表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/64

44:苦悩の帝王

初投稿です


「アイリス、様……!」


 名を呼びながら倒れるティアナを、アイリスは優しく抱き留めた。

 ああ、柔らかな感触に涙がこぼれる。かの『白刃のアイリス』が助けに来てくれたことが夢ではなく現実なのだと、ようやく理解できた。


「なぜ、アナタがここに……?」


「あぁ、とある人物からクロウくんの危機を聞いてな」


 訊ねるティアナに、アイリスは見たこともない青色のポーションを取り出しながら答える。


「安心するといい。――王族の中にも、まともな者はいるということだ」



 ◆ ◇ ◆



 ――そして三日後。レムリア帝国の玉座の()に、半狂乱の叫びが響いた。


「きッ、聞いてないぞ宰相ッ! 国内に現れたドラゴンが、『天滅のニーズホッグ』のことだったなどッ!」


 髪を掻き毟る初老の男。

 彼こそは、レムリア帝国が支配者“ジルソニア・フォン・レムリア”その人であった。


「宰相よッ、わしに嘘の報告をしたのか!?」


 喚き散らす王へと、宰相であるスペルビオスは必死に頭を下げる。


「め、滅相もございません陛下ッ! 部下からは確かに、ただの龍だと聞いていたのですが……!」


 王を怒らせた一件。それはクロウ・タイタスの抹殺に用いた龍が、封印されているはずの『七大災禍』が一体だと判明したからだ。

 それがわかったのは全てが終わってからだった。

 黒龍が舞い降りた村の住民たちが、復興の願い出と共に報告に訪れたのだ。


 “何百メートルもの龍に襲われましたが、クロウ様が討ってくださいました”と。


 それほど巨大な存在など『天滅のニーズホッグ』に他ならない。

 かくして王は封印の地に赴き、そこでようやく禁忌の龍を封じていた術式が人為的に壊されているのを知ったのだった。


「そんな強大な化け物、(はかりごと)に使うようなモノではない。全ての国力を投じてでも討たねばならない存在ではないか……!」


 一歩間違えばどうなっていたかとジルソニアは震える。

 ……だがそれは、民草を案じての言葉ではなかった。


「アァ宰相よッ、()()()()()()()()()()()()()()()ッ!?」


 ――民のことなど、帝王にはどうでもよかった。

 大切なのは自分の命だ。尊き血を引く我が身こそ、全ての騎士を使い潰してでも絶対に護らなければいけないモノだと信じていた。

 それはある意味、王族としては正しい在り方なのやも知れないが……しかし、


「儂の喪失は国の喪失だぞッ、儂への被害は国への被害なのだぞ!?」


 喚くジルソニアの様は病的だった。

 帝王としての余裕など一切ない。王の錫杖を振り上げ、スペルビオスを殴打する。


「うぐっ!? ぉ、王よッ、なにを!?」


「煩い黙れッ! 儂を脅かす者は死ねッ、死ねッ、死ねッ!」


 何度も何度も打ち付けるジルソニア。

 玉座の間に鈍い音と宰相の悲鳴が響き続ける。


「わ、私は悪くありませぬッ! 全ては虚偽の報告をした部下のせいでっ!」


「その者は消えてしまったのだろう!? ならば上司の貴様が責任を取れッ! 王を危機に合わせたとして死刑だァ!」


「そんなッ!?」


 王杖がひときわ高く振り上がる。

 そして、その先端が宰相の頭部へと打ち据えられようとした――その時。

 

 

「おやめなさい、ジル」

 


 少女の声が、それを制した。

 びたりと動きを止める帝王。荒い息を吐きながら声のしたほうを見る。


「ぁ……貴女様は……!」


 扉を開いて現れたのは、まだ十代にもなってないような少女だった。

 されど振る舞いは堂々としたものだ。気品あふれる純白のドレスと白き髪を揺らしながら、怒れる王に歩み寄る。


「今回の一件はスペルビオスだけの責任ではないでしょう。アナタも悪いのですよ、ジル?」


「な、なんでッ!?」


「『七大災禍』がそれぞれ封じられた場所は、王のみしか知ることができない絶対の秘密とされています。それが悪意ある何者かに突き止められたのですよ? アナタの管理責任ではないですか」


 容赦ない指摘に帝王は呻く。

 これが宰相などの臣下に言われたものなら、『儂を馬鹿にするのか!』と吼えることができた。

 だがしかし、この少女にだけは強く出られない。初老の王は幼な子のように縮こまる。

 なぜなら――、


「ぃ、意地悪を言わないでくだされ、エルディアお母様……!」


 そう、彼女こそはジルソニアの実母。先代の王妃たる“エルディア・フォン・レムリア”に他ならないからだ。

 

「なにが意地悪ですか。クロウという騎士が黒龍を退治なければ、どれだけの被害が出たことか。――まぁもっとも、アナタと宰相は彼の敗北を期待していたのでしょうけど?」


「そんなことは……っ」


 顔を青くするジルソニア。咄嗟に否定しようとしたところで無駄だと悟る。

 母エルディアの見た目は七歳ほどだが、実年齢は七十にもなる老女である。

 それだけの長さを謀略渦巻く上流階級で過ごしてきたのだ。『クロウ・タイタスなる平民の男を排除する』という目論見は、完全に知られていると見てよかった。

 押し黙る帝王に、エルディアの視線が鋭くなる。


「……現代の貴族や王族がどのように生まれたか知っていますか? それは、世界に溢れた魔物たちを多く狩った者が崇められ、人々からの信頼を得た結果からです」


 場の空気が凍りついていく。ジルソニアがそう感じるほど、彼女は激怒していた。


「ああ、アイリスのように強く優しい平民が(はばか)れば、確かに貴種の価値は落ちるでしょう。

 祖先が偉業を成しただけの者と、現代で人を助けている者。民衆たちにどちらの存在がとうといかと聞けば、答えは明らかでしょうからねぇ?」


「それは……っ」


「お黙りなさい。……権威を守る為に未来ある青年を消そうとするなど、まさに老害。恥というものを知りなさい……!」


 怒れる母にジルソニアは震え続ける。

 どれだけ責められようが、耐えるしかない。

 それは相手が親だからという理由もあるが……、


「帝王ジルソニア、そして宰相スペルビオス。わたくしがアイリスに『聖剣エクスカリバー』を託したことを幸運に思うのですね。……この手に刃があったなら、首が二つ並んでましたよ?」


 血の凍るような言葉に絶句する。

 ――エルディアの出自は武家貴族の一門だ。その中でも屈指の実力者と謳われた女性であり、秘めた戦闘力は計り知れない。

 彼女の幼すぎる容姿も、かの最強の聖剣と相性が良すぎた副作用だという。


「さて……言いたいことは言い終わりました。隠居の老母は失礼しましょう」


 踵を返すエルディア。まるで彼女が王かのように、玉座の間を堂々と歩み去っていく。

 そして――その背中が扉の向こうに消えたところで、ジルソニアは「クソ……ッ」と悪態を漏らした。


「どうしてこうなったのだ……! 儂はただ、目障りな平民に消えてほしかっただけなのに……!」


 これまで何度か行ってきたことだ。

 母も流石に知らないようだが、二十年前には『鈍壊のヒュプノ』と『紅刃のカレン』という平民出の騎士を事故に見せかけて潰したことがある。

 今回もそのようにするつもりだったというのに……。


「クソッ、クソッ! おい宰相よ、貴様は嘘の情報を流した部下を全力で探せ! 儂も封印を解いた輩を探し出す!」


「はっ、はひぃッ!」


「わかったらさっさと行けッ!」


 使えない宰相を蹴り飛ばして追い出す。

 あぁ最悪だ。儂はなんて可哀想なんだとジルソニアは本気で自分を哀れんでいた。

 

「クソォ……悪さをした蛆虫を探し出す必要もあるが……それに加えて……!」


 王としての責務を果たさなければならない。

 すなわち――偉業を為した騎士クロウを、大々的に讃えなければいけないのだ。


「『マスカレイド』の連中も戻ってこんしッ、クソッ、クソッ、クソォッ!」


 苛立ちのままに王の錫杖を放り投げる。

 どうして貴き身である自分が、下賤な平民など褒めてやらねばならないのか。

 帝王ジルソニアは髪を滅茶苦茶に掻き毟った。


「平民の活躍など許せるものかッ! 一匹残らず消えてしまえ!」


 ああそうだ。貴種以外の血を引く者など全員のたれ死んでしまえ。

 たとえば、あの男のように――、 



「妾の血を引く下劣な弟、ヴォーティガンのようになァ……!」



 


最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 宰相の台詞の語尾に♡が付いてないやん!
[一言] 初投稿です?
[良い点] 今回も面白かったです。 悪役も良いスパイス
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ