死の行進
悟は、本当に男が森へ入ってから出て来ていないのか調べる方法を考えた。しかし男が誰なのか、名前も知らず顔もろくに覚えていないため、どうすれば調べられるか見当もつかない。
男が森へ入ったままなら家に帰ることもなく行方不明になる、行方不明になれば事件なのだからニュースになるはずだ、と言う発想で居間に置いてある新聞を調べてみたりもしたが、誰それが姿を消しただとか失踪したと言う記事が大きく扱われている訳はなく、何も収穫はなかった。もっとも男が森へ姿を消してからまだ半日しか経っていないので記事が載るはずがないのだが、悟はそこまで考えが回らなかった。
少年は漢字がいっぱいの新聞を読み続けたことで次第に頭が重くなり、風邪を引くと注意されるまで横になってしまった。そして目が覚めた時は新聞を読む気力はなく、また明日調べることにした。
しかしその男が森から出たかどうかはすぐにどうでも良くなった。
それから毎日、誰かが森へ入っていくようになったからだ。
歩いている者がいて、その顔に見覚えがなければその行き先は大抵森である。何人も森へ入っていくが、出ていく者は一人もいない。
朝も昼も夜も、やってくる時間に例外はない。誰も森へと入っていかない日があるとすれば、それはたまたま途切れただけに過ぎない。翌日からは何事もないように死の行進は再開され、気味の悪い現象が止まったという悟の幻想はその度に打ち砕かれた。
数人のグループが固まって歩いていたこともあった。その中には血を流しているものや歩くのがおぼつかない者もいて、恐らく事故にでも遭ったのだろうと推測された。
ある女性は青い顔つきで悟に森がどこにあるか聞いてきた。悟は森へは行かない方がいいと止めたが、
「それでも行きたいの」
そう言って他の人に道を尋ねに行った。何度も咳をしながら。