ミッション1:母ちゃんを生き返らせろ / 1
1階の茶の間に行くと、父ちゃんと悠介が沈んだ表情で特上寿司を囲んでいた。俺はどんな顔をしている?父ちゃん、特に気落ちの激しい悠介にはとてもじゃないが言えない。今さっき、母ちゃんの幻覚を見た、なんて。俺も寿司の前に座り、まだ湯の入っていない急須にポットからお湯を入れる。
茶っぱを蒸らしながら、俺は無言で割り箸を割った。特上寿司のマグロの大トロに箸を伸ばし、醤油もかけず一口。涙が出たのはワサビがツンとしたからだろうか、さっき見た母ちゃんの幻覚に向かって「ごめん」を言えなかったからだろうか。俺も、気落ちしているらしい。急須から湯呑みに茶を注ぐ。
「……大介、泣いてもいいんだぞ」
「いや、なんか、さ……」
父ちゃんは、俺が長男だから気丈に振る舞っていると思っているらしい。実際にはそんな意図は無く、ただ、ワサビか罪悪感か理由の分からない涙が出ただけだ。やたらワサビの効いた特上寿司のサーモンに箸を伸ばす。今度は醤油をかけた。悠介もホタテ軍艦に箸を伸ばした。父ちゃんだけが茶を啜る。
3人だけでどうしろと?という量の特上寿司は案外、俺と悠介の2人で何とかなってしまったのだが、茶ばかりの父ちゃんが少し心配だった。まさかとは思うが、母ちゃんの後追いなんて……。嫌な考えが頭を過ぎり、物理的に頭を振ることでその考えを消す。
──そして、食後。
自室に戻った俺は、白装束の母ちゃんに出迎えられた。どうせ化けて出るなら父ちゃんのところに頼むよ、という言葉が俺の頭を占拠した。どうやらこの母ちゃんは一時だけの幻覚ではないらしい。つまり、非現実的の極みだが、幽霊、なのだろう。
絶対ない、と思ったのに。