第10話 無月、奏兄妹は現実世界に帰還する→無月が感じ取った世界の違和感に巻き込まれていく………
【別時間軸の 如月無月/ 如月奏 視点】
オレ、如月 無月と、私、如月 奏 は、あの時間軸から疲労した心身を癒すため、別時間軸の並行世界のオレたちの時代に戻ってきた。
「………大丈夫か、奏?」
「………そうですね、慣れない戦闘を繰り返して少し無理をしすぎたせいでしょうか。ちょっと疲れてしまいましたね、お兄様」
もちろん心身回復はあったが、今オレたちが置かれた状況を話しておかなければならない人がいる。それは、オレと奏の母さんである桔梗だった。出来ればこの話は親父を抜きにして3人だけでまずは話し合いたいと思ったからである。
「………奏、母さんに D M を入れてくれ。出来れば今からでもいい」
「………わかっていますよ、お兄様。既にこの件は子どもである私たちの手には余りありすぎますので」
そう言って、奏は母さんのスマートフォンに直接DMを送りつけたのだった。
◆◇◆
【桔梗 視点】
私、如月桔梗は子である奏からDMをもらい、無月と奏と私の3人だけで話し合いたいということに驚きを隠し切れなかった。
「………だいたいの内容は奏がくれたDMに書いてあったことだけど、どういうことか説明してもらえるかしら? それに、そもそもなぜここにお父さんも呼ばないのか、理由を聞いてもいいかしら?」
無月は私の質問に淡々と答えてくれた。
あの日、夢の中で自分に呼びかけてきたという女の子がいたこと。
その女の子の名前は袮音と言い、2人に『終わらないアリスの物語』なるものを探すように言ってきたこと。
奏が震えさせながら話した内容は、私にはにわかに信じがたいことではあったけれど、まぁ確かに本来の時間軸の私やあの人が辿る結末は破滅をもたらしていたのだろうなぁと、なんとなくわかった。
でも、私があの人に殺されなければいけない理由がわからなかった。
あの人は、私や子どもたちを愛してはいなかったのだろうか?
その辺は無月が特に言いづらそうに答えた。
それを聞いて私は涙があふれ出て止まらなかった。
本来の時間軸における私やここにいる奏、あの人のあり方、そして冒頭に語られた袮音という少女の秘話。
妹だと信じて疑わない子は、人間、天使、悪魔の魂をどこかから奪ってきて作られた存在だったこと。
あの人はロキという神にたぶらかされたことが負い目となったかもしれないということ。
その破滅から私が救われるには私がオーディンという神に匿われなくては助けられないという現実。
「………ごめんね、無月、奏。あなた達にはつらすぎる運命を背負わせてしまって。大事なことを話してくれてありがとう。あなた達のことも踏まえて、私は少し考えさせてほしいわ。いいかしら?」
「………勿論だ、行こう、奏?」
「………はい、わかりましたお兄様」
そして2人は私の部屋から出ていった。
◆◇◆
【無月 視点】
奏を自分の部屋に送ったあとで、オレはずいぶんと久しぶりに自分の部屋へと戻った。
そして疲れた身体を癒すため、オレは寝床に入ったのだった。
~???~
オレは何もない空間に漂っていた。
例のめいせき夢とも違う、不思議な空間。
そこに、1つの存在が人の形をとって現れた。
「………あなたと、お話がしたかったから来たけど、迷惑だったかな?」
オレの目の前には穏やかな表情を浮かべた悪魔の少女?が立っていた。
その雰囲気はあの世界で出会った人物とは異なり、闇の力は残りつつも、それはむしろ弱体化しているように感じとれた。
「………別に、迷惑じゃないさ。それよりもどうした? 何か話があるんだろ?」
オレは少女?に腰をかけるようにすすめると、そのようにした。
「………あなた達の親に、私のこと話してもよかったの?」
「………そのことか。まぁ、話はしておかないとな。オレ、思うんだ。お前や天使をとりまくもの、それはおそらく袮音に繋がるんじゃないかって思ってるんだ。オレを呼んだ理由は別にあるんじゃないかと、よく考える。考えずにはいられないんだ」
「………どうして、そこまで私のこと気にかけてくれるの? あなた達には関係ないはずなのに?」
「………なんでだろうなぁ。わかんないや」
そう言いながらオレは悪魔の少女の髪に手を置くと、ゆっくりと撫でてやる。
なぜだかむしょうにやりたくなったからだ。
「……あ、うっ」
悪魔の少女の真っ黒な肌が真っ赤に染まっていく。
こんな表情もできるようになったんだな、と。
「………どうだ、少しは落ち着いたか?」
「う、うん。これすごく気持ちいい………こんなふうにしてもらった記憶はないはずなのに、なんだかあなたに以前こうしてもらった気がするよ」
「………それはもしかしたら記憶が逆流しているのかもしれないな。まぁ、やっぱりオレはお前を戦いには巻き込みたくはないよ。と言っても、お前はオレたちについてくるんだろうが」
「………うん、私はお兄ちゃん、うぅん、あなたの大切な存在だから」
オレのことを兄と呼んだのも、おそらく元の記憶が原因か。まぁ、それもいいだろう。
「……闇の力に振り回されずにできれば、それだけで充分オレたちの助けになれるはずだ。だから、今後はお前の闇の力と、あと天使の力もさ、オレたちに力を貸してくれると有難いかな。さて、そろそろ夢が終わるな」
「………そうね、その時は全力であなた達を守るわ」
◆◇◆
【奏 視点】
お兄様と別れた私は自分の部屋に戻って眠りについていた。
~???~
私は真っ白な空間に立っていた。
めいせき夢とも違う不思議な空間に。
私のすぐ近くに1つの人格が存在する。
「………奏さん、あなたとお話がしたくて来ました。迷惑ではありませんでしたか?」
「………そんなことはありません。むしろ私もお話したかったです。お姉様 ?」
私が目の前の天使の少女を、そう呼んだのも私の心がそう呼びたかったのだろう。
だから疑問も抱かなかった。
「………お姉様、私に話したい事って何ですか?」
「………はい。悪魔になった私とも相談して決めました。奏さん、私はやはりあの袮音という少女にはまだ明かされていない秘密があるような気がして仕方ないのです。もしもに備えて、準備はしました」
そう言うと、私の持つミスティルテインの宝剣に、レリーフとフリューゲルの換装ができるようになった。
「……もちろん、私も悪魔の私もあなた達と共に微力を尽くします。お互いにがんばりましょう」
そして夢の中での出来事が終わった。
◆◇◆
【無月 視点】
翌日を迎えたオレは奏を起こしに行った。
すると奏の背後には天使の少女?の気配を感じた。
「………おはよう、奏。もしかして夕べ天使と何かあったのか?」
「………そういうお兄様こそ、悪魔と?」
「………まぁな、2体がオレたちに力を貸してくれるらしいからな。あとで2体とお前を交えて相談したいことがあるからオレに付き合ってくれないか?」
そう。オレは今後のことを考えて奏と天使、悪魔に今自分が思っていることを聞いてもらいたかったのだ。
◆◇◆
久しぶりの水月 学園 へ登校する事にしたオレたち。まずは級友たちとの挨拶から始まる。
彼らとは特にここ最近、この世界を離れることが多かったためか、ずいぶんと顔を出していなかったからな。
???「………よぅ、久しぶりだな、兄妹」
オレたちのクラスに入るなり声をかけてきたのは、新田 康宏だった。近くには友人である、安井 祐介と、麻上 涼子 の姿もある。
「………あ、あぁ、久しぶりだな康宏」
「………安井君も、麻上さんも元気そうだね?」
「………おかげさまで、それが取り柄ですから」
「………というか、今まで何かあったのかい?」
オレはその質問にはなるべく多くを語らぬようにして笑って誤魔化すことにした。
もしも、オレが考えていることが当たっているならとそう、思ったからだ。それに対し、奏が念話を使ってオレの脳に声を響かせた。
-お兄様、さっき聞かれた事について答えなくてはよかったのですか………? -
-あぁ、ちょっとオレなりに考えていることがあるんだ。まぁ、それを含めて今は様子見をしている段階なんだ。悪いな、この場で話せなくて-
-いいえ。私はお兄様の妹ですから、お兄様の意思を尊重します-
-ありがとな、奏- -いえ-
そんな念話のやりとりを終えて、オレたちは級友に向き合っていた。
「………じゃあさ、放課後はゲームセンターでも遊びに行かない?」
そう、祐介が切り出してくる。
「………おっ、いいね! あー、兄妹は付き合い悪いから絶対参加するんだぞ?」
康宏がそうついずいしてくる。
「………私も、一緒にいていい?」
更に、涼子がついずいする。
「………いいぜ、みんなでゲームセンターに行こうぜ!」
放課後にゲームセンターに行くことは決まり、だけどオレは念話で奏含む3人に改めて意見する。
-あとで話すことと並行して、今のオレたちが置かれている状況がどうなっているのか、簡単にでいいから気になったことを絞り出しておいてほしい-
---わかりました/わかったわ---
◆◇◆
級友たちと会話を切り上げた後、オレは板書しながら脳内で今後のことを考えていた。
(多分、オレの推測は正しい、と思いたい)
これはオレの記憶にはないことなのだが、並行世界の本来の時間軸のオレであれば、今の状況がよく似ていると気付けたのだろう。
ただまぁ、まだ直接手出しはしてないから向こう側もオレたちに害をなそうとは思ってほしくない。
そもそも、これはオレが違和感を覚えたところに端を発している話なのだ。
オレたちが悪魔の少女?と、天使の少女?に会い、フラグを成立させたのも、仲間になってくれたことも全て予定調和の1構成にすぎないと思っていた。
ただ、まだいくつかピースが足りない。そんな気がしてならなかった。
「………じゃあ、次の問題を、如月、なんといったかな? そっちの男子生徒のほう、答えてみろ」
教師がオレを名指ししてきた。オレの名前を言わなかったことに関してオレはあえてスルーした。
なぜなら、奏や他の2体に気付かせるためだ。
「………どこを答えればいいっすかね?」
なかば投げやりな態度で教科書を開き、指定された箇所を答えると、教師があぜんとしていた。
その目つきは、オレがこのクラスにいたのかすらを怪しむかのような雰囲気だった。
キーン、コーン、カーン、コーン!
全ての授業を終えたオレたちは級友たちと駅前にあるゲームセンターに寄ることとなった。
もちろん、オレは不測の事態に対応するために、最初から、パーティスキル【絶対防御の陣】を始めとした各種防御対策は怠っていなかった。
級友たちは違和感を覚えることなく、オレたちより先に駅前のゲームセンターの自動扉をくぐって中に入ろうとしていく。
「………お兄様、私たちも入りましょう?」
「………あぁ、そうだな」
普通であれば、オレたちはまだこの世界に直接干渉していないのだからなんなく通れるはずだ。
だが、結果は………。
【見えない壁】に阻まれ、先に続いているはずのゲームセンターには1歩も近付けず、進めなくなっていた。
▶︎この先には進めません。
そういうようなメッセージが出た。
(思った通りの展開になったな)
オレたちが来ないことを気付いた祐介が振り返って言う。
「………2人ともどうしたんだい? 早くおいでよ」
級友たちはなんの障害もなく入れるのに、オレたちは【見えない壁】に阻まれてこれ以上先には進めそうにない。
と、今度はわざと康宏たちにメールが行くように仕向けてみるが、スマートフォンに表示された内容は。
▶︎圏外のため、メッセージを送信する事はできません。もう一度やり直して下さい。
と、出た。おそらく奏たちもこの一連のやり取りに違和感に気付いているはずだ。
「………3人ともすまない! 先に行って楽しんでいてくれ!」
「………わかったわ、私たちは先に行っているから準備が出来たら必ず来てね!」
そう言って、一旦級友たちと別れるオレたちは別の場所に向かうことにしたのだった。




