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僕はまた誰かを愛せるだろうか  作者: 矢崎聖夜
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第一章 過去の栄光

   僕はまた誰かを愛せるだろうか   

 

 第一章 過去の栄光

 

 中学校の頃、僕は恋をした。それは学校が始まってすぐのことだった。僕らの中学校は、街の近くの二つの学校が合体して一つの中学校になる。だから慣れ浸しんだ人もいれば、赤の他人とも出会う場所である。

 そんな中学校を僕は楽しみにはしていなかった。新たな人間関係を築き上げるのがとてもめんどくさいと思っていたからである。今でも築き上げた人間関係を維持するのでさえ、めんどくさいのに関わらず、また築き上げろというのか。

 そのことを母に伝えた時、母は大笑いした。

「なに一丁前のこと言ってんの。これから先何度人間関係の構築が必要だと思ってんの。人生は出会いと別れのサイクルさ」

 とドヤ顔で言った。

 でも、少しわかった気がする。また新たな人と出会って、そして人間関係を構築する。これはもしかすると大人になっている証なのかもしれない。出会いの回数は、歳をとった事実と比例するのだ。

 そんなめんどくさいとばかり思っていた僕は、出会いも悪くないと思えることがあった。

 それは恋の始まりだ。人生、生まれてこれまで恋というものをしたことがなかった。けれど、中学に入りその恋というものを味わった。

 相手の名前は清水加奈。小学校は一緒ではなかった。この子を初めて見た時に、今まで味わったことのない感情が湧き出て来たことを今でも鮮明に覚えている。これが恋かとはっきりわかったものだ。

 今まで仲の良い友達が恋の話をして来た時、それは自分でうまく変換した恋という言葉としか思っていなかった。なんというか、可愛いや、一緒にいて楽しいなどの代名詞として、すきやこいがあるものとばかり思っていた。

 けれどそれは違った。明らかに、この子を見た瞬間の感情を恋という文字以外では表すことができなかったのだから。

 彼女を見たのは、学校が始まって初日の廊下ですれ違った瞬間だけであった。僕はこの感情をどうして良いのかわからず、すぐに幼稚園の頃からの幼馴染である二つ上の学年の松戸のクラスを訪ねた。

 彼もこの様な切羽詰まった表情の僕を見るなり、気を遣って、教室出ようかと言ってきて、僕らは屋上まで走って行った。

 屋上に着く授業の開始のチャイムがなったが、僕らのこの空気に打ち消されたかの様に僕らの耳には届かなかった。というか聞こえないふりをしたというのが正しいのだろうか。

「どうしたんだよ、そんな怖い顔して」

「聞いてくれよ。恋がわかったんだ。」

 松戸は眉間に皺がよるほど理解ができていなかった。

 この事の顛末を話すと松戸は口を開いた。

「それが恋だ。でもよ、恋は男をダメにするぞ」と。

 なんでそんな事お前にわかるんだと怖い顔をして言い返してやった。それはそうだ。今まで存在もしなかった新たな原子を生み出したほど、僕は興奮していたのだから。

 話を聞くと松戸も恋をしていたそうだ。

「俺も中学入ってすぐに恋をしたんだ。けどよ、本気で恋をすると大変だぞ。勉強にも手をつけられず、集中しようにも違うことばかり考えてしまうほどだ。特に男はそうだ。例えうまくいってもいつかは恋が終わる。わかるか?。どっかの本で読んだことがある。失恋を引き摺り出したらもう人生は詰んだと思えだそうだ」

 彼のいうセリフが当時の僕には理解できなかった。でも、正しいことを言っている様には聞こえた。彼は勉学でも教養があって、たった二つ上とは思えないほど大人びていた。だから学校でも一躍置かれていたし、僕は彼の言うことを信じて来て、間違っていたと思ったことはなかった。

 それからその日は恋というものをまじめに考えた。学校の授業中や放課後の遊び途中、お風呂や寝る前にも。けど、どうにも恋というものが理屈では説明できないことに気づいた。

 でも確かなこともわかった。このままではダメということだ。とりあえず話しかけなければ。明日絶対に話しかけてやると。その日は明日どう話しかけるかのシチュエーションばかり考えていて、気づけば遅くまで起きていた。

 次の日の朝。目が覚めた瞬間声をかけるぞという意志はどこに行ったのやら。昨夜のテンションは風に流されて行ってしまった。たかが声を掛けるだけと思ったが、思いのほか言葉は簡単には口から出ない様だ。今日も廊下で一度だけすれ違ったが、案の定声はかけれなかった。でも、彼女が入った教室が三組であることだけはわかった。

 そして次の日こそは、次の日こそはと日にちだけが経って行った。

 それからもう何ヶ月が経ち夏休みを迎えることになった。僕は入学して二週間後にはサッカー部に入って、それから彼女は陸上部に入ったらしい。よく練習の時に見かけるから事実である。あの日から彼女のことを考えなかった日はないのではないかというほど僕は恋に夢中になっていた。

 でも、未だに話せてはいない。夏休みが始まれば約二ヶ月は彼女と話すチャンスはない。だから今日こそはと思っていたが、もう放課後である。頭の中では何度も彼女と話をしたが、現実の世界ではそんなこと一度もなかった。

 また彼女に話しかけることすらできなかったセンチメンタルな僕を惨めに思いながら部活に取り組んでいる。そのままボーとしていたらサッカー部の部長に先生のところに今日の練習メニューを取って来てくれと言われた。集中していなかった僕をいらないと感じたのだろうか。最近三年生最後の大会も近く、練習中の空気はピリピリしていた。

 僕は職員玄関から入り、職員室に向かった。そして、先生に練習メニューの書いてある紙をもらい職員室を後にした。でも少しでも部活をサボりたかった僕はゆっくりと廊下を歩いた。

 そこに人生最大のチャンスが訪れる。前の方から清水さんが歩いて来ていたのだ。

 胸の高鳴りが大きく聞こえて、緊張が足に伝わった。話しかけなきゃと思うと同時に、彼女に話しかけるタイミングが遅くなる様に、足元がゆっくりなって行った。まだ来ないでくれ、まだ来るな。心の準備ができていない。心の中でひたす呟いていた。

 彼女がゆっくりと僕の横を通り去っていく。あんな何秒かの時の時間がゆっくりと去っていく。その時が刻んでいるのを肌で感じることができるほど、敏感な心になっていた。

 

 僕はまた話しかけれなかった。

 

けどこの頃はまだ若かったのだろうか。後先を考えず行動できたからなのかもしれない。後悔する様じゃだめだ。もうどうにでもなれ。そう心の中の自分に言い聞かせた。理性という言葉はどこか彼方へ飛んでいった様に、僕は走って彼女を追いかけた。

「あの、清水さん」

 人生最大の勇気を振り絞った僕の声は彼女に届いた。でも驚いた様に振り返った彼女の瞳には涙が溜まっていた。

「ど、どうしたの。大丈夫?」

 すると彼女はいきなり泣き出した。なにか彼女の中に我慢していた糸が切れたようだった。僕は何かしてしまったのかと思ったが、思い当たる節がなかった。この廊下で泣いている姿を誰かに見られたら彼女が恥ずかしいだろうと思い、近くの多目的室に僕らは入った。

 椅子や机が後ろにまとめられていて、僕はそこから二つの椅子を引きずり出した。

 彼女を座らせて、僕も座った。

「何があったの?」

 僕は今までにないほど優しく話しかけた。

 初めて話せたと思ったが、いきなりこんな場面に遭遇するとは思いもしなかった。何度も何度も彼女に頭の中で話しかけたが、こんな場面は一度も想像できていなかった。彼女は泣きながら話し始めた。

「陸上もうやめようかな」

 どういうことか理解ができなかった。どう言うことか話せるかと聞くと、彼女はゆっくりと話し始めた。彼女の話を聞いたら先輩にいじめられているそうだ。彼女は陸上でズバ抜けた成績を叩き出しており、なおかつ可愛らしいかったこともあったからだろうか。一年の頃から大会にも出してもらっていた。けど、そんな彼女ををよく思わない先輩もいるらしい。彼女は日常的にいじめを受けていた。

「先生に相談したの?」

「先生には言わないでほしい。これが大きなことになったら私怖くて」

 彼女は今日もいじめを受けて、もう耐えられなくなり部活をサボっていたらしい。今日は陸上のシューズをドロドロにされていたそうだ。

 僕は苛立つ気持ちを彼女の前では出さないでいた。それで彼女の心がまた強張るのを抑えるためだ。でも、体は抑え切れないのか、握っている手のひらに爪の跡が大きくついていた。

「俺がどうにかする。だから泣くなよ。陸上すきなの?」

 彼女は小さく頷いた。

「わかった。俺に任せてくれる?」

 彼女はまた小さく頷いた。

 泣き止んだ彼女と僕はそれから一時間近く学校の話や、部活の話で盛り上がった。僕らの会話以外何も聞こえないこの教室で。話をする限り、彼女は勉強がどうも苦手らしい。いつもクールそうに見える彼女は話すと意外にも気さくであることがわかり、また僕の恋心は揺さぶられた。

 思い出したかの様に彼女がいきなり言い出したことで僕らの幸せな時間は終わった。

「てか部活大丈夫なの?」

 部活、完全に忘れていた。先生から練習メニューも預かっていたんだ。ごめん、また話そと言って僕は多目的室を去った。そして、彼女との余韻に浸りながら廊下を全速力で走った。

 部活に戻るともちろん鬼の顔をしたキャプテンがいた。僕の方を見る目が明らかに怒っている。キャプテンに練習メニューを渡すとやはり怒られた。でも、僕は人の五倍以上は嘘がうまかった。対応力というのだろうか。ベラベラ喋るかの様に嘘が出てくるほどである。

 先生にメニューを渡したらこの前提出し忘れていた課題について怒られていましたというとキャプテンの怒りは消え去り、仕方がないことだと片付けてくれた。

 この嘘は色々即座に考えた嘘であったがうまい嘘であった。この言い訳はキャプテンが確認しようがない嘘であるからだ。僕はやはり嘘がうまいなと自尊心に浸った。

 家に帰り彼女を助ける方法を考えた。もちろんあの相談された時に一つ方法は思いついていた。けど、これがうまくいく保証はなかった。

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