26:芸術品にしてやるよ、クロウくん!
今日誕生日なので初投稿です
「――ま、街に着いたぁ……。もう野宿はコリゴリじゃあ……!」
北方都市を旅立ってから三日。俺はデッカイ袋を担ぎながら、とある街へと訪れていた。
(ここが『大狼都市シリウス』。王都を囲う、七つの街の一つか~……)
キリッッッとした顔をしつつ、内心ほげーと街を見渡す。なんか都会に来ちゃったな~って感じだ。
アイリスさん曰く、王都の周囲には七大都市『大狼都市シリウス』『賢狼都市プロキオン』『双勇都市カストル』『双愛都市ポルックス』『忠臣都市カペラ』『剛牛都市アルデバラン』『天弓都市オリオン』が存在し、王都に負けじと発展しまくってるとのこと。
そんな場所だから足元は当たり前にオール石畳だ。建物も綺麗だし街ゆく人もオシャレだし、俺みたいな田舎者には縁遠い場所だよ。
(私服で来てたら笑われまくってただろうなぁ。騎士団の服もらってよかった……)
歩きながら、ショーウインドウに映った自分の姿をチラ見する。
上着にしている白い団服。これの権威はすごかった。
まず、街に入るのにほとんど顔パスだ。非常時なためにピリピリしている憲兵さんたちも、この服を見るだけで『騎士様ですか! へへ~どうぞ街へ~!』と超低姿勢になった。
簡単な持ち物検査はされたが、それだけだ。魔導騎士とはそんくらいすごい存在なのだろう。
(街の都会人さんたちも、俺の側を通るときは目礼してくるくらいだからなぁ。それに……)
あとこの服、機能面もものすごい。
研究者のヒュプノさん曰く、『巨大蜘蛛の魔物アラクネの糸から出来てるから、普通の服とはわけが違うよー』とのこと。
いや実際にその通りだ。頑丈だし、通気性抜群だし、あと汚れが勝手に落ちたり破れても少しづつ直ったりと、もう機能が盛りだくさんすぎだってばよ。すごいねー。
(一部の魔物は、分泌物や身体の部位が色んな事に役立つんだよなぁ)
それに比べて……と、俺は腰に差した陰険横暴ソードのムラマサくんを見た。
あのさぁムラマサくん。ちょっといいかい?
(魔物たちだって社会に貢献してるのに、ムラマサくんはその点どうなのかなぁ? いつも魂目当てに暴れるばかりじゃないですか。そんな人生ってどうかと思いますよ?
だからムラマサくん、もう荒事はやめましょうよ。俺の身体を好きにしていいから、地道に働くとかさぁ……)
――黙レ! 我、主人!!! 貴様、肉奴隷! 指図禁止!!!――
(ってハァァアアアアッ!? 誰が主人で誰が肉奴隷だ殺すぞテメェ!!!!!!!)
調子乗りすぎなクソゴミソードに俺はキレた!!!
この野郎、俺が説法してやったのにマジでふざけやがって!
もういい決めたッ、この暴虐邪智なるウンコソードを道端に落ちてる犬の糞に突き立てて街のオブジェにしてやるッ! 題名は『社会不適合者の末路』じゃ覚悟しろ!
―貴様ッ!―
(うおおおおお前に支配される前にお前を芸術品にしてやらぁッ!)
かくしてムラマサをウンコオブジェにせんと、俺が怒りの高速抜刀をした……その瞬間、
「――ひゃぁっ!?」
後ろからビクついた声が響いた。
振り返れば、そこには薄桃髪の女の子が。
「ちょっ、アタシは敵じゃないわよっ!? その凶悪なのしまってよ!」
女性用の団服を纏っていることから、この子も魔導騎士らしい。彼女は手をばたばたとさせながら、「こっそり近づいて悪かったわよ!」と叫んできた。
(え、こっそり近づいてた? ……そんなの全然気づいてなかったんだが)
俺がムラマサを抜きかけてたのは、道端のウンコにぶっ刺そうとしてたからだ。
どうやらそこを勘違いさせてしまったらしい。こりゃぁ失礼しちゃったぜ。
「すまない、驚かせてしまったな」
漆黒の刃を鞘へと納める。それでようやく女の子も落ち着いたのか、胸を撫で下ろしつつ俺へと向き合ってきた。
「ふぅ……六級騎士の分際で、なかなかイイ勘してるじゃない。アンタがクロウってヤツでいいのよね?」
「む、なぜ俺の名を?」
「噂になってるからよ。あの『白刃のアイリス』の弟子だっていう黒髪騎士が現れたってね」
おうふ。いつの間にやら俺の個人情報が流通していた。
俺の知らない相手が俺のこと知ってるってなんか変な感じだねー。恥ずかしいってばよ~。
――そんなことを考えつつ顔はキリリッとさせてる俺に、桃髪女の子は指を突き付けてきた。
「というわけで、ついてきなさい後輩。このティアナ先輩が、支部まで案内してあげるわ!」
いくわよ、とズンズン歩きだすティアナさんとやら。一方的だけど道案内はありがたいぜ。
なんでこっそり近づいてたのか謎だけど、いい人に会えてよかったねー!
◆ ◇ ◆
「――試験も受けずに騎士になるとか生意気ね。いじめてやろ!!!」
高らかなクズ発言が街へと響く。
この日、五級騎士ティアナはご立腹だった。
それは今朝がた、とある噂を耳にしたからだ。
曰く、最強の女剣士『白刃のアイリス』が辺境に作っていた隠し弟子が騎士になったとのこと。
曰く、彼女の弟子ということで、厳しい試験を一切受けずに入団したとのこと。
曰く、鳴り物入りで入団したものの、実力はそこまで高くないため、最低の六級騎士スタートとのこと。
そして、その人物は黒髪の青年で、柄まで黒い刀を装備しているとのこと。
それらの噂を聞いた瞬間、ティアナは強く決意した。『要するにその黒髪野郎はコネ入団のゴミクズだ。このティアナ様がいびり倒して教育してやろう』と。
「本当にムカつくわね。アタシなんて、三回も入団試験に落ちたのに……!」
魔導騎士になるための試験は極めて過酷だ。武器を持った状態で何十キロも走らされたり、実際に魔物の群れと戦わされたりと、命を落としかねない内容になっている。
それを『師匠が有名だから』という理由でパスしていいのか? ふざけるな。
「決めたわ。例のクロウってやつ、毎日こっそり背中に唾とか引っ掛けてやる……!」
ムカつくムカつくと呟きながら、ティアナは街の門へと向かう。
――現在、レムリア帝国は危険な状態にある。四方都市の内の三つが崩壊し、内地に魔物たちが侵入を果たしたのだ。
それらを駆除するために、ティアナのような下級騎士は街の周辺を毎日探索させられていた。
門の近くまで来たところで、彼女は意識を切り替える。
「さぁて、クソ野郎のことは一旦忘れてお仕事っと。……といっても、このあたりってあんまり魔物いないのよねぇ」
まぁラクだからいいけどと、その件について彼女は深く考えていなかった。
――実際はある男が狩りまくっているからなのだが。
「平和なのに越したことはないしねぇー……って、んん?」
と、そこで。
門から出ようとするティアナとは逆に、街へと入っていく騎士とすれ違った。
――その漆黒の頭髪を見てハッとする。まさか今のが例の騎士では、と。
「黒髪なんて珍しいしね。千年前はありふれてたそうだけど」
千年前の高濃度魔力流出以降、魔物化しなかった人類にも一つの変化が訪れた。
それは髪や瞳の色が、ありえない色へと変化したことだ。ティアナの薄桃色の髪も、当時からしたらファンタジーでしかなかったモノとされている。
これもまた、幻想を現実化する魔力の影響なのだろう。
「柄まで黒い刀も持ってるし、間違いないわ。アイツがクロウってやつね!」
そう確信してからの行動は早かった。
ティアナは自慢の忍び足を使い、コソコソとクロウの背後に近づいていく。
(ふひひひ。下級騎士の主な任務は雑魚狩りと探索。強い魔物を見つけたら、気付かれずにこっそり逃げて、中級以上の騎士になんとかしてもらうことだからね)
そのために鍛えた隠形技術を使い、音もなく接近するティアナ。
(さぁ、これからどうしてやろうかしら。背中に唾をかけてやろうか、耳をガブッと噛んで痛がらせてやろうか、それとも髪をワシャワシャにして困らせたり!?)
痛めつけるアイディアが止まらない。自分はこんなに悪女だったのかと、ティアナは背徳感に酔い痴れる。
かくして彼女が、いよいよクロウの背後にまで迫った……その瞬間、
「――ひゃぁっ!?」
……気付いた時には、彼は刃を抜いていた。
それと同時に叩きつけられる怒気。まるで怨敵を地獄に堕とさんとするような気が、クロウの背中から放たれていた。
(ひぃいいっ、なにこいつ!? なにこいつっ!?)
ティアナの心臓が早鐘を打つ。恐怖によって腰が抜けかける。
(何よ……大したことない六級騎士って話なのに……!)
音もない忍び足に当たり前に反応したこと。
気付けば刃を手にしていた一瞬の抜刀術。
そして、身の竦むような怒りのオーラ。
――これが六級騎士なわけあるか!
(こ、殺されるッ! 敵と間違われて殺される!)
そう判断する約一秒。ティアナは漆黒の刃に震えながら、「アタシは敵じゃないわよっ!?」と叫ぶのだった。
いじめて教育する作戦、大失敗である。
――こうしてティアナは、実は目の前の男が『この陰険ソードをウンコに突っ込んでやる!』とIQ3なことを考えてブチギレ抜刀したことも知らず、ただの先輩として振る舞うことになったのだった。
・新ヒロイン(ちょい馬鹿でクズ)登場!
主人公(馬鹿でちょいクズ)とのラブロマンスにご期待ください――!
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