世界がどうなったか気になるし、1度戻りましょうか!」
そうして私たちは『形を失った虚ろなる世界』からいつもの世界へ戻った。
【如月 無月 視点】
~いつもの世界 水月学園•図書館~
手順通りに図書館へと戻ってきたら、悪魔の少女と天使の少女は心の内側に隠れることになり代わりに長い時間表に出ていなかったオレと奏が自分たちの本来の身体に戻っていた。
「………奏、疲れていないか?」
オレの問いに奏はこくりと頷くと、ゆっくりとした足取りで図書館をあとにした。
向かった先はオレたちのクラスだ。
そんなに時間が経っていなければ、ここには康宏たちがいるはずなのだが。
だがーー、すぐにその『普通』はやってこないのだと知ることとなる。
「………様子がおかしい!! 生徒ひとりすらいない!」
「………お兄様、他のみなさんはどこに行ってしまわれたんでしょうか?」
「………わからない。ただ、言えるのは………ここが既に起こらなかった世界のひとつだということだ」
◆◇◆
念の為、オレと奏は学園のみならず例えば如月家にも帰ってみて母さんがいるのかどうかも確かめてみたのだがいつもならこの時間居間にいてテレビを見ているはずのその姿はなぜか見つけることはできなかった。
家の中では特にこれといって荒らされた形跡などは皆無であり、まるでそこには最初から誰も存在していなかったのように切り取られてしまった光景がただ広がっていた。
如月家がそんな感じなのだからおそらく他の場所でももしかしたらそうなのかも?
と思い商店街などにも足を伸ばしてみたのだが、やはり誰ひとりとして見つけることはできなかった。
この世界は人だけかなぜかこつ然と消失した以外はいつもと変わらぬ日常が続いていた。というか、そうとしか捉えられない。
だから、オレたちの身にもなにがしかの事態は引き起こるだろうという警戒だけは怠らないようにしてゲームセンター以外の場所にも行ってみることにした。
【見えない壁】に一部がまだ阻まれてしまっているが、最初に来たときよりもだいぶ緩和されているはずだと思う。
アイズモンの関連はまだ掴めないが、あちらにも器が必要ならこちらにも相応のものを用意しなくてはならないのだ。
というわけで、気になった場所は手当たり次第に片っ端からくまなく歩き回るオレたちだった。オレたちは
かすかな魔力をあてにしてやってきたのはヴァーチャルメタバース空間だった。
本来この空間はその手のものになりきらないといけないのが、既にこの空間自体がそういったものを全て取っ払われてしまったかのようになっており、苦労することなく、これてしまった。
と、その時。馴染みのあるヴァーチャルな存在の人物が突如として現れた。それが誰なのかはもちろんうといオレでもなんとなく聞いたことがある。
ただ、まず真っ先に疑っているのはこの女性もアイズモンが作り出した幻影ではないかと。
だからオレは目の前のヴァーチャルな女性に聞いた。するとその女性はオレたちに危害を加える様子は全くなかった。
会話ができる時点で、敵ではないことを再三確認したオレたちは VTuber である という彼女、あくあ を仲間 にすることにした。なぜ、ここに あくあ がいたのかはわからないが、今のオレたちにとって味方が増えるというのは心強い。
◆◇◆
あくあ に 現在の状況を伝えてみると、彼女は驚いた表情をしていた。あくあ からは他の VTuber 仲間がどこかにいるかもしれないと言い出したので、この世界に起きた謎の解き明かしを兼ねてさらなる調査をしていくことに協力を申し出てくれた。
あと、あくあ は自前の曲をいくつか持っており、他のメンバーもかなり歌がうまいらしい。
▶︎ あくあ の加入により、【少しだけ衆中一括】の威力が少し上がりました。
▶︎あくあ は、【水魔法/水魔術】を 一部取得しました。
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【無月 視点】
「……とりあえず確認していくか。まず、この世界からなぜだか人々がこつ然と消滅した。オレと奏はその原因を探るため、あちこち回った。そんな中ここに足を運び、あくあと出会った。そして、だ」
そう言いながらオレはあくあと奏に向けて幾何学な紋様が浮かび上がった建物を指差した。あれはここに来る前はなかった建物だった。
「………あくあさんの【水】系統のものをあのマークに打ち込めば……何か起こるのですね……?」
と、オレの横で奏が答える。それにあくあは納得といった感じだった。
「………わかりました。やってみます。【ウォーターカッター】!」
そう言うと、あくあの右手から水のやいばが放たれあの紋様のマークにまっすぐ当たっていく。すると、ガゴンッという音と共に建物が崩れ去り、そこへ辿り着くまでの道のりができた。
「………よし、先に進むぞ」
そう掛け声をかけてオレたちは建物が崩れた場所に進んだ。そこは地下に続く階段となっており、何に襲われるかわからないので辺りを警戒しつつゆっくりと降りていく。
「………ここは何だ?」
オレたちが降りていった先には何やら霊的な存在が多く感じ取れる場所があり、雰囲気的にはどうもよくないことに乗っ取られて身体の支配が進んでしまったいたいけな女子たちがあまたいるらしい、という事を精霊を通して知った。
「………お兄様、あくあさん。この学園は既に肉体を持たない幽体の人物が既に中に住む生徒たちの身体を奪って分魂化してしまった状態となっているようです。女性である私やあくあさんが彼女たちの仲間にされてしまうのも時間の問題かと思われます」
そう言いながら奏は自分の身体が相手の幽体の思い通りに操られて動くことになってしまう存在に肩を震わせていた。
そりゃあそうだよなぁ………、ゾッとするなそれは。だけど見つけてしまった以上、オレにほっとく理由なんかない。幽体に身体を乗っ取られてしまわないような【闇魔法】というか禁忌の術で人の形を保たせた幻影を生み出してその学園に何体か投入を試みるオレであった。
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※次話は、pixivとノクターンノベルスで掲載されている、あの人のあの作品の世界と本作を少し繋げて展開します。但し、R-18や百合要素などは全て廃止し、それをしない方向で彼女たちは無月たちの保護されるべき仲間として加入します。
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