7:~そして婚約へ――!~
ヒロイン本格登場なので実質初投稿です!
「悪よ、滅びろ」
(っ――)
颯爽と現れた黒髪に、『魔導騎士』アイリス・ゼヒレーテは心奪われた。
――村娘の頃より、彼女は騎士物語に憧れていた。
アーサー王、シャルルマーニュ、クー・フーリン。
民のために刃を振るう彼らの、なんと勇ましきことか。
頁をめくっては瞳を輝かせたアイリス。
『自分も、こう生きたい』
寵愛される姫にではなく、彼らのような騎士になりたいと、幼きアイリスは強く願った。
それから二十年。アイリスは夢を叶えてみせた。
村の少年たちに混じって木刀を振り回し、「女の子らしくしてくれ」とむせび泣く親に謝って出奔し、旅先で師を得て修行し、ついには現代のナイト・魔導騎士の座を掴み取ったのだ。
さぁ資格は得た。
騎士になったからには民のために頑張ろうと奮起し、アイリスはひたすら戦い続けた。
山ほどの任務を自主的に受け、あちこちに出向いては戦って、戦って戦って出世して出世して戦って、やがて同僚たちより「女の幸せを捨てている」「任務が恋人の行き遅れ騎士」と陰口を言われるほどに戦い、『自分の生き方はこれでいい』と意地を張るようにさらに戦って……。
そして、あっさりと敗北した。
大量の魔物を始末した後、疲れていたところをミノタウロスが不意打ち。即座には動けないほどのダメージを負ってしまったのだ。
(しまっ、た……)
万に一つのミスだった。
だが逆に言えば、万の戦いを重ねれば、必ずいつかは訪れるような失敗だった。
戦い続けた女騎士は、それを引き当ててしまったのだ。
『ブモォォォオ!』
とどめを刺さんとする牛人。
振り上げられた剛拳を前に、アイリスは思い出した。
どんな騎士たちも、最後には滅び去っていることに。戦場で死を振りまく者には、やがて誰かから死を与えられるという当たり前の事実に。
「くっ、ここまでなのか……ッ!」
自分の騎士道も、人生も……よく考えればあまりにも花のない生涯も、ここで幕を閉じるのか。
(ああ……こんなことなら一度くらい、恋とやらでもしてみるべきだったか……)
誰かに恋をし、恋人となり、純白のウェディングドレスを着て幸せになる自分――。
そんな、馬鹿な妄想をしてしまう。こんな行き遅れの戦いしか知らぬ女に、振り向いてくれる『誰か』など現れるわけがないとわかっているのに。
それでも、
(一人で死ぬのは……すごく、嫌だっ!)
今更ながらに湧き上がる後悔。死への恐怖に身体が震える。
こうして彼女が、終わりを迎えようとした――その刹那。
斬。
(えっ……)
まるで、時が止まったように感じた。
突如として現れた黒髪の若者。彼の振るったベンタブラックの刃が、死の運命を斬り裂いたのだ。
視線が彼に、釘付けとなる。
(この、者は)
呆然と見上げるアイリス。
颯爽と現れた彼の姿が、まるで幼き頃に夢見た本物の騎士のように思えて――。
(この者は、一体……!)
やがて、時は動き始めた。
鮮血を噴きながら生首が落ちる。鈍い音を立て、ミノタウロスの巨体が地に倒れる。
そんな牛人と自身の間に、その若者は舞い降りた。
彼は、凛とした瞳でミノタウロスを睨むと――、
「――裁きの刃に散るがいい。『純白の華』を散らさんとした報い、神に代わって俺が与えよう」
(ッッッ!? ッッッッッッ!?!?!?!?!?)
純白の華!? 誰がっ!? ――この、行き遅れの私が!?
瞬時に沸騰するアイリスの脳みそ。
突然の口説くようなセリフにパニック状態になり、思考が自然と口から出てしまう。
あぁ恥ずかしい。真剣な顔で何を言ってるんだ彼は。
こんな年増をからかうんじゃないと、そう怒りつつも――
(……純白の、華……!)
思わず口元がにやけるアイリス。
つい先ほどまでの危機を忘れるほどに、どうしようもなく胸が高鳴っていた。
――こうして、クロウがとっさに放った一言は彼女の心にクリティカルヒット。
彼はまっっっったく意識しないまま、帝国魔導騎士団・副団長『白刃のアイリス』の初恋相手になってしまうのだった……!
◆ ◇ ◆
「――ぐずっ、そうか……それで故郷を滅ぼされたクロウくんは、悪しき者たちから人々を守るために、旅立ちを決め……!」
「はい(めっちゃ泣いてくれてるぅ……)」
あれから数分後。
俺はアイリスさんという魔導騎士様と一緒に、その場でひとやすみしていた。
森の中だが、魔物が近づいてくる可能性は低い。
アイリスさんが『魔除けの札』を出し、四方に張り巡らせてくれたからだ。
魔力の影響で、千年前にはパチモンらしかった呪符も本当に効力を持つようになったわけだな。
「それでアイリスさん、勝手に魔導兵装を使ってしまった件ですが……」
「敬語はいらない。あと呼び捨てにしてくれ」
「えぇ……」
いやいやいやいやよくないだろ……!
年上な上に、話によると騎士団の中でもめっちゃ偉い立場らしいのに。
あぁでも、せっかくフレンドリーにしていいって言ってくれてるのに、断ったら怒っちゃったり!?
そしたら見逃がされる可能性はゼロになっちゃうし、こうなったら覚悟を決めて……!
「……わかったよ、アイリス。これでいいか?」
「うむっ、それでよろしいっ!」
ぱぁっと明るく笑うアイリス。
どうやら正解だったらしい。いきなりドキドキさせてくれる女騎士様だ。
「さてクロウくん。資格もなく魔導兵装を使うのは犯罪だ。たとえ人を傷付けてこなかったとしても、重罪に値する」
「やはり……(あ~~~~~~やっぱそうなるかぁぁぁ!)」
俺は冷静な顔の裏で泣きかけた。
これでクロウくんは断罪者から犯罪者だ。ちょっとお金持ちになってそこそこ美人な嫁さんをゲットする夢は、限りなく遠いものになってしまった。
……てか、牢にぶち込まれて魔物狩れなくなったら、俺やばくね!?
あのムラマサのことだ。腹が減ったら獄中の俺を操り、無理やり自分を取りに来させるに決まってる。
そして脱獄させられた俺は、一般人を斬りまくって国家の敵に……あわわわわわ!?
「ア、アイリス……俺は……!」
もうこうなったらクールぶってる余裕なんてねぇッ!
かくして、俺が『断罪者』ムーブなんてアホな真似はやめ、全力で『悪気はなかったんです許してくらひゃぃぃいいいいい!』と泣き付こうとした時だ。
不意にアイリスは「ただし」と言った。
「一般人が魔導兵装を使っても、罪に問われないパターンがある。それは、魔導騎士の弟子である場合だ」
「なにっ……?」
思わず呆気に取られてしまう。
この人は何を言っているのかと。
「師の許可さえあれば問題なしだ。そうじゃなければ使用訓練できないからな」
「いや、アイリス? 俺に魔導騎士の師なんて――」
そこで俺はハッとした。まさか彼女は……!
「……俺のことを、庇ってくれるのか……!?」
「ふっ、何のことだかわからんなぁ? ずっと弟子だったクロウくん?」
「っ……!」
俺はたまらず彼女の手を握った!
突然のことに「ひゃぁっっ!?」と驚くアイリス。
こんな根暗顔の犯罪野郎にいきなり触られたら怖いよな、でもすまない。
本当に、もうダメかと思ってたんだ。まさか見ず知らずの俺を庇ってくれるなんて思わなかった。
ああ、感謝だ。ここまで感謝の気持ちを抱いたのは初めてだ……!
俺は彼女の白い手をしっかりと握り、綺麗な瞳を強く見つめた。
「ありがとう……ありがとう、アイリス……! この恩は絶対に忘れない。一生を懸けてでも、君に報いていくと誓おう……っ!」
「一生!?」
アイリスはぷるぷると震え始めた。
おっと、流石に一生恩返ししますよ発言は重すぎたか。驚いてしまうのも仕方ない。
でも、これくらい言わないと気が済まないくらい感激してるんだよなぁ……。
「ァっ、ぁのっ、クロウくん、さっきから、手……ちから、つよい……これが、おとこのひとの……!」
「っと、すまない。こんなに良い人に巡り合えるとは思わなかったからな」
「いいひとっ!?」
「俺としたことが、興奮してしまったというか……それで力が……」
「興奮っ!? わたしで!?」
今度は「みゃあああ!?」と鳴くアイリスさん。
あまり褒められ慣れてないのか、すごく恥ずかしそうだ。
こんなに良い人なら毎日だって褒めてあげるのに。
「本当に、アイリスと出会えてよかった……!」
「はわぁぁぁぁあ……!?」
――こうして俺は、彼女のおかげで罪を免れたのだった。
いや~一時期はどうなるかと思ったぜ。捕まらなくてよかったよかった!
これで一件落着だなっ! はっはっはっはっは!
アイリス「この男、 絶 対 に 捕 ま え て 婚 約 し て や る……!」
『面白い』『更新早くしろ』『止まるんじゃねぇぞ』『死んでもエタるな』『こんな展開が見たい!!!』『これなんやねん!』『こんなキャラ出せ!』『更新止めるな!』
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