2:無駄な伝説の始まり
まだ2話目なので実質初投稿です!
「滅びちゃったなぁ、俺の故郷」
一年前のある日のこと。俺は避難してきた隣村の河原で、ぼけーっと空を見上げていた。
――時は西暦3000年。人類はまぁまぁピンチだった。
凶悪な生物『魔物』が跋扈し、毎日人間をパクパクしていたのだ。
俺の村もアイツらに襲われたよ。クロウくんもちょっと食べられた。
ちなみに世界がこうなった原因はあれだ。
千年くらい昔、当時の科学者たちが見つけた未知のエネルギーのせいだ。
いわゆる霊感の強い者が最先端光学顕微鏡を通すことでしか見ることができず、どこから湧いてくるのかも謎のエネルギー。
その不思議すぎる性質から、科学者たちはこれをファンタジーの代物『魔力』と名付けた。
化石燃料の不足に喘ぎ始めていた人々は、一斉に魔力の研究を開始。
結果、数年ほどで電力に代わる利用法を発見し、さらには増幅法まで生み出したのだった。
景気のいいニュースに世界は沸いた。
これで未来は安泰だ。
エネルギー問題が解決すれば、今後戦争が起こることもなくなるだろうと。
――だが、そのお祭りムードも長くは続かなかった。
ある時、世界中の大規模魔力増幅所で事故が発生。
高濃度にまで濃縮された魔力が職員たちに降りかかった瞬間、彼らの肉体は変貌した。
日本人は『鬼』に、アメリカ人は『ゾンビ』に、イギリス人は『ヴァンパイア』に――各国における幻想生物の代表格となり、暴走を開始したのだ。
彼らによって増幅所は破壊され、超高密度の魔力は世界中に流出。
牛は『ミノタウロス』に、豚は『オーク』に、鶏は『コカトリス』に、その他の生物も空想の化け物に変貌した。
こうして社会は崩壊した。魔力による人の怪物化と、のちに魔物と呼ばれる変異生物たちの暴虐により、人口の97%が失われることになった。
それから千年。魔力を浴びても変異しなかった極一部の人間たちは、同じく変貌を免れた家畜を連れて僻地に潜み、細々と息を繋いできた。
ほとんどの科学技術は失われ、中世レベルに文明は墜ちた。
それでも人々は、魔力を原動力とした武器『魔導兵装』を開発し、魔物たちに対抗。
近年では各地に国を興し、人類の権威を取り戻そうと奮闘していた。
まぁだけど、
「世界がどんなふうになっても、悪いヤツはいるものだよなぁ」
村人たちを襲ったのは魔物だ。だが、それを率いていたのは人間だった。
魔導兵装を悪事に使う者『黒魔導士』が、調教した魔物たちと共に村を襲撃したのだ。
その結果、村人たちはほとんど死亡。
どうにか逃げ延びた俺は、隣の村に受け入れられることになった。
そして今は――『故郷を失った傷心の青少年』ムーブで、三日ほどニート生活していた。
うん、実は立ち直れないほどには傷付いてないんだよなぁ……!
「……俺、そんなに故郷に思い入れないんだよなぁ。両親も親戚もいなかったし、さらには友達も恋人もなかったし……!」
うぅ、なんか別の意味で傷心してきた……!
同世代の連中、みんな俺のことを遠巻きに見るばかりだったんだよなぁ。
たまーに話しかけてくることはあっても、すげーぎこちなくて『気を遣って話してやってる』感がすごかった(特に女子)。
「でもしゃーないかぁ。俺、コミュ障で無口で仏頂面だからなぁ」
年配の者たちからは『大人びてる』と言われていたが、違うんすよ。緊張してただけなんすよ。
襲撃の日にも同世代連中に(ぎこちなさそうに)遊びに誘われたけど、忙しいからって断っちゃったしなぁ。
実際、両親のいない俺は近所のチビどもを世話する仕事で生計を立てていたため、その日も仕事が入ってた。
「暗くてノリも悪いやつに友達なんてできるわけないか。ついでに、このへんじゃ珍しい黒髪だしなぁ。変な目で見られてるんだろうなぁ……」
ともかく俺は天涯孤独だったことに加え、日頃からこんなこともあるだろうと思っていたため、そこまで傷付いていなかった。今の世界じゃ、農村が襲われるなんて日常茶飯事だからな。
特に俺はビビリだから、みんなよりも人一倍覚悟していたさ。
いざという時に備えて逃げ足を鍛え、身を潜めやすい逃走ルートも考えていた。
おかげで生き延びることができたよ。
――村のチビどもと、同世代連中を連れてな。
「俺は一人で逃げるつもりだったんだけどなぁ……」
黒魔導士と魔物の群れが現れた時、俺は『今来るなよ!』って心の中で叫んだ。
ちょうどその時、チビどもが全身にしがみついていた最中だったからな。
襲撃者たちを前に泣き叫ぶチビども。当然しがみつく手に力が籠もり、振り落とすことができなくなってしまった。
「んで仕方なく、その状態で死ぬ気でダッシュして……」
近隣の森を突っ切った。
逃走ルートとして定めていた通り、木々の間をくぐり、斜面を滑り、こっそり掘っていた抜け穴を駆け、しれっと用意していた罠を踏ませて全力で逃げた。
……なお、その途中で同じく森に逃げていた同世代連中と遭遇。
一瞬こいつらをおとりにしようかなと思ったが、チビどもを預けたら身体が軽くなることに気付いた。
んでそっからはそいつらも連れて、俺はどうにか無事に逃げ延びたのだった(※いや無事じゃなかった。みんなには秘密にしているが、お尻に魔物の牙が掠めた。逃げる過程で泥まみれになってズボンの穴に気付かれなかったのはよかったけど、めっちゃイテェ)。
「さてと……ケツの傷はまだ疼くけど、『故郷を失った傷心の青少年』ムーブは潮時かなぁ。明日からは働くかぁ」
う~んと背伸びをしながら立ち上がる。
俺も来年には18だからな。他の連中と違って親類を亡くしたわけじゃないし、いつまでも遊んでたら疎まれるだろ。
「そういえば生き残った連中、やっぱり俺のことを嫌ってるかなぁ。一人だけ逃走ルートを用意してたことがわかっちゃったし……」
隣村の人たちに、悪口を吹き込まないといいんだが……。
そう思いながら河原を立ち去ろうとした時だ。
ふと、河の端っこに棒状のナニカが引っかかっていることに気付いた。
なんだなんだと近づいてみる。
「ってこれ……もしかして剣か?」
引っかかっていたソレは、漆黒の鞘に包まれた剣だった。
細くて薄い珍しい形だ。たしかこういうタイプの剣のことを、大昔の極東で『カタナ』と言うんだったか。
切れ味がすごくてカッコいいらしい。『芸術品のように美しい刀身をした、とても貴重な武器なんだ。まぁウチには百本あるけどね』って近所のフカシくん(※助けた中にはいなかった。たぶん死んでる)が言ってた。
あいつ嘘吐きすぎだろ。
「どれどれ、実際に見てみますか……!」
さっそく例のブツを拾い上げ、長い鞘に手をかける。
はたしてどんな刀身をしているんだろうか。これで芸術品のようだって話まで嘘なら、フカシくん(※故人)の地獄行きが確定してしまう。
ま、河に落ちてたもんだし錆びてるかもだけどな。
「とりあえず、抜いてみて……っとッ……!?」
そして、次の瞬間。
光さえも映さないような、ベンタブラックの刀身が露わになった瞬間。
俺の内部に――『魂』と呼べる場所に激痛が走った。
「ぐぅっ!?」
まるで刃に貫かれたような感覚だ。
もはや立ってはいられない。あまりの痛みに、俺はその場に倒れ込もうとして……そこで気付いた。
「か、身体が動かない!?」
脳は『膝をつけ』と命令しているのに、足は不動のままだった。
それどころか、背筋がまっすぐに伸びる。全身の筋肉がよどみなく張り、地面の踏み方までもが変わる。
まるで、一流の武人のような立ち姿に変貌する。
「一体、なにが……ってうわぁっ!?」
疑問を口にする暇すらなかった。
俺の足が、全速力で駆け出したからだ――!
「なっ、なんだこれぇ!?」
足の筋肉が勝手に動く!
自分でも出したことのない速度で、村に向かって突っ走っていく――!
「どどどっ、どうなってんだこれぇー-!?」
――こうして俺は漆黒の刃を手に、大騒動を巻き起こすことになるのだった……!
次回、他者視点とちょいバトルです!
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