51:救世主へと至る者
初投稿です!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
――クロウが部屋で泣いていた頃。
女騎士・アイリスは、己が師であるエルディアの私室を訪れていた。
「師匠……いや、エルディア……!」
火のついた暖炉だけが部屋を照らす中、アイリスは師を睨み付ける。
「よくもお前は……クロウくんの提案を、受け入れてくれたな……!」
礼節をかなぐり捨ててアイリスは唸る。
ああ、不敬罪だろうが知ったことか。立場も恩義も関係ない。最強の魔導兵装『エクスカリバー』を託してくれた感謝も、今だけは忘却の彼方に追いやる。
「私が席を外した間に、クロウくんがしてきたという提案。自分が帝王の父となって――つまり、『“王太后エルディアの夫”となって帝王を追いやり、国を平和に導く』という案を……よくも受け入れてくれたなぁ……ッ!」
そう。先ほどの食事の席で発表されたことだ。
アイリスが屋敷の警戒を行っている間に、エルディアとクロウの間でそのような取り決めが行われていた。
「なんだそれはっ、ふざけるなぁッ! そんなの……そんなのって……!」
怒りと悲しみに泣き咽ぶアイリス。エルディアの細すぎる肩を掴み、濡れた瞳で鋭く睨む。
だが。
「えぇアイリス、好きなだけわたくしを責め立てなさい。ですが……アナタはわかっているでしょう? これが、『正しき道』なのだと」
「っ……!」
エルディアは一切怯まなかった。
非難も悲哀も受け入れた上で、アイリスを見つめ返す。
「クロウさんは賢いお人……国の現状がよくわかっているのでしょうね。もはや帝国は、崩壊寸前なのだと」
深く溜め息を吐くエルディア。
彼女の耳には聞こえていた。朽ちた建物が崩れるように、国家が崩壊していく音を。
「例の黒魔導組織、『黒芒嚮団・ヴァンプルギス』により、帝都に向かって多くの魔物が雪崩れ込む事態となってしまった。これだけでももう大問題ですよ」
人々の混乱は計り知れなかった。
帝都を中心とした数百キロの領域は、『内地』と呼ばれる魔物のいない聖域だ。
四方を巨大な結界に囲まれ、これまでずっと平和を保ってきた。
世界が魔物に溢れているという恐怖など、帝都付近に住まう人々たちは完全に忘却していた。
それなのに。
「安全神話は崩されました。今はまだ暴動も起きていませんが、もしも帝都に小型の魔物が一匹でも入り込もうモノなら、はたしてどんな事態になることか……!」
エルディアの顔が真っ青に染まる。
どうなるか考えただけでも恐ろしい。クロウのような外地の者たちとは違い、内地の者らはこれまで一度も魔物など見たことがない有り様だ。巻き起こるパニックの規模は想像を絶するものになるだろう。
だというのに……。
「そんな事態だというのにッ、我が子である帝王はあいもかわらず、平民潰しを行う始末ッ! あぁ、あぁ母として考えてはいけないとわかっていますッこんなことは言ってはならないと思っていますッ!
だとしても、わッ、わたくしは……ッ、わたくしは、なんて子を産んだのか……ッ!」
「エルディア、様……!」
狂乱に髪を掻き毟るエルディア。
極限まで追い詰められたその姿に、アイリスはしばし言葉を忘れた。
ああ、彼女も限界だったのだ。愛なき婚約から産んだ子供が民衆を不幸にしていく様を、ずっと見続けてきたのだから。
「ぐぅう……そして……あの魔龍が、現れた……!」
内地に降臨した伝説の魔物『天滅のニーズホッグ』。
王族により封印されているはずのその存在の復活と討伐劇は、民衆の間に一瞬で広まり切った。
「伝説の魔龍の出現に、人々は混乱したでしょう……。加えて、それが一人の若者に討たれたことにも驚愕した。……その部分だけ抜き取れば、めでたしめでたしで話は終わるのですが……」
現実は空想劇などではない。
多くの人々が、龍を単独で討った若者・クロウの活躍にこう思っただろう。
“なんで仲間の一人も連れず、コイツは龍と戦ったんだ?”、と。
そして。
「情報通の者たちが調べていくうちに、発覚してしまいました。帝王ジルソニアは、クロウさんに仲間を作ることを禁じ、無理やり一人で龍と戦わせたことが……!」
――かくして今や、帝王への不信感はピークに達していた。
内地に魔物が入り込んでいる状況で、若者潰しを企む老害。
封印していた魔物を知らずのうちに復活させてしまった無能。
平民の出世を一切許さず叩き潰す、老いさらばえた人間の屑。
そんな本性が、民衆たちに露見してしまったのだ。
「今や国家は、内部分裂寸前です。巻き起こる混乱も考えずに王を討とうとする者や、自分が王に成り変わろうとする者が溢れている。ただでさえ例の黒魔導組織や魔物たちが闇から迫っているのに、民衆の心はバラバラです……!」
ゆえに。
その状況を、一気に覆すとしたら。
そんな手があるとしたら、それは。
「……わかっていますよね、アイリス」
「っ……はい……!」
涙ながらにアイリスは頷く。
彼女はきちんと、理解していた。
あのエルディアが、元聖剣の担い手である女が、クロウに指輪を差し出した瞬間から……もうわかっていた。
「『龍殺しの英雄』クロウ・タイタス。彼を我が夫とし、国家の象徴とすることが『最善』の道なのです……!」
その言葉に――金色に輝くエルディアの瞳に、アイリスは黙り込んだ。
かの聖剣・エクスカリバーの適合者には、強き正義の心が求められる。
そして、エルディアはその聖剣とあまりにも適合しすぎ、身体の成長が止まったほどの者である。
正しき道だと判断したなら……それが弟子の恋を散らすことになろうが、敢行できる人間だった。
「クロウさんは頭の良い方。わたくしが指輪を送った時点で、彼も国家を守るための策に気付いたはずです。……でも、もし嫌ならば冗談と受け取り、指輪を返してくれればいい話。
そんな逃げ道を残したのですが……でも、彼は」
「っ……!」
クロウはそれを、受け入れた。
アイリスから見てもクロウは賢い若者だ。どうすれば国を纏められるか気付いていたのだろう。
「クロウ、くん……」
苦しげにアイリスは思い出す。
計画が発表された食事の席で――エルディアの話に、凍り付いたようなクロウの顔を。
一見、予想外の事態に固まっているようにも見えるが、そんなことはない。アレは間違いなく『人生を捨てる覚悟を決めた男の顔』だ。覚悟を完全に固めていたからこそ表情筋が一切動かなかったのだろう。
「ごめんなさいね、アイリス。彼を想うアナタには、本当に悪いと思っています。だから……もしもわたくしを許せないなら、この場で斬ることを許します」
そう告げる師に、だがアイリスは聖剣に手を伸ばすそぶりも見せない。
斬れるわけがあろうか。エルディアがこのような策を取ることになったのは、全て国を乱した帝王のせいなのだから。
そして――愛しきクロウも覚悟を決めて、エルディアとの婚姻を受け入れたのだ。
ゆえに。
「私……アイリス・ゼヒレーテは、誓います……!」
片膝をつき、大粒の涙をこぼしながら、アイリスは言い放つ。
「クロウくんを――『龍殺しの英雄』クロウ・タイタス様を、この国の王とすることをッ!」
高らかに響く騎士の宣誓。彼女はクロウを、国家の新たな柱にすることを強く誓った。
たとえそれが――愛しき男と、永遠に結ばれないことを意味していたとしても。
なお。
「エルディア様曰く、『亡き帝王の父の座に代わってジルソニアを裁き、民衆に正義を示してほしい』かぁ。はぁ~~~~~、要するにみんなの前で年上の人叱れって話だろ? やりたくないよぉ~、気まずいよぉ~……!」
……ベッドの上を転がるクロウ。
女騎士が凄まじい覚悟を決めていることも知らず、渦中の男は凄まじく浅そうな理由で悩んでいた……!
そもそもクロウの認識は、『お父さん代わりになって帝王を叱ろうって冗談言ったら、なんか本気に受け止められちゃった!』という程度のモノである。
こいつは国家がやばいことも深く把握していないし、その事態にエルディアが限界だったことも知らなかった。
とにかくこの男、頭の出来は最底辺まで悪いわけじゃないが、『察しの悪さ』に関しては並ぶ者なき人類一位の王者なのだ。
そしてタイミングの悪さに関しても人類一位のダブルクソ二冠王だったりする。
その結果。
「ったくエルディア様ってば、冗談を冗談と受け取ってくれよ~」
……このダブルクソ二冠王は、色々と限界かつ国家をまとめ上げる道がクロウとの結婚しかなかったエルディアに、プロポーズと受け止められなくもない冗談を敢行。
こうして、エルディア側からしたら『自身の婚約者になって帝王を断罪し、国家の新たな指導者となってくれる人』と思われてしまったわけだ。
まさに地獄のような状況である。
限界国家の爆発寸前な未来を前に限界クソアホバカが限界正義マン未亡人に『どしたん? 話きこか?』とゴミみたいなタイミングでナイスコミュニケーションしてしまったことで、帝国の歴史は無駄に大きく動こうとしていた。
のちの歴史学者からしたら偉大な一歩を踏み出した瞬間かもしれないが、実際はオッサンの貧乏ゆすり並に価値のない運動行為である。
「はぁ~。若い店主がバイトのオッサンを叱ってる店に入ったことあるけど、アレはマジで空気悪かったよなぁ~……どうしよぉー……」
……こうして、国家の未来を握ることになった男・クロウはクッッッソ浅い次元で悩み続ける。
そして、ここから数分も転がったり悩んだり友達のフカシくん(※死んでる)の言葉を思い出したりした挙句、最終的にグースカと眠りこけるのだった……!
アイリス「国をまとめるために人生を捧げるなんて……救世主になる気か、クロウくん!」
エルディア「ごめんなさい……でも、アナタのおかげで国は救われます……!」
クロウ「うわ~~~ん!」← う ん こ
ここまでありがとうございました!
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