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森へ  作者: 藍内
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からかい

 悟の胸中は複雑だった。加奈子には元気になってもらいたいが、友達と別れ知らない街に行く事を想像するとためらってしまう。布団に入って寝るまで、悟は延々とその問題について悩み続けた。

 その夜、少年は妹が小学校に入ったばかりの頃の夢を見た。


――学校の授業が終わりランドセルを背負って校庭へ出ると、校門に近づく加奈子を見つけた。様子がいつもとは違い、うつむきながらゆっくりとしか歩いていない。

 また体調を崩したのかと思い悟が駆け寄ろうとした時、加奈子の数歩後ろにいる二人の少年に気づいた。学年で言えば小学校一年か二年ぐらい――恐らく加奈子の同級生――の少年達は加奈子に向かって何かを言っている。

 はやし立てるようなその仕草で悟はその内容がどういうものか分かった。

 声が聞こえる距離まで来ると、案の定加奈子の体が弱いことをからかう悪口を少年達は言っていた。

「やーい、ちび」

「そんなに休むんなら学校来んな」

 加奈子が生まれつき心臓に疾患があって体が弱いのは既に何度も先生が説明していたが、それでも検査や治療のため学校を休んだり発作を起こさないよう体育を欠席するたびに、同級生の数人がこうやって加奈子をからかうことがあった。この時も、前日に体調不良で学校を欠席していたことがからかわれていた。

 その声を聞いた悟は、すっと少年達の後ろに回ると、力任せに二人の頭を叩いた。


 少年達が泣き出した後、悟はその行為を見とがめられて職員室に連れて行かれた。

 教師達の、どうして子供たちを叩いたのかという問いに悟は一切答えず、時々心のこもっていない言い方でごめんなさいとだけ答えた。

 日頃の生活態度から十分程度で教師は悟を解放した。悟が職員室のドアを開けると、廊下に加奈子が立っていた、泣きはらした顔で。

 ごめんね、ごめんねと何度も言う妹に対し、悟は頭をなでて、

「もう帰ろう」

 とだけ言った。

 帰り道、通りすがりの年配の女性が

「大丈夫?」

 と声をかけてきた所で悟は、自分も妹と同じように泣いていることに気がついた。自分が何も出来ない悔しさと悲しさで。女性は心配そうに二人を見つめながら逆の方向――森へと歩き出すが、悟にはそれに気づく心の余裕はなかった。

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