流入
(横になってればすぐに楽になれるのに)
と、悟が思うほどその姿は痛々しかった。
犬は時折地面に血を滴らせながら家から離れていく。少年がそれを目で追っていくと、その先にあの森があることに気がついた。一昨日の犬や、昨日の猫が向かっていた森だ。道は異なるが、田んぼを一つ挟んで少し脇にそれているだけで目的地は同じである。ふと、猫は年老いると死に場所を探すという話を少年は思いだした。あの犬達はあの森を死に場所にしたのだろうかと少年は思った。
学校が終わり悟がいつものように通学路を歩いていると「森」が目に入ってきた。悟のいる道からは距離がある。それでも毎日家と学校とを往復していれば自然と目に入るはずだが、その森に対して悟はほとんど何も記憶していなかった。ただの変哲のない、田舎の中では目立たない森だった。少年は森のそばまで行ってみる。暗く、じめっとした感じがその森にはある。そういった雰囲気が嫌でその森を避けていた事は覚えていたが、それだけだった。森に入ったことさえないかもしれない。
外から森を見ているだけではなく、入って調べようともしたが止めた。犬や猫の死骸がごろごろしている光景を想像してしまったため、臆病な所がある少年にはためらわれた。今ではもう、その森に完全に「死」のイメージがこびりついてしまっていた。
そろそろ友達との遊びの約束に遅れる、と言い訳めいた事を考えながら悟はその場から立ち去った。
その途中、かえるが少年とは逆方向に飛び跳ねていった。
悟が森の側に行った次の日も、元気のない犬や猫が引き寄せられるように森へと入っていった。
生き物たちの森への流入はほとんど毎日起こるようになっていった。悟が見たものでもそれだけあり、実際はそれ以上とも考えられる。