64:英雄降臨
前回までのあらすじ: ク ズ 。
「――クソッ、話が違うぞ!」
豪奢な屋敷に怒号が響く。
叫んだ男の名は、セグリオ・フォン・カームブル。
帝国に名高き武家貴族・カームブル侯爵家の当主であった。
「父さん、落ち着いて……」
「アナタ……」
「セグリオ様……!」
荒れ狂うセグリオを、煌びやかな格好の者たちが宥める。
今、ここカームブル領の屋敷には、セグリオを始めほとんどのカームブルの血筋の者らが集まっていた。
いないのは幼児と隠居した老人と、あとは重傷を負って動けないヴィータのみだ。
「くっ……!」
頭を掻き毟るセグリオ。そうして何度か荒い息を吐き、少しばかり落ち着きを取り戻す。
「……当初の予定では、ヴォーティガン王子が天下を取る予定だった。我らはそれを真っ先に支持し、新時代の帝国の覇権を握るつもりだった……。それなのに……!」
異変の日、帝都で起きた事の次第は聞いていた。
平民風情の英雄・クロウが老害と化した帝王を改心させて土下座に及ばせ、民衆たちの信頼を取り戻させたというのだ。
それによりヴォーティガンの反乱は失敗。最終的に彼は内地から撤退したという。
「くぅ……! 幸いにして王子と――『黒亡嚮団ヴァンプルギス』と、我らが取引した証拠はないが……それでも……」
凶悪なテロ集団と関わりを持ってしまった事実は消えない。
事実とは、いずれ誰かに伝わるものだ。秘密とはいつか暴かれるものだ。
ああ、カームブル家の醜聞が外部の者に漏れやしないかと、当主・セグリオは気が気でなかった。
「あぁどうすべきか……」
延々と悩むセグリオと、残るカームブル家の者たち。
――彼らの心にあるのは、権威失墜への心配のみ。
民衆を躊躇わず殺すようなテロ組織と取引したという悪徳への反省は、一切なかった。
そうして頭を抱え続け……やがてセグリオは、チッと舌打ちをしながら前を向く。
「こうなったら致し方ない。お前の意見を聞こうか、犬め」
犬。――そう呼ばれたのは、一族の座る長テーブルの、もっとも端に座らされた人物。
騎士団の支部長兼カームブル家の奴隷、ヒュプノであった。
「あぁ旦那様っ、この犬ごときに意見を伺われるとは光栄でございます!」
媚びへつらった笑みを浮かべ、彼(あるいは彼女)は立ち上がる。
「フン、おべんちゃらはいい。さっさと我らがどうすべきか言え」
セグリオを始め、嘲りの視線を向ける一族の者たち。
それらにヒュプノは全く怯まず、「では」と指を立てて提案する。
「あくまで私の意見ですが――みんなで王族に、謝りませんか?」
『はぁッ!?』
全員が一斉に声を上げた。机を叩いて立ち上がり、ヒュプノを激しく睨みつける。
「何を言ってるんだお前はッ、馬鹿か!?」
「わざわざ罪を露見させてどうする! 脳みそが腐ったのか!?」
「ふざけるのも大概にしろ!」
轟々と響く怒号の数々。「犬ごときが!」「調子に乗りおって!」と、カームブル家は走狗を激しく叱責した。
これでよく知るヒュプノなら、『ひぃすみませんッ!』と靴でも舐め始めるはずだが……。
「冗談ではありませんよ。――悪いことをしたら謝る、そんなのは子供でも出来ることでしょう」
ヒュプノは、一切引かなかった。
媚びへつらった笑顔の仮面を破り捨て、真剣な目で一族を睨む。
「実際に、かの帝王はなさいましたよ。新時代の英雄、クロウの前に膝をついて謝った……!」
まさに英断。彼は最後に真の王になられたと、心からの敬意を込めてヒュプノは語る。
「それに比べて、アナタたちはなんです? 王に倣うのが貴族なら、さっさと謝ればいいでしょう。失うモノは多いでしょうが、反省した事実はきっと人々の心に響き――」
「もういい」
瞬間、冷徹な声が言葉を遮る。
セグリオだ。彼は嫌気に満ちた表情で、ヒュプノを見ながら溜め息を吐いた。
「お前も所詮、平民の出か。我ら貴族の背負う重みを、まったく理解できてなかったようだな」
ゆっくりと立ち上がり、腰に佩いた剣を抜いた。
当然ながら破壊の権化、この時代の兵器たる魔導兵装だ。
本来は民草の平和を守るべき剣を――その切っ先を、ヒュプノに向ける。
「何をどうして貴様が変貌したかは知らん、興味もない。ただ……貴様は今日、ここに呼ばれて我らとテロ組織の関係を知ってしまったのだ。語るまでもなく生かしておけんよ」
刃に満ちる凶悪な魔力。さらに他の者たちまでもが武装を抜き、一斉にヒュプノへと向けた。
「反省? 誰がするかそんなものッ! それが、カームブル家の総意だぁああああーーーーッ!」
そして放たれる無数の破壊光。
狂った犬の肉片までもを焼き尽くさんと、カームブル家の者らが凶行に及んだ――その時。
「――聞いたかい? これが彼らの答えだってさ」
『ああ』
邪悪に満ちた屋敷の中に、二人の英雄の声が響いた――!
「なにっ!?」
それと同時に降り注ぐ斬閃。屋敷の上部が砕け散り、魔を絶つ刃が全ての攻撃を斬り刻んだ。
かくして、朦々と煙が立ち込める中……二人の男が、現れる。
「――カームブル家よ。お前たちは、罪を贖う最後の機会を手放したな」
歴戦の騎士・ブラックモア。
魔導騎士団の長たる男が、漆黒の大剣を手に邪悪を睨む。
そして。
「もはや慈悲など必要ない。俺の大切な仲間を、よくも殺めんとしてくれたな……!」
新時代の英雄――クロウ・タイタス。
姫君を庇う勇者が如く、ヒュプノを背にして悪しき一族と対峙する。
「――行くぞ、ムラマサ」
抜き放たれる斬魔の黒刀。
呪われし魔剣を手に、クロウは――内心アホなことを考えながら駆ける!
「悪よ、滅びろッ!(うおおおおおおおおおおみんな見ててくれぇえええ!!! 俺が魔剣に呪われてるんじゃなく、英雄っぽく振る舞う姿をォオオーーーッ!)」
かくして雄々しき英雄(※クズ)は、新たな伝説を刻むのだった……!
※なお。
ヒュプノ「影に潜れるフィアナ支部長に情報を探らせる手もあるけど、なんだか彼女、体調が悪いとかでね。噂だとお腹に違和感があるとか」
クロウ「ほう(はえ~~。まぁ女性なら色々あるだろうな)」
・ハッピーエンドッッッ!!!!!!!!
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