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9:新しい職場

「……よし」


 朝日が入り込む新しい俺の部屋。

 少しよれたシャツに着替え、その上に昨日閣下からもらった制服のローブに袖を通して、鏡を見てみる。


 ……相変わらず地味だな。髪色は黒茶で、目の色もその色だ。

 この世界の人は自分の中に流れる魔力の属性に、特に目の色が引っ張られるから仕方ないが。

 この外見の地味さは土属性が人気のない属性の一つと言えよう。

 魔導士の多くは血筋で産まれてくるものだし、その多くは貴族の血筋ばかりだ。

 見栄を張る必要がある貴族にとっては余計にそうだろう。


 それに、魔力のない一般人と見分けが付きにくいのは問題だ。

 俺だってローブを着ていないと魔術師と思われない事が多い。


 鮮やかでもない、地味な色。

 おまけに魔力なしの人間と変わりない見た目に、役には立たないと言われる魔法……好かれない要素ばかりだ。


 だから産まれた時点で別の属性に矯正させていくのも分かる。

 近年の土属性使いの減少はしょうがないと言わざるを得ない。

 むしろ、俺以外にいるのかってレベルでもはや絶滅危惧種だ。

 矯正すると他の属性を扱えるようになるけど、能力的には低くなるんだけどなぁ……。


「でも、閣下のあの色の鮮やかさを見るとそうするよなって納得できちまう……」


 これ以上考えても無駄なことだな。俺は考え事をやめて部屋を出た。



 今日は赴任して初めての仕事日だ。俺は階段を降りていき、場内にある広場に向かった。

 毎朝そこで朝礼を行っているらしく、今日から俺もそこに顔を出すように言われているのだ。


「おはようございます、レイナルド閣下」

「ロシュ、おはよう」


 その道中でレイナティア閣下に出会った。

 表向きはレイナルドという名前のため、俺はそっちの名前を呼んでおいた。


 そうやって出会って、二人してあいさつをしたのだが……すぐに気まずい空気が降りてしまった。

 なにせ、昨日俺はこの人の裸を見てしまったせいで、どんだけ頭の隅にやろうと出てきてしまう。

 向こうもそれは同じだったようで、ちょっと赤い顔をして目をそらされた。


「……ロシュ、いい忘れていたが、昨日のことは忘れてくれないか?」

「それは……俺が記憶喪失にならない限りは無理な相談だな……」

「なるほど、じゃあ殴ればいいだろうか?」

「本当にやろうとするなよ!?」


 絶対記憶喪失で済まないって。頭がもげるって!


「……冗談だ」

「全く冗談に聞こえなかったんだが……」


 安堵の息をはく俺を見て、くすくすと閣下が笑っている。


「どうして笑うんだ……」

「いや、君は図体がしっかりしているし、優秀な魔導士だ。それでも私を恐れるのだな、と」

「流石に英雄には勝てないからな。……そっちも、こういうのは気にするんだな」

「女であるということを、完全に忘れているわけでもないからな……」


 ……ちょっとだけさっきの気まずい空気が取れた気がする。


「ま、私程度の裸なら、君はすぐに忘れてしまうか……」

「いや、それはないと思うぞ? なにせあんなに綺麗な体だったんだから……」

「……え?」

「あ、いや、変な意味じゃないぞ! 彫刻とか絵画のような、そういう綺麗なものを見た時の感動というか……よく鍛えているからこの美しさになるのかとか……そういう気持ちでだな……!」


 ――やばい。うっかり、閣下の言葉に反射的に返してしまった。

 慌ててフォローといっていいかも分からない言葉も言うが、こんな話をすること自体不敬ではないだろうかっ!?


「…………そ、そう言われると、それはそれで恥ずかしいのだけど……」


 レイナティア閣下が今度は耳まで真っ赤にして、顔をそらした。


「ええっと……悪い」


 ――さらにやばい。なんか別の気まずい空気が流れてきたんだが。

 こういう時ってどうすればいんだよ。


「ええと閣下、この話はここまでにしよう。ここは廊下だしな」

「……そうだね。それにもうすぐ朝礼の時間でもある。早く行こう、ロシュ」


 結局俺たちが選んだのは、これ以上傷口を広げないかのように、話を終わらせることだった。

 実際に朝礼の時間も差し迫っていたのだから、仕方ないことだ。うん。

 俺たちはぎこちなく笑い合いながら、朝礼の場所に向かっていった。



「彼は新しく私の専属魔導士となった、ロシュだ」

「ロシュ・エイダンと申します。よろしくお願いします!」


 城の中の広場。多くの騎士たちが立ち並ぶ前で、俺は閣下に紹介されながら、挨拶をした。

 ……おお、精悍で強そうな騎士ばかりだな。

 王族の近衛騎士団、それもレイナティア閣下が団長を直々に務める騎士団だ。

 先の戦場でも閣下と共に活躍した精鋭たちだ。


 まぁ戦争時と比べて団員は減ったらしい。

 それというのも、閣下の元から少しでも兵力を削ぎたいユリアン陛下側の思惑が絡んでいたようだ。

 ユリアン陛下はレイナティア閣下をとても恐れているようだな。

 でも、殆どはレイナティア閣下の元に留まったようだ。

 世間では放蕩王子と閣下は呼ばれているが、騎士たちにとっては国王の命令を無視してでも付いていきたい上司らしい。


 そんな忠誠心のある騎士たちが俺に向けて、挨拶を返すように一斉に敬礼をしようとした時だった。


「魔導士を雇うなんて……本気ですか、団長」


 いかにも不満そうな声が一団の中から聞こえてくる。

 ……あれって、もしかして獣人か?

 服装は他の騎士たちと同じだが、頭の上には狼の耳、そしてしっぽも警戒するように立てている赤毛の狼獣人の少女だった。


 獣人族というのは大陸全体を見ても、けして珍しい種族というわけでもないが、この国にはほとんどいない。

 だから俺は獣人を見るのは初めてだな。


 というか、よく見たら騎士の中には他にも獣人族が混じっているな?

 そんな赤毛の狼少女はさっきから俺のことを睨んでいる。……なんでだ?


「魔導士なんて必要ありません。我々だけで結構です! さっさとクビにしてください!」


 着任して早々に、職場の新しい同僚からクビにしろと言われてしまった……。




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