第十二話『自らを知る』
第十二話です。前回同様、こちらの話も当初入れない予定の話でした。が、入ってしまったお話です。同じように、悪戦苦闘しながら、書きました。よろしくお願いします。
「そういえば、梟さん。自分、ちょっと気になったことがありまして」
帰り道の途中、話が少し途切れたところで樹が語り掛けてくる。
「ん? なんだ? まだ悩みがあるのか?」
先ほどの話でこちらはお腹いっぱいなんだけど……。
「いえいえ、違いますよ! これはホントにちょっと気になっただけのことなんです」
とんでもないといった様子で首を横に勢いよく振る樹。よかった。本当にちょっとした話をするだけみたいだ。
「ほおん。言ってみそ」
「梟さんって妹か弟がいません?」
妹か弟? 生れてこの方ずっと一人っ子なんだけど……。
「なんで、そう思ったんだ?」
「お嬢の、年齢が下の子の扱い方がなんか手馴れているなと思いまして」
「あ~、そういうこと? さっきの望とのやり取りを見てってこと?」
「はい」
なるほどね。
「ん~…、その弟か妹がいるのか?っていう問いに対する答えはNOだ」
そう言うと、樹は少し驚いた様子で、俺の答えに対する感想を述べてくる。
「へ~~~、意外ですね。あ、じゃあ、下の子の面倒を見ていた期間があるとかは?」
「ないな」
そう応えると、樹のテンションがまた少し上がる。
「じゃあ、本当に日ごろから下の子の相手をしてきたっていう経験がないのにも関わらず、あれほどまでに上手くお嬢に接していたわけだ。それってすごいことですよ! 梟さん、あなたは天才です!!」
天才? あれぐらいのことは誰にでもできると思うけどな……。てか、普通に話していただけだし。
「いや~~~、凄いですね。お嬢の扱いってとても難しいんですよ? あの人、わがままですし、頑固ですし、頭堅いというかなんというか……、賢いのにアホの子というかなんというか……」
掘り出された間欠泉の如く樹の口から溢れ出してくる望への不満。これはかなり溜まっていたな。
「そんなにか? 確かに男性に対する当たりはきついけど、そこまでひどいとは俺思わないけどな」
「そんなにですよ! 皿は片づけないし、お弁当は出さないし、部屋は片づけないし……」
お前はオカンか。
「出したものをしまわないし、勘は良い癖に騙されやすいし、顔はかわいらしいくせに行動が粗くてガサツだし―――」
延々と続く望への不満。それに同情するように頷こうとしたところで、俺は進行方向少し先から感じた般若の如き気配を察し、樹から目をそらし、その気配を放っている人物に対して自分は無関係であることをアピールする。
俺が感じたすさまじい気配にも、俺が目をそらしていることにも、そして、目的地に到着していて不満の対象である人の前に立ち、その人に対しての暴言交じりの不平不満を言い放っていることにも……、目を瞑りながらダラダラと望に対する愚痴を吐き出している樹は気づいていない。
「ふうん。ガサツで、アホで、ゴリラ……ね」
日中の砂漠を一瞬で永久凍土へと変貌させてしまうような冷気が、間の前の小さな少女の身体から放たれる。ここで初めて樹は、自らがしでかしてしまった、現在進行形でしでかしていることに、ようやく気がつく。
「あ~……、お、お嬢? あ! そ、そうそう! 今のは冗談ですよ、冗談(笑)!!
だから、そんな目で見ないでくださいよ~! こわいですってぇ~……。あ、自分の言っていること信じられない感じですか? ホントに冗談ですって(笑)! ね! 梟さん!」
お、俺は知らねっ!
「ちょっと!? 冗談でしたよね? ね? なんで、そっぽ向いているんですかぁ!? 梟さんっ!!」
泣きだしそうな声で、こちらに助けを求めてくる樹のことは無視して、そろりそろりと、その場にいるもう一人を刺激しないようにその場から歩き去る。
そのまま来た道を引き返し、二人の姿が視界に映らなくなるところまで歩き、道端にあった手ごろな切り株に腰掛ける。
しばらくすると、樹の叫び声が聞こえてきた。
すまん、樹。俺も巻き込まれたくはなかったんだ。……まじでごめん。
数分後、叫び声が止んだタイミングで戻ると、樹の顔面が、いつもの二倍以上に膨れ上がっていた。お勤めご苦労様です~……。
「さて、気を取り直して設営と行こうか。設営場所に移動するから、俺についてきてくれ」
その後、設営は順調に進み、調理班が調理を終える前に設営が完了した。
「ふ~~~、終わったな。完璧、完璧! 手伝ってくれてありがとさん」
さて、設営場所の報告がてら調理班の元に行こうかな。
そう考えた俺は、何やら話が盛り上がっている二人に背を向けて、調理班のいる方へと歩み出す。
細いけもの道を進んでいく。これが自然にできているってことは、野生の動物がいるってことか……。そういえば、動物って異形に襲われないのか? どうなんだろう?
ふとした瞬間に浮かび上がってきた素朴な疑問。
それに対する解答を与えてくれたのは―――
「異形は動物も襲う」
道の左側に鬱蒼と茂っている茂みが割れ、その中から俺の疑問に答えた回答者が現れる。
「隊長!」
「よっ! さっきぶりだな」
薪で塞がっている腕を振る代わりに、白い歯を見せてくる。
「で、さっきのお前さんの疑問に対する解答の続きなのだが、動物を推そう個体もいるっていうのが厳密な解答だな」
「へ~~~」
勉強になるなぁ。
「まぁ、一般的な個体は動物を襲わない。遠隔攻撃を多用してくるような個体の中にたまに動物も襲う個体がいる。そんな認識で大丈夫だと思うぞ」
「なるほど、わざわざありがとうござ……」
ん? 俺って隊長が答えた疑問、口に出してなかったような?
「……います。ところで、隊長。つかぬことをお聞きしますが、俺、その疑問、声に出してました?」
「出していたよ。しかも、かなり大きめの声で」
え!? マジで!!?
「心の声は隠さないとだめだ。相手に知られたくない情報を渡してしまうようなことにもなりかねないからな。今後、気を付けるように」
「はい……」
そうか。声に出ていたのか……。出していないと思っていたんだけどなぁ。
「ほら、立ち止まっていないで行くぞ。お前も調理班のところに行くのだろう?」
「ああ、はい」
「なら、歩きながら反省すること。時間は有限、時は金成りだからな」
「はい……」
一頻り心の中で反省した後に、心の中に隊長に聞いてみたいことが降って湧いてきたので、それを次の話題とするべく、隊長に向けて問いかける。
「隊長。少し気になったことがあるんで、聞いてもいいですか?」
「ああ、いいよ」
視線を正面に固定したまま、隊長は俺が問いかけることを承認する。
「隊長にとっての強さって何ですか? あと、その強さの元って何ですか?」
樹から相談を受けたとき、俺は明確な解答を示すことができなかった。
俺は樹の言う一つ先の強さというものを自分の中に感じたことがない。それどころか、思い当たる節が一つもなかった。だから、曖昧且つ主観的な意見しか答えることができなかった。
樹は俺から副隊長と隊長から感じるような何かを感じ取ったと言った。
その発言に対して俺はあの時、気のせいではないかと答えた。
が、それはあくまで、隊長と副隊長が持つものと同じ何かを俺から感じ取ったのだ、と言う樹の発言に対してだけで、隊長や副隊長から感じ取った何か自体を否定しているわけではない。
むしろ、隊長と副隊長から何かを感じるという意見に対しては、肯定派だ。その理由は単純明快。その二人が他の追随を許さないような強さを手に入れているから。
自分たちとは住む世界が違う。
対面した相手のみならず、彼、彼女の戦う姿を見ただけの者にまでそう思わせてしまうような強さを隊長と副隊長は持っているからだ。
そして、俺は樹が相談をしてきたとき、同じように隊長と副隊長の持つ明らかに卓越した強さの秘訣、樹が言う何かに興味を持った。
だから、隊長を目の前にした時に聞きたくなってしまった。強さの秘訣の模範解答を。
その言葉を聞き、少し驚いた様子を見せた後、考える素振りすらせずに隊長は、俺の問いに対する答えを返してくる。
「俺にとっての強さか……、意思かな? 意思を持って、意思を乗せて、鍛えて、戦う。うん。意思だ。俺にとっての強さは意思だ」
え? 意思? それって……。
隊長の返答を聞いたとき、隊長の答えと、樹が相談をしてきたときになぜかふと心の中に浮かんできた答えが、似通っていることに俺は動揺を隠せずにいた。
その心情が余程、表情に出てしまっていたのか、心配そうな顔をした隊長がこちらの顔を覗き込んでくる。
「おい……、大丈夫か?」
「ああ、はい。大丈夫です。続けてください」
こちらのことを気に掛けながら、そこから先の内容を隊長は言葉にする。
「ああ……。で、後は俺にとっての強さの元か……、それは多分、自分をよく知り、自分をうまく使うことだな」
「自分を知る? 自己分析をしっかりとするってことですか?」
自己分析は確かに大切だ。だが、自己分析は目指すものがある人ならば大抵一度はするであろうものだ。基礎が大切ってことか……?
「まぁ、それもある。が、そうじゃない。ここで言う自分を知るというのは、自分の本質を掴むことなんだ。自分の外側に付いている情報を探って、自分のことを把握するということではない。行程として、手段として一部それらの情報を経由、もしくは活用することはある。だが、本当に知らないといけない自分に関する情報では、ないんだ。本当に知らないといけないのは———」
そこまで言ったところで、急に隊長の声が消える。まるで、ボタン一つで隊長の声がミュートされたかのような———
隊長?
突然の沈黙に驚きつつも、隊長のことが心配になり、周辺の警戒に向けていた意識と視線を隊長の元へと向ける。
目に映ったのは、隊長が身をかがめながら自らの首を絞めている光景だった。
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では、次回。またね




