第11話 推察と究明→日常の世界を求めて、奔走する一同
この話の数話先はしばらく無月と奏視点はなくなり、かわりにとある作品のキャラの視点と立ち位置が変更になります。2人はしばらく先に登場する予定です。
【如月 奏 視点】
あの後、私たちはどうすることもできず別の場所と言いながらも実際に向かったのは学園の図書館でした。
「………お兄様、どうしてここへ?」
私たちはお兄様に言われた通り、幾つかの疑問を記しながらもその返事を聞くためにたずねました。
「………それはまぁ、夜になってからな」
そう言って私たちは昼間から夜中になるまでこの図書館から家に戻る事はありませんでした。
◆◇◆
18時を過ぎた頃でしょうか。お兄様が私たちに口をひらいたのです。
「………昼間にオレが言った事は覚えているか?」
私たちはうなずきます。するとお兄様が続けて口にしました。
「………まずは昼間のことからだな。ゲームセンターに入ろうとした件からだ。康宏 たちはなんの障害もなく中に入れた。しかし、オレたちはどうあがいても通れなかった」
「あの、【見えない壁】の事ですね? お兄様?」
「あぁ、そうだ。その【見えない壁】の事だ。多分これをクリアするには、オレたち自身が別の存在にならないといけないみたいなんだ。
ここで、天使と悪魔という存在ならばどうかという点だ。だけどおそらく、仮に見た目だけ姿を変えても同じ事が起こるはずだろう。
だからそれをクリアするために、学園の図書館に来た。ここまではわかるか?」
いや、さすがに意味不明すぎてわかりません、お兄様、と言いかけたいところだけど、お兄様のことだからきっと何かあるんだろうなとは思う。
だから、私は考える。お兄様がここに連れてきたその意味を、何度も必死に考える。答えにはなっていないかもしれないけど、なんか糸口がつかめたような気がした。
−–−–−−–−−−––−–−–−−–−−−––−–−−–––−––––
「学園の図書館………ここだけは世界と世界の軸を保つ唯一の場所なんだ。その証拠にここに何か書いてあるんだ。オレたちには読めないが、天使や悪魔だったら容易に読めるんじゃないか?」
そう言って私は天使の少女? と姿を入れ替え、お兄様は悪魔の少女? と姿を入れ替えました。
その瞬間、お兄様の指が悪魔の少女?になってしばらくすると書かれていた文字が化けることなくそこに書かれている内容を読むことができました。
『これより先に続く本当の世界の名は、形を失った虚ろなる世界である』
と、そこには書かれていた。具体的にその世界へのくぐり方も書かれており、その手順に従って先に進んでみると………、学園の図書館の一室以外はより不安定な要素でつぎはぎされた世界だったのです。
◆◇◆
【天使の少女 (奏) 視点】
お兄様と姿を入れ替えた悪魔の少女? が、私、奏の姿を入れ替えた天使の少女? に対して呟いた。
「この『形を失った虚ろなる世界』と呼称された世界では、私たちのような存在でないと足を踏み入れることすら許されない世界みたいなの」
「天使になったからなんとなくわかります。奏さんが気付けなかったのも無理はないでしょう。でも、無月さんはどうやってそれに気付けたのです?」
「無月はこうなる前になんとなくこんな事もあると私には教えてくれていたの。なんでも、本来の時間軸の無月が通ったことがあるならば、知らないことはないだろうって。つまり、こういうこと」
悪魔の少女? は、天使の少女? に話し始める。
「………無月は私にこう話してくれたわ。普段は他者の影にとりついて、食べられてしまった者はしばらくしてから形を失って影になるって。1度影になった者を元に戻すことはできないらしいよ」
「……つまり、無月さんはそれを知っていたと?」
「………記憶から知ったんだと思うよ。でも、まだ謎は残されている。私たちなら、それが可能だって無月は言ったわ」
「なるほど」
この世界とあちらの世界のあり方は余りにも違うことを知れたのがひとつ。次は【見えない壁】について調べないといけない。
私は悪魔の少女?と協力して怪異を調査することにしたのだった。
◆◇◆
怪異を突き止める前に公園を模した場所にて、砂場で遊んでいた小さい男児女児の影から巨大なこうもりが現れたので男児がその化物に喰われる前に【光魔法】で浄化した私は気を引き締めて周囲に気を配りながらその場所を後にした。
「………あれは何だったのです?」
「………わからないわ。でもよくないものだけは確かだわ。っと、着いた。確かここだったわね?」
表の世界とは違い、こちらの世界はところどころ、ゲームセンターの建物を模した何か?な場所になっており、そこにはやはりあの【見えない壁】もあった。
「………さっきと同じように触れてみましょう」
悪魔の少女? の言う通り、私は【見えない壁】に触れてみる。すると、今度は阻まれることなく、私たちは中に入ることができるようになったのです。
◆◇◆
【悪魔の少女 (無月) 視点】
【見えない壁】を無事乗り越えた私は天使の少女? をつれてゲームセンターを模した場所の店内を探すところから始める。
(まずは、康宏、祐介、涼子の捜索からかな?)
私の記憶に間違いがなければ、3人はこの先へと進み私たちを待っているはずなんだけど。
だけどいくらその幻影を求めて探し回っても見つけることはできなかった。
「………どうして見つけることができないの?」
「………おそらくそれも怪異のひとつかもしれないわね。彼らの記憶をそれっぽく持たせた実体のない霊的のような存在、だと考えたら納得できるんじゃない?」
「………つまり、あの世界での彼らにはそのようなハリボテのような役割をになっていたと?」
「………仮にそう考えればなぜ【見えない壁】を通り抜けられたのかもわかるはず。つまるところ、【見えない壁】って言うのはね、本来あるべき世界と虚構世界を隔離する箱庭といえるのよ。で、ここで新たな謎がひとつ。その存在がこの箱庭世界を創ったとするなら、誰が創造したのか。それはもう答えが出ているはず。あなたなら、もうわかるんじゃない?」
そう言うと、天使の少女? の顔が青ざめていく。
「………私たちと同じ顔を持つ人間を模した少女………『祢音』さんだというのですか?」
「………あくまで推察でしかないのだけれど、そうなる可能性が高いと思うわ」
「………そんな……」
◆◇◆
【人間の少女を模した存在 (祢音) 視点】
あーあ、私の正体がバラされちゃった。
さすがは悪魔ね。まぁ、私を模した時点でこうなることはなんとなくわかっていたけれど。
そう。私、祢音は、初めからお兄ちゃんの事も、奏ちゃんのことも、その上で天使の私、悪魔の私がこの事実に気付くことも全て知っていた。
アリスの物語を完成させるように言ったのも、そういう計画だったから、としか言いようがない。
この虚構世界を【見えない壁】で隔離しありとあらゆる生き物にそれっぽい記憶を植え付けたのも、私。
そんな私は一体何者か? 人間?それは正しくない。
本当の姿は………まぁ、今はどんな姿をしているのか知られて欲しくはないし、本来私には名前はないから相変わらず、祢音っていう名前を使っているけれども。
さて、次はどうしようかな。
まだ、私は彼女たちとは戦いたくないしね。
もう少し私の遊び相手になってもらおうかな。
「ふふ……楽しみだなぁ」
◆◇◆
【悪魔の少女 (無月) 視点】
この世界に来てから、いくつかわかったことがある。それを天使の少女? と共有するため、異空間へ移動して話し合いをすることにした。
「………私が今頭で思いえがいたことがあるのだけれど、聞いてちょうだい」
「………もちろんです」
「………ありがと。まず1つ目。表の世界からだけどもう知っての通り、あの世界の生ある者全てはそれっぽい記憶を与えられたということがひとつ。それからこれは裏の世界ね。裏の世界は学園の図書館と繋がっている。でも、それだけじゃないんだ。裏の世界には生ある者全てがそれっぽい記憶を与えられるだけの器が必要だった。私たちはまだそこに辿り着いていないのだけれども、けた違いの膨大な魔力を帯びた穴があるという説。そして2つ目。今私たちがいるという【理想郷】って本当の【世界】だと思う?」
「………」
「………私は違うと思うわ。なぜならどちらの世界も本当の世界じゃないから。造られた世界だから。そして3つ目。祢音は神だとかいう話だけど、それすらも創られた存在だとしたら?本当の祢音は違うところにいる。私たちに干渉しようとしている祢音は正しいようでいて正しくない存在。そして4つ目。これが重要なんだけど、世界が正しくないのなら、私たちのあり方も不確定要素になってこない?」
「………頭が混乱してきました。つまり、どういう事ですか?」
「………知りたいよね、もちろん?」
「………ここまで来たら知る権利はあります」