プロローグ:母ちゃんが死んだ / 2
父ちゃんの運転する車に20分ほど揺られると、懐かしの実家に着いた。懐かしの、と言えてしまうほど長い間帰っていなかった、俺が生まれ育った家。ボロだったのを悠介がリフォームして、そこそこ立派な古風な一軒家になって少しばかり記憶とは違うのだが。通称、親孝行御殿。俺は寝入っている悠介を揺り起こし、線香の香り漂う実家の中へと足を踏み入れた。俺の部屋は2階だ。
「父ちゃん、俺の部屋ってどうなってるんだ?物置にでもした?」
俺がそう尋ねると、父ちゃんは苦笑いをした。この、すぐ苦笑いをする気の小さい父ちゃんと豪快そのものの母ちゃんから生まれた俺がこんな微妙な性格なのは、どちらに似たからだろうか。父ちゃんは言った。
「お前の部屋なら、母ちゃんがまめに掃除してたからそのまんまだよ。リフォームの時に少し家具を動かしたくらいだ」
「……そっか」
さすがの俺でもヘコむ。ろくに電話連絡もしない駄目長男の、もう帰ってくるかも分からない俺の為に母ちゃんは掃除を続けてくれていたのか。ピンピンしていたとしても、歳は歳だ。リフォームの時に物置にでもしてくれていたら、ここまで胸は痛まなかった。
母ちゃんはどんな気持ちで、俺の部屋を掃除していたのだろう──。