森は
時間が経つにつれて気持ちは落ちついてきて、家に着く頃には二人とも涙がひいていた。
「変な顔。おサルさんみたいになってるぞ」
加奈子の顔を見た悟が冗談めかして言うと、加奈子は、
「お兄ちゃんこそ」
と言い返し、二人は同時に笑った。――
朝目覚めた時、夢の半分も少年は覚えていなかったが記憶の中からあの時の事かと大体予測はついた。
しばらく布団の上に座ってぼんやりとしていると、悟は隣の布団で寝ている妹に目が行った。何とはなしに妹のほっぺたをつねる。妹は嫌がって顔をしかめる。
その寝顔を見ながら夢の内容を思いだすと、悟は加奈子のためになら引っ越しても良いという気持ちになってきた。
(加奈子のつらそうな顔は見たくない)
まだ友達と別れたり知らない町で暮らす事の不安はあるけれど、今度引っ越しの話を父親にされたら同意しようと少年は思った。
ほっぺたから手を離すと、
「んーっ」
という声をあげて妹の目が開いた。
引っ越しについて悟が悩んでいた間も動物たちの森への流入は止まることはなかったが、ある程度の慣れ、もしくは感覚の麻痺により悟はさほどそれに対して驚かないようになってきた。時々森へと消えていく生き物が目に入ると辛い気持ちになる事があっても、まるでそれが当たり前の自然法則であるかのように感じてしまって。
友達と近くの川で遊んだ帰り、予想よりも早く空の橋が赤みを帯びていたので悟は早足で家路を急いでいた。
すると、家まで百メートルほどの所で、見知らぬ男性が悟の母親に何か尋ねているのを見た。男は背広を着ていて一見普通のサラリーマンだが、乱れた頭髪やよれよれのシャツ、そして生気のない表情から半分浮浪者のような姿だった。悟は話し声が聞こえる距離までは近づいたが、警戒してそれ以上は寄らなかった。男は道を尋ねていたようで、目的までの道を教えてもらえたのか、頭を下げてその場を後にした。
少年は母親に近づいて、
「あの人誰?」
と聞いた。
「さあ、お母さんも良くわからないわ。ここらじゃ見かけない顔だし……、何かの仕事か出張にでも来た人じゃないかしら」
「ふーん」
大した意味もなく発した質問であったため関心はすぐに薄れ、悟は気のない返事をした。
母親はそんな事を気にもせずしゃべり続ける。
「変な人だったわ。陰気でさ、今にも倒れそうな顔してて、小さな声で『この辺りに森はありますか』って聞くのよ」
「え? 森?」
少年は思わず聞き返した。